モメンタムをマネジメントする:燃焼編④ ~ソモサン第287回 ~

「モメンタム」という言葉を認知普及していくことを目的とした書籍「心の勢いの作り方」も、発売から約一ヶ月を経ても尚好調な売り上げをさせて頂いているようでまことに感謝の念に堪えません。

さてこのモメンタムという用語ですが、書籍内でもご紹介させて頂いているように「勢い」という「動き」を示す物理学用語の転用です。最近の心理学では「レジリエンス(復元力)」の様に物理学用語からの転用が目立つようになってきましたが、普遍的な世界はジャンルに問わず同じような作用が生じるものだと捉えるところです。

ところでこの「モメンタム」ですが、「やる気」とか「動機」といった従来の用語との混乱がある方も多々いらっしゃるようです。ということでここで再度定義を明確にしておければ幸いに思います。「モメンタム」は「動き」であるというのがその本質です。やる気や動機において主張される「気」ではありません。

「気」とは「空気」に代表されるように「纏わりつく状態的な存在」です。その絶対的な特徴は「静態的で自ら動くものではない」ということです。つまり「やる気を出す」と言葉でいうことは簡単ですが、現実には「出すための施策やアプローチなしには自ら動きは出せない」ということです。つまりは「やる気を出す」という言い回しはそのアプローチが分からない限りにおいては絵空事になるということです。これは動機づけという用語にも言えます。動機とは「動くきっかけ」ですが、これもきっかけとなる「動き」がなければ起きて来ない事象です。

そういった中でこれまでに紹介されてきた様々なアプローチの主流は、認知行動理論に基づいた「認知」が「行動」を起こすといった考え方ですが、一旦染みついた認知を変えるということは非常に困難な作業で、頭では「なるほど」と思っても実践にはなかなか結び付かないのが常でした。よほど心理的な疾患で追い詰まっているわけでもなければ、真摯に取り組もうとする、それこそ動機が沸き上がっては来ないからです。人が自らの意思で認知を変えるのは容易ではありません。また行動理論でも、こちらは認知を度外視して条件反射によって行動を変えさせようとするのですが、そのアプローチは習慣(癖)付けを行うものが中心で、これまた長続きさせるには別の認知(面倒臭い)へのアプローチが求められ、これ抜きには頓挫するというのが常でした。詰まるところ認知への作用なしには長続きしないということです。

どうしてこういう事態になるのでしょうか。最近の脳科学の進展によって、人の行動は認知という心理と反射という生理の双方から成り立っていて、それを相互に関係させるように介在するのが感情という存在であるということが浮き彫りになってきました。要は認知が行動を誘因するのではなく、行動が認知を後付けすること。また反射は無意識的な生理ではなく、そこには感情という深層的な心理が影響しているということが分かってきたのです。そして両者は循環するように作用しあって加速していくということも分かってきました。ここで重要なのは初動は認知ではなく、何らかのきっかけによる反射的な行動にあるということです。

このことは「やる気」や「動機」といった心理的な働きは、「気」自体の変化によって成り立つのではなく、

「動き」という生理が初動となって、それが感情という仲介によって「気」も変化していくという流れを辿るということを意味しています。

この作用を私は「クラゲ理論」と呼んでいます。皆さんもご存じかもしれませんが、クラゲは自らの力では動きません。ただただ水中で浮かんでいるだけです。それが水の動きと云った他力によって揺れ動き、様々な活動を行い始めます。

「やる気」も同様です。何でも良いから「動き」を起こして、それをテコに「気」を揺さぶって「気」を高めていく流れが大事になります。諄いようですが「気」は自発的に動かしたり変えるのは困難です。多発的なきっかけが求められます。それは他者からの支援が最も力強いですが、自らの演出で「動き」を起こし、それを機に「気」や「認知」に影響を与えるのも有効です。着目するのは感覚や行動を刺激して「感情」を揺さぶり、そこから生じる「情動的なエネルギー」を利用して、「気持ち」を高めるということです。感情の高揚に繋がらない動きは意味を持ちません。これが「モメンタム」という世界観であり、モメンタムが生み出す作用です。

JoyBizでは創立来「組織開発と人材開発」のサポートを本業とする中で、いま最も大事な「イノベーションを心構えとする風土」や「創造による起業を目指す気質」を実現するには能力のような外延的なレベルではなく、意識のような中核的なレベルでの開発が欠かせないという理念の下で、その可能性を模索し続けていました。その解答が「モメンタム」の開発と醸成に集約されています。そしてその展開として二つのビジョンを描きました。

それはビジネスシーンの様々な側面にモメンタムという考えを応用展開することで、組織を創造的な文化にリニューアルして頂くこと。

そしてモメンタムが持つ考えを広く社会一般に普及することから、社会全体の皆さんの心を明るく前向きに、活性した状態として保てるようになって頂くこと。

これを二軸として展開して行くべく、一般社団法人として「日本モメンタム協会」を立ち上げました。使命が異なりますから事業領域も異なります。

JoyBizは、ビジネスシーンに関わるあらゆる経営相談においてモメンタムの考えを織り込みながら、実務の向上支援に集中していきます。

そして日本モメンタム協会は、モメンタムという考えを前面に、個々人や学校のような非営利組織など、純粋にモメンタムを求める人たちにその普及を図っていきます。

これがこれからの弊社の展開の骨子になりますので、皆様に置かれましてもご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

ということで今回の「モメンタムをマネジメントする」の本題に入りましょう。今回は相手との信頼関係をより深めるマネジメント・アプローチについてです。

信頼関係を深めて相手にこちらの意思をまっすぐに受け止めてもらえるようになるには、信頼を生み出すと同時に、「気持ちをポジティブにする」ことが大事になります。それには、感情がオープンで好感的な状態になるように演出していくことが求められます。その技術をご紹介しましょう。まずは、

①ミラーリングです。

これは、

姿勢を合わせる。振る舞いを合わせる。表情を合わせる。息づかいを合わせるといったアプローチです。

人は行動学的に自分の動作に共鳴する相手に気持ちも同調を感じるという特性を持っています。例えば似たような癖を持った人には安心感を覚えるといったものです。次に、

②マッチングがあります。

これは、

声のトーンを合わせる。話のテンポを合わせる。ボリュームを合わせる。リズムを合わせるといったアプローチです。

これもミラーリングと同じ効果を持ちますが、流れとして徐々にこちらのペースに持っていくことから、相手の気持ちや考え方の変化を誘引していく場合に使います。徐々にトーンやテンポを変えることから気持ちを高揚させる。徐々にボリュームやリズムを変えることから認知の在り方をずらしていくといった時の入り口として使います。

長くなりました。次回は③パロットやパラフレーズといった「思い」に関わる面での信頼関係の話に入って行こうと思います。

また①や➁のやり取りにおいて、更に相手との関係を深める際に有効な手立てとして、

以前にもご紹介させて頂いた「優位感覚」を使ったアプローチがあります。これもまた次回のテーマにしましょう。

それでは次回もよろしくお願い申し上げます。

 

さて皆さんは「ソモサン」?