モメンタムを生み出す二つのエンジン ~ソモサン第260回~

暗示が及ぼす影響力 ~新興宗教で活用されている洗脳の手法を分析する~

皆さんおはようございます。

前回、「暗示」が持つ効力は、その影響力の割に意外と社会的に注視されていない点について言及しました。古くはヒトラーの演説が有名ですが、「言葉」は技術として「感情」も「意志」も制御してしまいます。言葉は人のメンタルを大きく左右します。有効に使えば様々な心も問題解決に繋がります。クールモメンタムはそれらを活用したアプローチ技術です。でも悪用すると大変なことになります。皆さんも御存知のように悪用した典型が洗脳であり、昨今の新興宗教の問題の元凶に位置付けされています。今回はそこから話を進めていきましょう。

前回も話しましたが、洗脳と暗示は紙一重です。暗示の技術を利己的に用いたり、他者の支配に利用するアプローチが洗脳と云えます。ではまず宗教団体が勧誘などで信者獲得を行う際の洗脳の典型的なやり方からスタートしましょう。

勧誘は、最初に多くの人が共通に望んだり期待している思いをそそのかす投げかけの言葉を巧みに弄します。例えば「あなたは今人生の転換期にある」といった言葉です。今を憂いて「変わりたい」と願っている人は存外多くいます。そしてそれによってその人の現状認識や抱えている問題意識を引き出して行きます。ここで大事なのは「あなたは今闇の中にいる」などといったネガティブな言い回しは絶対にしないことです。そういったマイナスの言葉は不安を煽るだけで、その段階で心を閉ざしてしまい失敗します。反対にポジティブにやり過ぎるとこれまた「調子が良い」「軽い」と距離を持たれます。しかしそれでもポジティブなアプローチは多くの人が胸襟を開くのは確かです。「あなたは良い相をしている」といった具合に、軽くポジティブにアプローチするのがポイントです。人によっては「そんなことない」といった反応とともにその段階でも色々と自分を語り始める人もいます。心に影を持っている人は孤独感を抱いている人が多く、孤独から開放されようと結構自分の境遇をペラペラ喋るものです。また「孤独感」が影の主因の場合、それをネタに振られると「射抜かれた」気持ちになり、警戒心が弱くなってしまいます。そしてどんなに疑り深い人でも、最初に心の闇を射抜かれると意外なくらいに正直に反応して心に秘めた多くの情報をつい口に出してしまうものです。勧誘の第一段階はそれを引き出すのが狙いになります。

心情の一部でも情報が引き出されると、次はその情報をテコに徹底的にその人の置かれている境遇を他責的に正当化させるような言葉を詭弁的に弄し、とにかく気持ちをハイにさせていきます。ハイとは多幸感のことです。多幸感の大きな一つは孤独感の軽減です。言い換えると連帯感の増幅です。そう「繋がり感」が高まるのです。更に人はハイになってくるとネガティブな気持ちが払拭されていきます。そうすると応じてどんどん深いところにある心境を語りだしてしまうのです。

こうして相手の心情のあり方を徹底して褒めて自尊心をくすぐっていくと、本音が出てきます。多くの場合、自分で決めれない。人に左右される。自立したいが出来ない。自信がない、という自身への問題意識です。そして同時に人はそういった不安や悩みを自覚し再認識すると、「変化」への欲求が高まってきます。そこで繋がっている誰かに背中を押されることによって「変化」を選択する傾向が強まります。

このようにまず一旦動揺を誘い、心を不安定にして、そこから仕掛ける方向に向けて持ち上げる。今が悪いのはあなたが問題なのではない。そういった思いを持つ境遇にいるのは「あなたは選ばれし存在である」からである。むしろあなたは人に影響できる存在であり、今はそれを試されているのである。あなたがそれに応えるには「まずは自分が変わる」という行動を起こすことから始まります。そうやって徐々に心を高揚させていき、そういった心境に何故ならばと「真理」と銘打ったといった教義をすり込んでいくのです。

自己決定が出来ない人に対して、決定をする段階まで教宣を使って認識を変える為の刷り込みをする。そして錯覚によって自己決定をさせることから、それが人生の新しい出発だという認識に繋げていくように仕向ける。心理操作によって全体の流れをそう仕向ける組み方をしているわけです。実は洗脳されたのですが、自分は自主的に選択した様に思わされていますから、決定を自律的に選んだと信じているわけで、これは厄介です。自己決定によって自分は「正しいことをしている」と信じきってしまう。そうすると人は「自己正当化」という防衛機制が働きますから、容易に自己チェックをしなくなるわけです。そして全てが良いか悪いと云った二値的な思考に侵されてしまい、疑問という文字が想起できなくなるわけです。

