• 研修とODって別のことなの?② ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-138~

研修とODって別のことなの?② ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-138~

組織開発(OD)の実践では、アクションリサーチという進め方が土台となります。アクションリサーチは、診断と介入が混然一体となって進んでいく問題解決プロセスです。診断は、結果の診断とプロセスの診断がありますが、組織開発(OD)で重視するのはプロセスの診断です。つまり、集団や組織で何が起こっているのかを探り、そのデータを基に当事者自身が問題解決に臨みます。今回から数回に分けて、当事者参加のワークショップ(研修)を組み込んだ組織開発(OD)の実践を紹介していきます。

事例となる組織をA社としましょう。A社は130名程のメーカーです。製品は受注型製品であり、会社は設計から販売までを自社でやっています。市場が爆買いで伸びていた当時、

設計部門に中途社員を採用するなどして、受注量を拡大しようとしていましたが中々うまくいかない状況が続いていました。そのような中で、長年お付き合いがあった会社からの紹介でA社の社長にお会いし、支援が始まりました。

社長の問題意識は「会社の永続性の為に若返りを目指して設計部門の中途採用を増やしてきたが、マネジメントが不十分であり、多くの人たちは個人的行動が強く、協働して事に当たるということができていない。また、そういった人たちを束ねる管理者の不在も大きく、親会社から管理者人材のスカウトをしたがそれだけでは十分ではない。受注拡大が見込める中、設計部門に対してマネジメントのテコ入れをしていく必要がある」というものでした。

このような社長の問題意識の背景には、組織がうまく回っていくにはリーダーたる管理者の管理能力が鍵であるという考えが垣間見えます。もちろん、管理者の管理能力は健全で生産性が高い職場チームをつくっていく上で大きな要素となります。ですから、管理者研修は重要な人材開発における研修テーマになっています。ただ、社長としては研修を実施すれば問題が解決するとは考えておらず、どのようなやり方をすれば問題解決に繋がっていくのか思案しているということでした。そこで、お話を伺った私たち(外部コンサルタント)としては、設計部門のメンバーが状況をどのように見ているのか、また他の部門は設計部門をどのように見ているのかということを把握する目的で、当事者へのインタビューを提案しました。インタビューは設計部門だけでなく、営業・資材・生産部門にも実施しました。

インタビューの結果から分かったことを社長に報告し、引き続き設計部門の生産性向上の

取り組みを支援することになりました。取り組み方法については、外部コンサルタントとして改善方法を提案し、それを設計部門がやれるようにするという方法ではなく、データフィードバックと対話という方法を採用することにしました。

データフィードバックと対話による問題解決という方法

読者の皆さんは、組織開発の方法論に、「診断型組織開発」と「対話型組織開発」という分類があるということをご存知の方々も多いと思います。G.ブッシュとR.マーシャックによる「対話型組織開発:2018」の中で提案され、組織開発アプローチの違いを説明するために使用されている用語です。G.ブッシュとR.マーシャックによりいろいろな違いが説明されていますが、最も大きな違いはその基本姿勢にあります。診断型組織開発は「実証主義であり、客観的事実を重視する」ものです。一方で対話型組織開発は「解釈主義であり、現状認識は関係者の認知に左右され、権力と政治的プロセスの影響を受ける」というものです。

データフィードバックと対話による問題解決という方法は、この2つの方法の良いとこ取りをしたものです。どのようなことかというと、今回のA社のように設計部門のチームワークや管理者のマネジメントおよび他部門との連携というテーマを扱う場合、現状に対するインタビューを第三者である外部コンサルタントがいろいろ解釈して解決方法を提示し、それを当事者が実施するという方法は問題解決においてほとんど効果がありません。

R.ハイフェッツ(ハーバード大学教授)が言うように、問題がこれまで培ってきた知見により解決可能な技術的問題であり、その解決には正解があり、その正解を如何にして実施すればよいかという場合であれば、外部の専門家の指導による問題解決が適切であり、かつ問題を抱えている当事者にとっても学習になるでしょう。ところが、関係性の問題解決において大切なことは、ほとんどの場合、原因と結果の関係が不明確であり、当事者自身が起こっていることをどのように解釈するか、そしてその解釈の根底にはどのような価値判断基準が働いているかを自分たち自身で吟味検討することが大切なのです。とはいっても、いきなり「自分たちの状況を当事者の対話の中で解決しましょう」といっても、当事者はそのようなことに慣れておらず戸惑うことになってしまいます。ですから、何らかの話し合いのきっけが必要なのです。それが、インタビューデータです。この場合、外部コンサルタントの役割としては、最初に報告する社長に対してはインタビューから推論できる課題と解決の道筋を提示しますが、当事者であるクライアントに対しては、当事者にデータを読んでもらい現状に対する認識を共有してもらうということから始めます。例えば「私が感じていることを他の人も感じている」とか、「他の人は私とは異なる意見を持っている」ということを認識してもらうことです。その上で、何を話せばよいのかのテーマが抽出されます。このプロセスの中で重視すべきことは、当事者が外部のコンサルタントあるいは内部支援者に問題解決を依存するのではなく、当事者である自分たち自身で問題を解決していくことが大切であるというマインドセットをしてもらうことです。(続く)

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です