• 人が持つ感情の力を活かす~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㉕~

人が持つ感情の力を活かす~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㉕~

~感情的であるという事はマイナスなのか~

ビジネスの世界や会社では、感情を露わにすることはあまり好ましいことではないといわれます。企業内教育訓練の世界でも「論理力向上研修」はあっても、「感情力向上研修」はありません。どうしてでしょうかね?

ある調査で、女性上司が好まれない理由として「感情的である」というのがありました。その調査によると、興味深いのは、男性よりも女性の方が「上司の性別にこだわる」人が多かった点です。女性からみて男性上司を好む人が32.4%と、同性である女性上司を好む割合に比べて26%近くの女性が異性である男性上司を好む傾向にありました。

もちろん一番多かったのは「性別は気にしない:男性75.8%、女性61.8%」ですが。

(出典:株式会社キャリアインデックス、女性が活躍する社会の現状を調査、回答者515名)

このデータをここで引用しているのは、男性が論理的であることを証明するためでは、もちろんありません。120%違います。<(_ _*)>

ではなく、やっぱり感情的という事は望まれていないのですね。ということです。

ところが近年の調査や脳科学研究からわかっていることは、「感情が理性的判断の下地を作る」という事実です。感情的な情報インプットが生み出す「動機づけ」や「目的」がなければ、効果的な意思決定は不可能なのです。

脳神経科学者アントニオ・ダマシオ氏の患者「エリオット」を例に取りましょう。有能なビジネスマンだったエリオットは、脳腫瘍を切除するための外科手術を受け、前頭葉と感情を結びつける脳の「眼窩前頭皮質」という部分を切除されました。その結果エリオットは感情が欠落した人間になってしまいました。しかし、感情を持たないからといって、一分の隙もない論理的な人間になったわけではなく、むしろ決断を下せなくなってしまったのです。

一方で世の中では、感情的にならないようにする方法などが好まれています。曰く、

  1. 感情が意思決定に影響を与えることがあることを認識する。
  2. ストレスで疲れ果てているときや興奮しているときには、決断を延期する。
  3. 感情的になっていないか他の人の意見を聞く。
  4. あえて時間をかけて新しい選択肢を増やす。
  5. 長期的な目標に焦点を合わせる。

確かに参考になりますね。でももっと大切なことは感情をうまく扱えるようにすることだと思います。それも、私個人ではなくチームや組織として感情をうまく扱えることが大切なのではないでしょうか。

~感情を殺さないことが強いチームをつくる~

実際のところ、チームワークがうまくいっていないために、「意思決定が遅れる」「問題解決が進まない」「モチベーションが低下する」という問題が生産性の阻害要因となっています。典型的な例を見ておきましょう。

〇 チームメンバーの関係悪化

・ 彼奴のこと嫌い、何か知らんけど合わない

〇課題達成方法に対する意見の違い

・ 目指すのはそっちじゃない、そのやり方違うよね、それ、俺の役割?

〇メンバー間の縄張り争い

・それうちの仕事じゃない、報連相が全くないよね

チームが行き詰まりパフォーマンスを落とすのは、チームメンバーの一人または何人かが自分の立場や意見に固執し、柔軟性がなくなるからです。そうなるとチームの生産性は低下し、非生産的な意思決定や行動を誘発します。

チーム活動でよくよく理解しておかなくてはならないのは、私たちは論理的にものを考えることができますが、それ以上に感情に影響を受けて行動するという事実です。感情は思考プロセスに影響を与え、それが行動に影響を与えます。チームの中の人間関係は論理よりも感情が先行するのです。優秀な個人を集めても優れたチームにならないのは、多くの場合その人たちの関係性の問題です。組織開発(OD)は、結局のところ「人と人との関係の中で起こっている問題」の解決に他なりません。感情的側面をマネジメントの課題から排除するのではなく、うまく扱いチームや組織の勢いにつなげていくことが大切なのです。このようなことがうまくマネジメントされると、チームのレジリエンスが高まります。

「雨降って地固まる」というように、人間集団の場合は「感情的な爆発を伴う葛藤を乗り越える」という経験が集団の強さにつながっていきます。このような経験をされた方々は多いのではないかと思います。

サッカーのJリーグに所属する、近年はエレベーターチームと揶揄されるあるチームが2018年はJ1残留を果たしました。その過程がドキュメンタリーになっていますが、チームが一丸となって残留争いを乗り越えられたのは、ある負け試合の後の控室におけるメンバー同士の非難合戦がきっかけでした。非難合戦ですから丁寧な言葉は出てきません。

「走れよ!!」「いや、やってるし」「全然やってねーよ」「どこ見て言ってんだ」など。そしてその場面で監督は黙って聞いているのです。この監督、いつもは厳しいことをビシビシいう監督ですけどね。その時は黙っている。後に、「あの場面は選手たちが自分たち自身で葛藤を乗り越えることが大切だった。そのような経験をしないと、試合の緊迫した場面で、自分たち自身で考え意思決定するという行動がいつまでたっても出てこない」と言っています。メンバー同士の非難合戦を経験し、それを乗り越え試合を重ねるにつれて信頼関係が生まれるのです。

(DVD:NONSTOP FOOTBALLの真実 第5章 2018覚悟)

 

このような事例を聞くとみなさんの中には、「あれは目的が明確なプロスポーツの中で、その厳しさに耐えようという覚悟がある人たちの集団だからできるんですよ」と思われる人がいるかもしれません。でも、企業組織も同じですよね。

逆に「私たち、そんな明確な目的意識をもってこの会社で働いているのではありません。それなりに働き、それなりのお給料を頂ければ十分なんです」という意識が強い人の集まりで仕事をやっている会社を想像してください。何が想像できるでしょうか。

「葛藤を恐れず、それを乗り越えるマネジメント」について、私たちは再考する時期に来ているのではないかと思うのです。