さて勧誘の第二弾は、そういった人たちを集合させて相互相乗作用を図るアプローチをするということです。同じ境遇や同じ境地の人達を集合させて、お互いに孤独から脱却出来るような空間を設けて自分たちの行為を相互に確認させあって、その行為を正当化させるだけでなく、更に正当化を増幅させるのです。

最後は、正当化した想念に対して、それを具現化する目標を与えて邁進させれば仕上げです。人は明確な目標があり、何も考えずそれを追う状態に置かれると、心理的に楽な状態になります。そうなると考えなくても良い状態に陥り、考える力をなくします。元々悩みたくなかった人にとってこれは非常に快適な状態になります。そう最終的には考えさせないように持っていくわけです。自分で考えることをしなくなった人を操るのは容易です。事実彼らは盲信の中で真理が何かが分からないし、説明出来ません。論理的に訴求すれば起きてくる矛盾が説明出来ません。目的の意味に疑問も描くことが出来ません。ただただ自分の選択を信じて邁進するのみです。人は自分を信じたいのが本音です。教団的にはその目的が金集めであり勧誘の増強であればもはや言うことはありません。

教団は更にそこに集団活動を利用しての相互監視体制も盛り込みます。そこに人の本性である集団内での権力欲求が絡むと、忠誠心や帰属心が倍加されていきます。

如何でしょうか。こういったアプローチが洗脳というものです。こういった状況は何も宗教に限ったものではありません。一般企業でもブラックと称される組織ではよく似た光景を目にします。事実私が所属していた組織でもこれを使って経営者が一人勝ちする環境を作り出していましたが、誰もそれに疑問を持たず、むしろその経営者を崇める空気感に満ち溢れていましたし、彼は自分のマネジメントを宗教やヤクザ組織から学んだと公言していましたから、組織手法としては一定の力があるのは確かと云えます。ただ宗教は本来「自由と心の安息」を得るための手段であるわけですから、そうでないアプローチは宗教とは云えず、これは企業も同様だと思うところです。

自己暗示のメカニズムと効果的に活用するポイント

では今回の本論です。今回はモメンタムの支柱とも言える「モメンタムのエンジン」について話をしておきたいと思います。

「モメンタムのエンジン」。それはホットモメンタムにおける「クロスモーダル現象」とクールモメンタムにおける「自己暗示」です。

まずは前段の流れに従って「自己暗示」から話を展開させて頂くことに致します。

暗示とは、言葉や合図などにより、思考、感覚、行動を操作・誘導する心理作用のことを云います。暗示にかけられた者は自然にそうなったと考え、それが自己或いは他者による誘導によるものであることに気が付きません。暗示は特に催眠状態の時に最も効力が発揮されます。また暗示は睡眠不足や過労状態にあるとき特にかかりやすくなるほか、先天的気質によってもかかりやすい人とそうでない人がいます。

では暗示とは一体どういった現象になるのでしょうか。例えば人は通常の空間で幅20cm程度の細さの道筋を歩く場合、難なく歩行しますが、ところがそれが高さ10m程の道筋となると足が竦んでしまって歩けなくなってしまいます。それは人間には意識している自己(意思)と意識していない自己(想像)があり、この場合は意識している自己(歩こうという意思)を意識していない自己(できないという想像)が打ち負かしているからです。つまり、脳が無意識的に落ちる光景を想像してしまって、いくら意識的に「落ちないように歩こう」と言い聞かせても、身体は「落ちるかもしれない」という意識していない自己の想像力によって歩けなくなってしまうのです。

暗示の中でも、自己暗示とは暗示を自分で施すことです。自己暗示は「想像が人間の精神と肉体に及ぼす影響」であり、この想像は意識的に制御誘導することが可能です。また、人間は「一時に二つのことを考えるのは不可能である」ことから、もし病人に「病状が快方に向かっている」と思わせることができたら(病状が悪くなっていると考えることができなくなり)、その病状は消えるといったことも可能になります。同様に、病人は「治りたい」という意思ではなく「必ず治る」という意識的な自己暗示により病状が改善し、不眠症の人は「眠ろう」ではなく「私は眠くなる」、禁煙しようとする人は「禁煙しよう」ではなく「タバコをやめられる」という自分の想像に導くことにより、困難な状況から脱出できることも可能になります。

