• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑱~ODはやってみないと分からない~

組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑱~ODはやってみないと分からない~

今回は、組織開発(OD)をもっと有効に活用していく際に「壁」となる課題の②について考えてみようと思います。

①      組織開発は増収増益を直接的な目標にしない。

②     組織開発はやってみないとアプローチ方法が確定しない。

コンサルタントに何かを依頼する人たちが、コンサルタントに持っているイメージはどのようなものでしょうか? これについてはE.シャインが「取り組む問題の明確性」と「解決策の性質」から3つに分類して説明しています。

 

問題の明確性 解決策の性質 問題解決の姿勢
明確 明確 専門家
明確 定かでない 医者
不明確 不明確 プロセス・コンサルタント

 

多くの場合、専門家や医者スタイルをイメージするのではないでしょうか。

専門家スタイル:

  • 問題を抱えている人が、その問題について解決する力がない場合、その問題の専門家に解決を依頼するスタイル。問題はほとんどが技術的課題。専門家は答えを教える。

例)エクセルを習得しないと仕事になりません。というような問題。

医者スタイル:

  • 問題を抱えている人が、その問題の解決方法が分からないので、なぜそうなっているかということ(原因把握)と、問題解決の方法を教えてもらい、その処方に従って問題解決するというスタイル。

例)風邪ひいたみたいですけど、処方をお願いします。というような問題。

 

ところが、組織の問題となると、依頼者が問題についていろいろ語ってくれますが、実はここに大きな第一の「壁」があります。それは、

  • 依頼者は自分の「枠組み」で問題をとらえ、自分の知っている言葉で相手に伝える。
  • 依頼者は問題とそれを引き起こす原因を明確に定義できていない場合がほとんどである。例えば、「人が育っていない、離職者が多い」という現象に対して「OJTを強化したい」などと依頼する。

要するに、依頼者と援助する側に問題の定義ができないまま、援助者は依頼者から何らかの介入策を要求される。通常は、プレゼンをお願いします。といった具合に。

 

医者スタイルの場合も同じような問題を引き起こします。

つまり、依頼者が表面的に問題を理解する場合、その依頼を受けたコンサルタントが客観的に外部から分析すると、論理的で客観的な分析でも、本質的な問題と関わりの薄い変革提案となってしまうことが多いのです。

実はこれはとても大切なのですが、組織開発(OD)の端緒の一つとなったTグループの始まりを見るととても示唆に富みます。要約すると、振り返りの場で観察者が言っていることと、観察された当事者が感じていたことが異なったのです。これが、プロセスを扱うことの大切さを理解するきっかけになっています。

※      末尾:Tグループの始まりを参照して下さい。

 

第2に、実際に何等かの介入を実施すると、真のクライアント(対象者や、例えば研修の参加者)は、プログラムが前提としているレディネス(準備態勢)がなかったという場合もあります(実はこれとても多い)。

そのような場合、当然プログラム内容の変更が求められるわけですが、これが実に面倒なことになるわけです。「え、そんなこと聞いていない」「いまさらスケジュールを調整するのは難しい」「予算取ってない、それ来年」など。担当者はトップとの間で「防戦体制」になってしまうのです。

組織開発(OD)のターゲットは人そのものです。それも集団という人の集まりです。

人の思考様式、行動様式すなわち「組織文化:その組織独特の仕事に対する考え方であり進め方であり業務運営の方法」が変革の対象です。このような組織の思考や行動様式は無意識な習慣行動となっている場合が多く、こうした場合、組織は無意識な物事には気づけません。従って、組織開発の実践家は、同じ人間として本質的な問題探求のために対象組織に入り込んでゆきます。時にはクライアントと一体化して、物事を理解するだけでなく、クライアントの感情面まで含めて、冷静な目で対象を観察・分析することが、問題の本質的な理解に近づくことになります。

と、ここまで書いてきてお分かりのように、組織開発(OD)はやってみないと分からない領域がとても大きいのです。それも、クライアントと援助者の関係性にとても依存した実践になります。依存したというのは、クライアントと援助者の関係が構築できなければ、援助者は真の問題に近づけないからです。

そこで、プロセス・コンサルタントですが、これは「クライアント自身が、何が必要であるかを自ら理解するように支援するスタイル」です。つまり、クライアント自らが問題を解決することを学ぶ支援をする。ということは、クライアントと援助者が力を合わせてその問題を解決できるように、お互いを理解できるコミュニケーション経路が確実にできていることがとても重要になるということです。

「組織開発はやってみないとアプローチ方法が確定しない」という意味が伝わったでしょうか? 以前、米国デルタコンサルティングのデービッド・ナドラーはこのことを「計画的日和見主義」と言っていました。ビジネスとして組織開発手法を使って「組織の問題解決」を支援している身としてはとても辛いのですけどね、最初に「やり方はこうです。予算はこうです」と明確に提示できないのは。

提示はしますが、変わることが多いのですよ。<(_ _*)>

※参考~Tグループの誕生~

Tグループを含むラボラトリートレーニング、すなわちラボラトリー方式の体験学習は1946年米国コネチカット州で、クルト・レヴィンとその弟子たちによって実施されたワークショプにおいて誕生したことは、多くの論者によって紹介されていますが、その出来事について簡単に紹介します。

Tグループは、偶然の産物です。ワークショップの振り返りをレヴィンたちがやっていたところ、参加者の何人かがその振り返りをオブザーブしてもよいかという申し出があり、レヴィンたちはそれを受け入れました。

振り返りが始まり、主催者たちがワークショップの中での出来事についてそれぞれの見解を述べていたところ、参加者の女性から「それは、私が感じていたことと異なる」という意見が出たのです。それで、その女性の感じていたことを聞いてみると確かにワークショップの主催者たちが感じていたことと異なったのです。このような経緯から、ワークショップ中で起こっている出来事(プロセス)についての「理解の仕方」が人によって異なり、メンバーはお互いのかかわりや出来事を話すことの重要性に気づいたといわれています。

 

1947年、今度はメイン州ベッセルにおいてプロセスだけを話し合うことにしたトレーニングを実施します。この流れが米国のNTL(National Training Laboratory)に引き継がれ今日に至ります。

 

因みに、かつて学ばせていただいた米国のODコンサルタントと言われる人たちは、ほとんどTグループを受講していました。