ホットモメンタムを駆り立てるワーク ~ソモサン第255回~

行動(行い)から感情を作り出す

皆さんおはようございます。

NHKの「チコちゃん、、、」という番組で少々ハテナな解説を耳にしました。「人間は興奮すると何故飛び上がるのか」という疑問に対して、「目的や対象がない場合、心の持って行き場がないので上に飛び上がる」というのです。ここで解説にまたまた脳科学者が登場していました。その方曰く、「人が興奮すると側頭葉にある線条体が刺激される。そうするとそれを受けて身体が反応する」とのこと。ここまでは脳科学の分野で、これまでも私も記述してきた内容です。さて問題はここからです。「そうすると身体の反応はその興奮の刺激を与えてくれた存在の方向に向かって行動が導かれる。それは例えば自分の好物が目の前に現れた時にそこに向けて手が伸びたり、歩み寄ろうとする動きである」。この辺りからは最早脳科学ではなく心理学的な解釈であるが、まあ良しとしましょう。「その際にバスケットで勝利してオリンピック出場になったといった場合、その歓喜の興奮は向かうべき対象がなく、その場合上に向かって行動が出る」。というのである。皆さんはこの解説どう思われますか。私的には「好物に手を伸ばす」反応辺りから「眉唾」を覚えます。皆さんも実際の場面を想起して下さい。皆さんは眼の前に好物が現れて興奮した場合、瞬間的に手を伸ばしたり、そっちに向かって歩み寄りますか?私ならばまず「やったー」とガッツポーズをしたり、飛び上がります。その上で手を伸ばしたり、歩み寄るのですが、如何でしょうか。

この場合、人の反応は2つの段階を辿るというのが、心理学的に見た私の解釈です。まずは気持ちとしてのホット・モメンタムが発動します。この時の身体的反応は感情的な興奮に対する反応で、例えば四肢がグッと伸びたり、リズミカルに身体が動くといった動作が生じます。そしてその次に矢継ぎ早にクール・モメンタムが発動して、「欲しい」という思いに従って対象物に向かって意図的な動作が働くというのが本当のところだと思います。つまり興奮してジャンプするのは、目的や対象が不在なことに対しての意図的な反応ではなく、純粋な感情的な身体的な反応として身体が激しく伸びることから生まれる反応だということです。

でもNHKはどうしてこの様な疑問符が付きやすい解釈をするような脳科学の学者さんを呼ばれて解説をさせるのでしょうか。一般の人が教授といった肩書や、昨今では脳科学と云った学問が魔法のような印象を持って信じ込まれることを利用していのか分かりませんが、ともあれあまり良くないやり方のように感じる今日このごろです。最近「チコちゃん」の番組の解説に疑問を呈する投書が頻繁に見られるようになってきていますが、子供の教養番組としては良い番組だと思っているので、よい番組作りに取り組んでいただければと思うところです。

ということで今回はこれまでご紹介してきた「モメンタム」の「実践的なワーク」に言及していこうと思います。これまでモメンタムの重要性や活用のポイントについて色々とお話させて頂きましたが、実際にモメンタムについて取り組む場合、最も重視しなければならないのは、瞬間的に「心に火を付ける」、言い換えると感情面にアプローチするホットモメンタムの領域よりも、その火を持続させるクールモメンタムの取り扱いです。

モメンタムは情動に働きかけ、やる気に働きかけ、動機に働きかけて、心を知情意三位一体的に火を付ける作用です。そして感情部分への働きを担うモメンタムをホットモメンタム、思いという心根を担うモメンタムをクールモメンタムと区分けされます。

昨今うつ傾向の人が増加傾向にあり、感情的な領域でもなかなか火が付かない人がいらっしゃるので、ホットモメンタムもそれなりに重要ですが、結構感情面に火を付けること自体は様々な手法がありますし、効果も上がっています。やる気や動機づけと称してホットモメンタムに焦点を当てたワークを紹介するものも出回っています。

ホットモメンタムのポイントは「気持ちを熱くする」ことですが、以前からご紹介させて頂いているように「気持ちと行い」は一体のものなので、気持ちが行いを左右するように、行いが気持ちを左右します。このことは行いを使って気持ちを操作することが出来るということを意味しています。例えば人は沈鬱になると身体が縮こまって下を向きますし、気分が高揚すると胸を張って上を向きますが、この動きを使って意識的に胸を張って上を向くと「何とはなしに」気が晴れてくるといったような使い方が出来ます。

この行いを使うのが「座禅」や「ヨガのポーズ」で、特に「呼吸法」の利用です。人の体の中で自律器官は自らの意思で制御できませんが、唯一可能なのが肺による呼吸作用です。マインドフルネスにおける「瞑想法」はホットモメンタム的には肺の動きを制御して呼吸をゆっくり整えることから気持ちを静めるアプローチを取ります。そして更に呼吸と連動した心臓の動きを呼吸で制御することから心拍を人が最も平常で穏やかな状態になる数に持っていきます。凡そ70前後が安静状態と云われています。体動が安定すると感情が安定し、思考も安定します。いわゆる冷静な状態です。これには感情の鎮静感も重要な働きをします。静かな環境や心を研ぎ澄ますような音を使って安静感を促進させます。皆さんもお寺やヨーガ道場の空気感をご存知かと思います。