心理学者のクーエは自分には人を治す力などなく、患者を健康にする道具は彼ら自身の中に備わっていて、自分は健康についての考えを彼らの内面に呼び起こす助けをしているにすぎないとして、「毎日あらゆる面で、私はますますよくなっていく」(Day by day, in every way, I’m getting better and better.)という暗示文を毎日何度も繰り返し自分に言い聞かせることでその効果が実感できると云っています。

ところで、脳科学によれば人間が記憶を構築する過程で、脳の中では全ての情報を音声化して理解すると言われています。繰り返し言葉にすることで、自分自身の脳の中にその言葉を記憶させ、何か自分自身にとってよくないことがあるたびに自分を楽にしてくれる肯定的な記憶を引き出せるようになります。つまり、良い状態をキープできるということです。ですからクーエが云う自己暗示へのアプローチは、毎晩寝る前に、音声的に自分自身に「今夜は深く良い眠りにつくぞ!明日は爽快な朝を迎えるぞ!」と肯定的な言葉をかけ、朝目が覚めたときにも同じように「ああ、よく眠った!今日も良い日のスタートだ!」という言葉をかけることで、とても前向きな生活が営めるといったことでも実感することができます。またたとえば、スポーツ選手が「頑張るぞ」などと声を出しながらプレーをすると、脳に刺激を与え、より集中度を高めることに繋がることも分かっています。

平たく云えば、自己暗示とは、自分自身に繰り返し暗示をかけて「思い込み」を持たせることです。心の領域である潜在意識に働きかけてポジティブな思い込みを持ち、ネガティブな思い込みを書き換えたり、普段の思考の枠を越えた力を引き出したりするために使われます。

自己暗示の本質は「想像」つまりイメージングすることです。その時未来のことであるものの、あえて断定的な言葉を使用することが重要になってきます。例えばやる気が上がらない理由の一つに、「どうせ努力しても報われない」「頑張っても意味がないのでは」といった疑いの想念があります。ですから逆に、努力の先に成功が約束されていると思えたら、意欲が湧きやすくなるのが道理になります。ですから想像する時には出来る限り断定的なイメージングをするのがポイントになります。でも云う易く行いは難しと云います。そこで具体的なイメージングの方法を簡単なレベルからお伝えしていきましょう。

 

①うまくいくことを前提に考える。

「できるか」「できないか」で悩むと、注ぐ力が分散してしまいます。うまくいくことを前提にして、成功のために必要な事柄を自己暗示すると、全力で行動していけるでしょう。普段からポジティブ思考の練習をすることで、ネガティブな考えが頭に浮かびにくくなるはずです。そして成功したときの情景をリアルに思い描きます。漠然と「好きな人と付き合う!」と思うのではなく、付き合った後のことまで想像します。ポイントは、そのときの「嬉しい」「幸せ」といった感情を先取りして感じることです。進展に向けての手段や対処法が浮かんだり、タイミングよく物事が動き出したりするなど、思いもよらぬミラクルが起こることがあります。

②失敗による不安や緊張をイメージしない。

失敗への不安や緊張が頭をよぎりそうになったら、意識的にさっとかき消して。ネガティブなイメージをした瞬間、自己暗示に没入できず、現実に戻ってきてしまいます。頭の中に嫌なイメージが浮かんできたら、すぐさま全く別のことを考えて意識をそらしましょう。また日常的にマイナス言葉を使わないようにもします。日常的にマイナスな言葉を使う人は、必然的にネガティブ思考になってしまい、「こんなことできない」「振られたらどうしよう…」と自分の可能性をつぶしてしまいます。言葉には言霊が宿っており、マイナスな言葉を使う人にはマイナスな出来事が起こるといわれています。一瞬頭の中でネガティブなことが浮かんでも、口にするときはポジティブな表現をしましょう。自己暗示とは、肯定的な言葉を何度も繰り返し唱えていくことで潜在意識を肯定的なものに入れ替えることです。「自分ならできる」という言葉はその一つです。心の中で湧き上がる「俺にはできない」という言葉をかき消すように、「俺ならできる」と自分に言い聞かせるのです。人間はたいてい、何もしなければネガティブなことを考えてしまうので、こうしたことが必要なわけです。しかし、なんの努力もせず、ただ単に毎日「俺ならできる」と繰り返し唱えていても、自己暗示の効果はあまり期待できません。そんな時は、自分の潜在意識がこう問い返してきます。「本当に、今言葉だけで何の努力もしてないよね」。そう潜在意識を欺くことはできません。言葉だけでなく、行動も伴ってこそ自己暗示の力はパワフルになります。 言葉と行動の両方が備わってこそ、自分の成功を心の底から確信できるようになるのです。「こんな自分になりたい」ということを潜在意識に効果的に伝えるには、言動だけでなく、日々の行動も「なりたい自分」がしているものにしていく必要があります。

