• 組織開発(OD)に欠かせない哲学~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊲~

組織開発(OD)に欠かせない哲学~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊲~

~哲学は自分たちの言葉になっていること

組織開発(OD)の実践では、具体的なアプローチの事例や方法論について述べてきましたが、今回は基本的な組織運営の考え方(哲学)の大切さについて述べてみたいと思います。

組織開発(OD)は、「1.人間尊重の価値観、2.民主的な価値観、3.クライアント(当事者)中心の価値観、4.社会的・エコロジカル的システム思考性」という価値観をベースに成り立っている「価値観ベースの実践」と言われますが、今回はもっと“ベタ”な、その組織のトップがどのような組織観をベースに組織(会社)を運営していこうとしているのかに焦点をあててみたいと思います。

別の見方でいえば「トップのキャラ」はどうなのよ、という視点です。これ抜きでは「組織の開発」ができないからです。因みに、みなさんの会社ではどのような価値観や哲学があるでしょうか?

 

例えば、昔ある証券会社では「数字こそ人格である」という格言が信じられていた時代がありました。鬼十則っていうのを持っている(た?)会社もあります。今では、評価はいろいろ分かれるでしょうが。

私がキャリアをスタートさせた会社では、「パオ経営」とか「ゴキブリ経営」という言葉がありました。また、組織を「BigTで運営する、つまり組織という大規模集団をTグループのように運営する」とかいうのもありました。

で、「パオ経営」ですが、これはモンゴルのパオに由来する言葉です。本場モンゴルではゲルと呼ばれているようです。日本では、中国語の呼び名に由来するパオ()という名前で呼ばれることが多いようです。主にモンゴル高原に住む遊牧民が使用している、伝統的な移動式住居のことです。ポイントは「移動式住居」という事です。会社も遊牧民と同じで、一つのマーケットに固執してはマーケット(顧客)と共に滅びていく、だから逃げる準備をしておくことは大切なんだ。という考えです。なるほど!そうなんだ。(逃げるは恥だが、役に立つ???)

じゃ「ゴキブリ経営」とは? ゴキブリは太古の昔から存在しており「生きている化石」とも言われています。で、このゴキブリ、触角を使って危険があればそれを察知して「サッサッサッ~~~」と逃げていく(ここでも逃げるかい( ´艸`))。もちろんおいしそうなエサがあるとそこに素早く集まる。これが大事なんだと。だから生き残れる。要するに「機を見るに敏」でなければだめよという事です。今風に言えば「アジリティ:Agility」です。

BigTでの組織運営とは、その人の「あるがまま」を認める経営であり、個々人の主体性や自主性を重んじるということ。組織は形をつくってもうまく機能するわけではない。個人が大切であるという考え方です。

他には「研究開発部門はつくらない」とか。これは、一人ひとりが開発機能を持っていなければ人は生きていけないという考えに基づきます。中央が開発をやり、末端は実施するだけでは個の成長はないということです。もちろん、当時の最先端の人材開発や組織開発の仕入れはトップのコネクションで仕入れていました。日本の大学が呼べないような先生をアメリカやヨーロッパから呼んでいましたね。

さて、この会社は、「人材開発や組織開発」をサービスするコンサルティング会社です。現代でもそうですが、コンサルタントという仕事はクライアントの前では基本的に一人で仕事をするのです。クライアントから質問を受け、あるいは問題解決中に「ちょっと分かりません。帰社して調べてお答えします」では、役に立たないのです。特に組織開発(OD)というプロセスを扱うコンサルティングでそんなことをやっていた日には信頼がた落ちですから。

誤解なきように言っておきますが、ここまで述べた「考え方・価値観」を別に賛美しているわけではありません。大切なことは、我社のビジネスは何か? どのような事業環境の中でビジネスを展開しているのか? そんな環境の中で最大限のパフォーマンスを発揮する組織とはどのような組織なのか? という「Why」をしっかり探求することがとっても大事なんだという事です。それも、借り物ではなく「自分たちの言葉」で表現されることが大切です。でないと、「わが社の物語」にならない。

~自分たちに備わっているパワーに目覚める

ホラクラシーだ、ティールだというような「流行りの組織論」にふらふら~~~と行っちゃうのは、あんまりよろしくないのですよ。ホラクラシーもティールも凡人には厳しい組織ですからね。特にティール組織など、これまでの生活でコントロールに慣れた人からすると「無秩序」に思えるかもしれません。「社長は何もしてくれない」と感じる人もいるでしょう。

しかし、コントロールを望む人たちがもっとも学習しなくてはならないことは「混沌とした中で何かを主体的に発見し、意思決定し、行動に移す」という思考と行動です。これがないとこれからの社会生活やビジネス環境の中で生きていくのがとても難しくなるでしょう。今日的な競争環境の中では、世界は好むと好まざるとに関わらず変化しています。私たちは、その変化に主体的に関わっていかなくてはならないのです。いつも誰かの庇護下や風下にいて、受動的に行動していることを選択したいのならそれでもかまいません。

しかし、そこに「私の主体性」は存在しません。その場合、どのような環境に置かれようともそれを受容せざるを得ません。しかし、「私が私でありたい」と望むなら、あなた自身が環境をつくっていくことが必要です。そして、そのような力は私たち一人ひとりに備わっているのです。ひょっとしたら、それに気づいていないだけなのかもしれません。

 

NHKに逆転の人生という番組があります。今年7月初めの放送は、埼玉の産廃業者の逆転人生でした。この主人公は、創業者のお父さんから社長業を、ある意味分捕った長女の女性社長です。背景は、ダイオキシン公害反対の地域住民の「産廃業者出ていけ運動」です。気持ちを折られた父親に代わって「私に経営をやらせて」といった二代目社長ですが、事はうまく運びません。そもそもこの二代目、もとはと言えば父親の仕事が「ゴミ屋さん」とか呼ばれ、それが嫌いでネールアートの仕事をしようとしていた人です。社長交代当時は同社の総務の仕事をしていました。

社長を始めていろいろな改革をしようと試みるのですが、社員の半分は退社していくし、住民からは訴訟を起こされるし、県に申請したリサイクル型工場は訴訟問題もあり認可が下りないし、そんなこんなで、万策尽きようとしていたのです。この地域、うっそうとした森が至る所にあるのですが、ある日そこに入ってみると「不法投棄」がまかり通っていたのです。

何とかしようとして不法投棄のごみを片付け始めたのですが、住民からは「それはあんた達が捨てたんだから、片付けるのは当たり前」というように言われる始末。そんな時に、二代目社長は、なんでここはこんなに森が多いのかをふと考えたのです。それがきっかけでいろいろ調べていくと、実はこの森、ここにいる人たちが昔から自分たち自身で手入れして保水を整えるなどしてきた人工の森だったのです。つまり地域住民の多くを占める農家が長い歴史の中で作りあげてきた里山だったのです。

そうした農家の思いが分かると、彼らがなぜ反対しているのかその心情がとてもよく理解できたのです。そして、不法投棄物を回収することにもっと大きな意味を見出すことができたのです。それが、この産廃処理会社の存在意義を深く考えることにつながったのだそうです。今では、地域住民と協働して地域の整備をしているし、里山の保全と育成を一緒にしているとのことです。

これは、組織開発(OD)の事例ではありませんし、そして所謂OD的なアプローチもしていません。でも、一番大切な組織の存在意義(Why)を探求する事例としてはとても参考になるのではないでしょうか。

 

      この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。