モメンタムをマネジメントする、燃焼編⑤ ソモサン第288回

フランス出身で日本に在住する日本の文化に造詣が深いアミンさんという方がいらっしゃいます。ネットニュースに因りますと、このアミンさんは「日本人がこれほどまでに親切なのは学校教育が関係している」と考察していらっしゃるそうです。アミンさんによると、フランスをはじめ欧米の学校教育は「いかにベストな個人になるか、いかに一番になるか」という方針なのだそうですが、その一方、日本の学校教育では「どうすれば社会の一員として、他人とより良いハーモニーを奏でられるか」を重視する印象があると仰っています。

アミンさん的には、「どちらが良くて、どちらが悪いとかではなくて、日本人が社会性を重んじて他人を尊重できるのは、こうした教育があるからだと思う」と持論を語っているそうです。

この話、私の自著である「心の勢いの作り方」でも欧米のプログラムを単純に日本に導入しても効果は得難いとコメントしましたが、こういったことが素地にもなっていると思うところです。最近「同調圧力」という言葉とともに「日本人は思うほどに同調圧力は強くない」と論解した人がいますが、これは「同調圧力」といった意図的で外圧的に対しての受け身的な反応ではなく、寧ろ積極的な「協調姿勢」の表れがマイナス的な効果となっていると受け止めるべきでしょう。これはアメリカで「アビリーン・パラドックス現象」として行動科学上紹介されています。アビリーン・パラドックスとは、ある集団がある行動をするのに際し、その構成員の実際の嗜好とは異なる決定をする状況をあらわすパラドックス現象を云います。集団内のコミュニケーションがきちんと機能しない状況下では、時折個々の構成員が「自分の嗜好は集団のそれとは異なっている」と勝手に思い込み、集団的な決定に対して異を唱えないために集団が誤った結論を導きだしてしまうといった事象などが起きますが、アビリーン・パラドックスは、こういった一見「事なかれ主義」のような現象の一例としてしばしば言及されます。人はしばしば、集団の流行から外れることを嫌います。この現象は、経営学者ジェリー・B・ハーヴェイ氏によって提唱されましたが、「忖度」なども圧力に対する打算ではなく、協調として「良かれと思った」行為がマイナスに働いてしまうことがあるといった話です。日本ではアミンさんが云うように、「他人とより良いハーモニーを奏でられるか」を重視する原体験的な教育を施すので、こういった反応は強く出てきます。一方こういった行動や反応は決して自分本位であるばかりではない、寧ろ人としての個は「自己選択、自己決定、自己責任」を基調に欲求は働きますので、こういった動きは非常にストレスフルになってきます。同調圧力ではなく個の選択なだけにその心理的パラドックスは強く出ます。

ですから何でも欧米を基準にシステムを導入すれば良いというわけでなく、日本で「やる気」を考える場合も、やはり日本の文化や行動様式、価値観をしっかりと見据え、考慮した上での導入や展開が重要になってきます。「言い分」は良くても「言い方」や「言い回し」が悪くて心が動かないように、もっと人が持つ感情的な側面に目を向ける必要があります。

ということで今回は前回の続きになります。まずは「優位感覚」を使ったアプローチから始めましょう。人には「視覚優位の方」「聴覚優位な方」「体感覚優位な方」がいらっしゃるということは以前お話をさせて頂いたと思います。人は右利きや左利き同様に、情報処理を行う時も優位に機能する感覚があります。例えば「人の話が理解できない」時に、視覚タイプは「話が見えない」、聴覚タイプは「何を言っているか分からない」、そして体感覚タイプは「話が掴めない」とか「話が腑に落ちない」と表現して、優位感覚的に認知しようとします。

信頼を得るにはこういった個々の優位感覚の特徴を利用して、それをペーシングして会話を進めていけば抵抗感や違和感が低減できます。例えば視覚タイプには、「話が見えて来ない」「具体的にどう見えて来ないのか」といった応酬をするといった按配です。

因みに優位感覚を利する場合、

視覚タイプは、

見る、狙いをつける、ビジョン、観察する、焦点を合わせる、イメージする、見えない、ぼんやりする、色、描く、見通しなどといった言葉を良く発します。

 

聴覚タイプは、

聞く、言う、話す、共鳴する、響く、調和する、静か、誰かがこう言った、疑問語(ワイワイ、ガヤガヤ、ピカピカ)、「えー」といった感嘆的な言葉を良く発します。

 

体感覚タイプは、

感じる、熱い、冷めている、温かい、寒い、ぬくもり、掴む、触れる、心が熱くなる、胸に刺さる、腑に落ちるといった言葉を良く発します。

やり取りの中でこういった言葉が出てきたら、それに合わせた言葉遣いを展開すると相手はポジティブに感じて胸襟を開きやすくなります。日常の会話の中でそういった兆候を掴んでおくことが大事です。

ではモメンタム・マネジメントの続きです。今回は燃焼モメンタムに刺さっていく中での信頼づくりにおけるアプローチです。

 

(①②は前回のブログをご参照ください)

③パロットとパラフレーズについてです。これは感情や気持ちの段階から、更に「思い」の領域に入って行くアプローチです。但し両者はかなりの違いがありますので順番をしっかり取ることが大切です。まずはパロット、そしてパラフレーズの順番です。これだけは間違えずにしっかりと守ってください。

まずパロットです。パロットは、相手の発した言葉を繰り返す。言葉をそのまま使うという「返し」です。貴方の考えや思いをきちんと受け止めています。同意していますというサインになります。

パラフレーズは相手の云ったことを、時に別の言い方や言い回しに言い換えて確認する「返し」です。このアプローチは相手がある程度心理的な信頼を感じて、こちらの意見を受容しても良いといった反応が見えてきた時から使います。相手の言い分から事実を繰り返し、気持ちや感情を繰り返し、要約し、分かったつもりにならない様に確認しながらも、それには別の捉え方や見方もあるのではないかという認知の転換を誘引させる入り口のアプローチとして使います。

ここまでは未だ信頼関係づくりの段階です。「急がば回れ」で一挙に相手の考えを切り替えようとかしないように丁寧にやり取りするのが重要です。

次回からは傾聴や伝達といったやり取りの段階に入ってきます。乗せていく局面です。ここではペップトークの技法がポイントになりますが、ペップに優位感覚をうまく使うことが一つの肝になります。

それでは次回もよろしくお願い申し上げます。

 

さて皆さんは「ソモサン」?