③願望を可視化し、理想の状態のイメージ画像を毎日見る。

自分が成功した状態をイメージする画像を目につくところに貼り、毎日何度も見るようにします。例えば、ダイエットしたいなら理想の体型の人の写真など。スマホの待ち受け画面などに設定すると目につきやすいでしょう。

行ってみたい場所の写真やイラスト、こうなりたいという成功者の写真など、持ち歩けるサイズのものを準備して、毎日見るようにしましょう。「自分は絶対にここに行くのだ」「こういう人になるのだ」という意思を強く持ち、日常生活のふとしたときに目に入る位置に飾っておくこともおすすめです。知らぬ間に潜在意識が働き、自分の希望を叶えるように行動が変わってくるはずです。

④動作・行動と気持ちを結びつける。

例えば、「手のひらに“人”という文字を書いて飲み込むと落ち着く」のように、決まった動作と感じる気持ちを結びつけて自己暗示をかけます。縁起を担ぐ、ゲン担ぎ、ジンクスなどもこれに当たります。

⑤望む状態を紙に書き出し声に出して読む。

「私は良好な人間関係を築いています」「私は幸運に恵まれています」など、望む状態をそれがかなったように紙に書き出します。あまりたくさんだと集中しにくいので、多くても10個くらいまで。そして、書き出したものを毎日読み返すようにします。ここでも声に出して読むことが重要です。物事は頭の中で思っているだけでは、いろいろな考えがごちゃごちゃしてしまい、自分の心の声が聞こえてきません。願望を紙に書き出すことによって、自分の願望が整理され、理想像をイメージしやすくなります。

  • あと2キロ痩せたら好きな人に告白して、クリスマスデートをする
  • 3週間後のプレゼンまでに相手企業の情報を集め、最低3つ案を提案できるようにする
  • 大学で学んだ投資を5年後までに年利3%で運用できるようにする

など、願望を紙に書き出すときは、ポジティブな言葉で、なるべく具体的に書き出しましょう。その際、数字を用いることもポイントです。

⑥必要な言葉リストを作っておいて読む。

目的に応じて、「ここぞ!」という時に読むためのリストを作っておいて、読み返すようにします。例えば、自信を持ちたいなら、自分の良いところリスト。成功したいなら、自分がうまくいく理由リスト。幸せな恋愛がしたいなら、私が愛される理由リスト・私が恋人にしてあげられることリストなどを作ってみましょう。

⑦起床直後と寝る前に鏡に向かって願望を口に出す。

起床直後と寝る前に鏡に向かって願望を口に出してみるのも非常に効果的です。毎日忙しく生活していると、「次は何をやらなければならないか」に気を取られることが多く、自分の願望を忘れてしまいます。「1ヶ月以内に彼氏がつくる!」「絶対にあと2キロ痩せる!」など、毎朝・毎晩鏡に向かって願望を口にすることで、自分の気持ちを常に意識することができるので、願望を叶えやすくなるでしょう。

ところで上記のアプローチを試みても、心構えが後ろ向けでは効果は望めません。自己暗示に掛かりやすくなる心理状態を作るのも大事です。そういった心理になるには、

(1)物事を肯定的に捉える

物事を肯定的に受け取る人は、自己暗示にかかりやすいと言えます。性善説で考えるような人のこと。「とりあえずやってみよう」「あの人のことを信じて見よう」と言う素直さがポイントとなるでしょう。物事を肯定的に捉えると、何事も受け入れやすいのです。一方、否定の視点とは疑いです。従って、物事を否定的に捉えがちな人は、自己暗示に対して「効果があるのか」「まやかしにすぎない」と懐疑的になってしまうため、掛かり難くなります。

(2)感受性を豊かにする。そういうことに積極的に触れる。

ドラマや映画を観て、涙を流すような人は自己暗示に掛かりやすい人です。感受性が豊かな人は共感性があり、他人や何者かになりきれるからです。つまり、自己暗示によって理想とする人にもすぐになりきれるわけです。これは、感情の動くスピードが速いためです。(1)の肯定的に捉える人と同じで、なりきることへの疑いを持ちません。

