• 意識改革vs制度改革:組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㉔

意識改革vs制度改革:組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㉔

~意識と制度、どっちが先か~

先週のことですが、日経新聞で「シリーズ記事-残業なし奮闘記(2):退社4時半の衝撃」というタイトルの記事がありました。読まれた方も多いのではないかと思います。

「ノー残業」を叫んでも、社員に染み付いた長時間労働の習慣はなかなか消えない。残業がないという事は残業代がなくなるという事で、「収入と早く帰る」を天秤にかけたら、早く帰るが負ける。いっそのこと、極端に早く帰るという事にしたら思考と行動が変わるのでは、と考えた勤労グループの33歳の男性の発案で「4時半退社」を実現させたという記事です。きっかけは、所定労働時間の短縮です。7時間35分が7時間15分と、20分短縮された。そこで定時の終業も20分早まり5時になるだろうと誰もが思ったそうですが、それよりも思い切った変化だったのです。労働組合は当初反対したそうですが、発案者の制度設計の狙いを聞くうちに組合の空気も変わり、「早く帰りたくなる終業時刻」という発想は社員の意識を変える妙案に思えるようになったそうです。

これ、なかなかですね。この記事は制度改革をテコにして意識と行動を変えていった事例です。発案者に勝算はあったかといえば、あったようです。それは、まず33歳という彼の年齢。この年齢は「ミレニアル世代」と呼ばれる世代です。彼らの世代は「我慢して高級車に乗る高収入を得るよりも、自己実現や家族との幸せな生活に関心がある」というものです。記事に出てくる29歳の女性のように、キャリア形成でも終身雇用を前提にしていないので、何とかして自分の価値を上げる学習をする意欲も高い。

世の定義では、「ミレニアル世代は1980年代から2000年くらいの間に生まれた人たちのこと。インターネットが普及した環境で育った最初の世代で、情報リテラシーに優れ、自己中心的であるが、他者の多様な価値観を受け入れ、仲間とのつながりを大切にする傾向があるとされる」とあります。つまり、「4時半退社」の制度を受け入れる意識は、この世代にはすでに出来上がっていたのでしょう。

 

この一連の流れには社長の後押しがあります。平成15年の就任時に年間労働時間1800時間を宣言し、労働組合もこれに呼応しています。しかし、労働組合もまさか4時30分の終業時間は奇策に映ったようです。

 

この記事は別に組織開発(OD)を念頭に置いた記事ではありませんが、とても参考になりますね。例えば、

  • そもそもトップマネジメントが労働時間短縮という大きな方針を出している。(トップの後ろ盾)
  • 具体的なやり方は現場が知恵を絞っている。(具体的アイデアは現場主導)
  • 17年から社長中心のランチミーティングの開催。(継続的対話)
  • 発案者が過去に自主的に残業削減に取り組んだが失敗(20時30分帰宅を30分程度早めたくらいでは何の変化もない)。この提案は発案者の経験に根差している。(自分事)
  • 働く人たちの現実のニーズや実態をしっかり拾っている。(ニーズに合った施策)
  • 4時半退社制度は受け手がいろいろと新しい可能性を考えることができる。発想を飛ばして、そこから新しい世界を描くことができる。(ポジティブな新しい可能性の提示)
  • 人事部労政グループという発案者の立場を最大限活用している。(自分の強みを活かす)
  • 組合というパワーをうまく活用し、納得いく説明を(粘り強く)している。(利害関係者の巻き込み)

など。組織開発(OD)が成功する要件をとてもよく満たしています。

~意識改革も制度改革もどちらも大事だが・・・~

組織開発(OD)が成功したかどうかは、結局のところ「人々の行動が変わること」です。行動が変わるから結果も変わる。行動を変えるためには意識を変える必要がある。で、意識を変えるために様々な手段つまりODアプローチがあるわけです。

このプロセスで外してならないことは、「大切な価値:Be」のイメージを具体的にどれほど持っているかです。「4時半退社の衝撃」でいえば、「我慢して高級車に乗る高収入を得るよりも、自己実現や家族との幸せな生活に関心がある」という価値です。収入vs幸せな生活でいえば、今回は新しい価値が勝ったのです。「収入が下がっても早く帰りたい」と思う先にはどのような価値があるのかを明確に共有したからこそ行動変化が具体的に起きたのです。具体的な新しい価値の提示無くして方法論である「4時半退社」では、昭和の価値が勝っていたと思います。

 

私、昭和世代だから思いますもん。私の世代の自己実現は、多くの場合「収入増やして高級車に乗ってマイホームを建てる。」 福岡から出てきたお上りにとっては、それは「成功者の証」なんですよ。叔母さんに「ようやっとるね」と言わせるには、それは大事なんですよ。でも私の息子連中、そんなことに全く関心がありませんから。

古い制度を外し、新しい制度を導入するには新しい制度がどのような価値を具現化しようとしているかを明確に共有すること、やっぱりこれが大切なんですね。

 

PS:この後、この物語はどうなるか

時間短縮ができればそれでいいのか? 社長の違和感はそこにあった。グローバルでの競争は激しさを増し、会社の業績も期待するほどには伸びない。19年3月決算期では売り上げは微増したが、純利益は半分減った。19年度は、労働時間を減らす目標を掲げないことにした。効率的にどう稼ぐか、つまり生産性の向上にテーマが移る。改革の第2ステージへ入っていく。生産性と幸せな働き方の両立への挑戦が続く。