(3)主観を強く持つ

主観が強く、猪突猛進型の人も自己暗示に掛かりやすいです。自分が「こう!」と思ったら一直線。そこに疑いや俯瞰の冷静さは良い意味でありません。だからこそ、まっすぐに信じることができるのです。逆に、客観性が強い人は「これでいいのか」と俯瞰のジャッジが入ってしまい、自己暗示に没入出来ません。

だからこそ次のようなアプローチは逆効果となります。自己暗示をかける際のNGは、

(1)否定形はNG

人の脳や心には否定形が通用しないので、「○○しない」では自己暗示はかかりません。自己暗示では、肯定形の言葉を用いましょう。例えば、「失敗しない」ように自己暗示をかけたいなら「成功する」などに言い換えるのがおすすめです。

(2)「○○になる」はNG

「幸せになる」という暗示は、「今は幸せではない」と自分に言い聞かせているのと同じようなものです。自己暗示する時に「○○になる」という表現は避けましょう。例えば、「私は幸せです」という現在形の表現や、「私はもっと幸せになります」と今を肯定する表現に言い換えると良いでしょう。

(3)他人の気持ちに暗示をかけるのはNG

自己暗示がかけられるのは、自分自身の行動やあり方・感じ方についてだけです。他人の気持ちに対して自己暗示をかけることはできません。例えば、「彼は私を愛している」ではなく、「私は愛される人です」のように、「私は」を主語にするように意識しましょう。

(4)自分にしっくりこない自己暗示はNG

当然ですが、暗示をかけるたびに「そんなはずはない」と抵抗感や違和感が出るものは逆効果です。例えば、「私は幸せです」という自己暗示に引っ掛かる気持ちが出るなら、「私は幸せを自分に許します」など、しっくりくる言葉に言い換えましょう。

自己暗示の実践方法「アファメーション」

さて、人は誰しも無意識に自己暗示をかけて、それぞれの思い込みの中で生きています。自分をより良く変えるためには「私はできる!」といった自己暗示をかけることが重要ですが、潜在意識にアクセスできなければ効果が上がりません。ポジティブ暗示を自分にかけようとしてもメンタルブロックや悪い思い込みに邪魔をされやすいため、いかに自己暗示を潜在意識に直接入れるかが効果を生む鍵となります。ですから効果的な自己暗示のかけ方は潜在意識のブロックを解除し、ポジティブ暗示を脳にインプットすることになります。ただし理性や気合では自己暗示が潜在意識に浸透できず、逆にジレンマに陥る可能性が高いといわれています。

ともあれポジティブな自己暗示をかけれる人には自分を信じるに足るだけのルーツ(成功体験、承認欲求が満たされた経験)があったように、それができない人はネガティブな思考が強くなる過去の流れがあったことは確かです。その深層心理ベースがあるかぎり、プラスの自己暗示をかけようとしても、どうしても最後は自分に成長と進化を阻害されてきます。そしてそこが解消されない限り、理想のように変われない自分への自己効力感が逆に落ちてしまう危険性も孕むことになります。それを打破するには、潜在領域に刺さるアプローチを考える必要が出てきます。そのアプローチがアファメーションです。

アファメーションとは、ポジティブな言葉を唱えることで肯定的な自己暗示を掛けるというアプローチです。

例えばこれは「私は幸せ」「私は愛されている」など、ポジティブな言葉を用意し、繰り返し唱えることで自己暗示をかけていく方法などです。毎日10回以上声に出して言葉を唱えて、肯定的な思い込みを定着させるように仕掛けていくと云ったアプローチなどを取ります。この時、今の自分に必要な言葉を短くまとめて唱えるのがポイントになります。アファメーションは第三者が本人に対して期待をかけることがきっかけとなって肯定的な自己暗示をかけることができるといったこともあります。

ここで云うポジティブな言葉で最もインパクトが強いのは、 「自分がなりたい姿をイメージし、夢や目標を設定すること」です。でもあまりにも現実とかけ離れた内容だと、「どうせ無理だろう」という潜在意識が生まれてしまい逆効果になることもあります。たとえば、野球経験のない人が「プロ野球選手になる」と夢を掲げても、あまりにも漠然としていて何から始めれば良いのか分かりません。そのため、まずは自分がクリアできる可能性がある足元的な目標を設定し、徐々に高い目標や理想像へと更新していくことが重要です。目標は具体的な内容で想像が出来る内容である必要があります。そしてもう一つ大事なのが継続です。継続的にポジティブな声がけに取り組むことによって、徐々にさまざまな成果や効果が実感できるようになります。たとえば、これまでは「どうせ無理だろう」と考えていたことも声がけによって毎日のように「自分ならできる」と言い聞かせた結果、徐々に目標に近づいていくこともあります。もちろん翌日など短期間で成果が現れるとは限りませんが、徐々に目標に近づいていく感覚は身につくはずです。たとえば、中長期的な目標を掲げて声がけに取り組んだとき、長い目で見ると仕事に対する行動や意識が徐々に変わっていき、成果に結びつくこともあるでしょう。

皆さんも何故目的意識や感情的意味づけ(願望など)がクールモメンタムにとって大事なのか、これでご理解頂けると思います。

ホットモメンタムを引き起こす「クロスモーダル現象」

では次にホットモメンタムのエンジンに移りましょう。

ホットモメンタムの要諦は、脳科学で云うところの「クロスモーダル現象」にあります。クロスモーダル現象とは、「一つの感覚が他の感覚に影響する」という作用で、「五感は感覚同士がクロス的に影響しながら他の五感や行動に影響する」という理論です。例えば楽しい楽曲を聴きながら食べ物を口にすると、それが一層美味しく感じるとか、反対に暗い楽曲を聴きながら同じ食べ物を口にすると、今度はそれが苦く感じると云った具合に、各感覚は「感覚間協応」「感覚間一致」という作用を起こし、それぞれの感覚が他の感覚からの発信にしっくり来るような組み合わせを反応として起こす現象をいいます。例えばポジティブな感情とプラス感覚が繋がったり、ネガティブな感情がマイナス感覚と繋がると云った相互作用の現象です。これは脳が自分の活動を楽させるための機能として働き、受けた感覚を一々脳内検索する手間を省いて、過去の経験から「次はこうなるだろうと予測する」ことからある感覚を関連記憶を引いて補正することから別の感覚と紐づけることによって引き起こされる反応であると分析されています。つまり低次機能である五感の刺激感覚を高次機能である感情や記憶と関連付けて知覚させると云った現象です。これは皮膚感覚なども影響され、視覚が触覚や弾いては行動に影響するといったこともあります。具体的には、同じ様に太鼓を叩いていても、スーツで叩くのとハッピを着て叩くのでは叩く感覚が変わったり、パフォーマンスが変わると云った塩梅で、これをヴァーチャルで実験しても同じ効果になります。これは格好がその人の過去記憶に関連付けられ、別の感覚や感情を呼び起こすもので、例えばハッピを知らない外人さんが実験してもパフォーマンスは変わらないのだそうです。

このことは人が自分の気持ちをハイにするためにコスプレをするといった行動の説明にもなります。「雀のお宿」ではないですが、同じ重さの箱を大小で大きさを変えた場合、人は大きい箱を重く感じるといった錯覚としても説明されます。面白いことに「中の重量は同じ」と聴くと今度は同じに感じるというのですからクロスモーダル現象とは不可思議な現象です。最近では「レモンは早く、バニラは遅い」という嗅覚とスピード感(視覚)に対する実験結果が日本初の研究発表として取り沙汰されています。なにやらレモンの香りを嗅ぐとスピードを早く感じ、バニラの香りを嗅ぐと遅く感じるのが人の感覚なのだそうです。これは対比効果というそうで、その理由は未だ研究中なのだそうです。おそらくは脳が何らかの予測によって対応反応として感覚を事前に準備して調整するのではないかとのことですが、私も良くは分かりません(笑)。ただこの実験でどうやら人はスピードを判断する時に嗅覚という一見関係ないような感覚器官も使って、とにかく手持ち情報をフル回転させて脳内検証をするようです。

いずれにせよ、感覚は単独で働くのではなく、他の感覚に影響して協応的に働く。そして行動にも影響するということです。音や味わい、或いは映像や光景といった感覚刺激によって感情が左右されるというのはこういった現象によるということです。ホットモメンタムがこの様な現象を利して感情を盛り上げ、プラス感覚の刺激を持ってポジティブ感情を喚起させるという仕組みは脳科学的に確かなものであり、感情は感覚刺激の操作的な活用によって転換することが可能である、という背景がクロスモーダル現象の効果にあるということです。

自己暗示、特に「アファメーション」と「クロスモーダル現象」。この二つがモメンタムのエンジンということです。

それでは皆さん、次回のソモサンも何卒よろしくお願い申しあげます。

 

さて皆さんは「ソモサン」?