人は冷静になると頭がバイアスなく全方位に均等に働き始めます。脳がフル回転し始めます。そうすると集中力や判断力が鋭くなり、メタ認知力も上がってきます。そして自由意思が作動し始めると創造力も高まってきます。ここでいう思考とは「内省的な思考」ですが、思考がまさに欧米で表現されるクールな状態になってきます。クールとは身体は静かであっても脳内はホットな状態を云います。専門用語では「全域アトラクター」がフル活動している状態」と云います。

さてここで問題となってくるのは、個人の内面ではホットでも、フル回転状態でも、その中身が言動や行動で外に打ち出されなければ社会・集団としての生産性として全く意味を為さないということです。集団社会での活動を起点とする人にとってはそれは致命的です。人が社会的に意味を持つには外に向かって思いや気持ちが発信され、他者とコミュニケートされなければなりません。人はテレパシーを持たないわけですから、言動にせよ行動にせよ身体的な動きが欠かせないことになります。心理学ではこういった活動をリーチアウトと称しますが、ともあれアクションが求められます。この状態がホットということになります。

人は動きを持つと心拍が上がります。これは肉体的な活動だけでなく感情の発露の様な心的な活動でも同様です。これまで静かにしていた肉体に初動を起こすには相当の起動エネルギーを必要とします。それは丁度車のエンジンを回す時にセルモーターを回す如く、「気合い」を入れる必要があります。その初動のための起動エネルギーを充填させる作用をするのがモメンタムです。モメンタムは端から体内や心内に心的エネルギーをため込んでいる人にはそう必要とはされません。そういう人はマインドフルネスなどで心の調整をすれば自然と内在されているエネルギーが発動され始めますので、労せず行動が開始されます。マインドフルネスは心的エネルギーが乱れて効率よく発出出来なくなっている状態のときに、心的エネルギーを一点に集中させることで燃えやすくするワークと云えます。

しかし、疲れ果てている人や心的エネルギーが枯渇気味の人、或いは元々内在する心的エネルギーのレベルが低い人は何らかのスタートアップをするに当たっては「勢い」の加勢を欲します。心的エネルギーの充填が必要になってきます。また何らかの原因で挫折した人、目の前に大きな壁を抱えている人、自身が持てない人や、それによってどうしても勇気が湧いてこない人は、「後押し」としての大きな心的なエネルギーの盛り上げが重要な助力になります。その作用をする働きを担うのがモメンタムです。

気持ちが萎えている人には気持ちを奮い立たせる助力が必要です。思いが弱い、或いは思いが見えていない人には思いを湧き立たせ、それを自信に繋げる助力が必要です。前者は感情的領域であり、後者は思考的領域です。人は気持ちと思いのどちらかにおいての心的エネルギーが脆弱な状態に陥るとなかなか自力では初動が起こせません。

ニュートラルを作るマインドフルネス、ポジティブを引き出すモメンタム

それぞれは相互関係して作用しますが、マインドフルネス同様にまず先鋒として求められるのは「感情的な高揚」です。気持ちが高揚し、身体が熱くなり、血が循環し始めて頭にも血が満たされて、初めて「活動的な思考」も先鋭になってきます。血を早く循環させるには心拍数を上げていかなくてはなりません。概ね100以上にする必要があります。それを制御するのが「呼吸法」や「感情的な高揚感」です。ポイントはリズムや色彩です。また体感です。

これまでホットモメンタムのワークとして「気持ちを高揚させる」方法はいくつかご紹介させて頂いてきましたが、その根っこは殆ど同じと云えます。ともあれ、最初は気持ちを高揚させることです。

ところが人の感情は「熱しやすく冷めやすく」で、その気持ちを長く維持させるのは結構ハードルが高くなってきます。その理由として、心の何に火を付けるのか、という対象が本質的な課題になってくるのですが、そこまで行かなくても、一定の間火を灯し続けるアプローチはあります。本質的課題はそう簡単に解決できるものでもありません。でもそこに手を届かせるまで気持ちを持続させるためのモメンタムはそれなりに必要になってきます。

まずは「ポジティブ」な気持ちに誘導することです。「楽しい」「面白い」「ワクワクする」といったプラスの思考が無意識的な心根に働くことが必要条件になります。人は「接近モチベーション」と「回避モチベーション」という二大動機を持っていますが、「好ましい」ことに向けての接近モチベーションは、「それを持続させたい」と云う欲求を本質に抱えた動機です。その理屈を軸にすると、多少経過的には「苦しいこと」があっても、人は「それはスパイス的な存在」として「ポジティブ」に捉えます(それ以上の苦しみもクールモメンタムが確立していると凌駕出来るのですが、それはまた後日のテーマとさせて頂きます)。ですから目先が多少ネガティブであっても、人は結果が想定できる限り自身の気持ちをポジティブに誘導します。「ポジティブが基準」。これは人が「生きるため」に生み出した本能です。

ところでマインドフルネスは心を中立化させるために、「無念無想」でポジティブもネガティブもない「ゼロ」の気持ちを意識しますが、モメンタムは何よりも第一に「ポジティブ」を意識します。そしてこの方向付けというのがとても大切な心構えになります。方向付けをするには「目的」という「成し遂げようとすること」が不可欠になってきます。目的のない方向付けはありませんし、意味も目的を実現する道筋や努力の中で生み出されます。目的に関してはまた後日取り上げたいと思っていますが、目的の中でも人が生きる上で最も指向する意味が「ポジティブである」という意識です。人は「意味」を持つことで人として成り立ち、知能や思いを育んだ存在です。人が人である上で「意味」を外すことは出来ません。人は意味を求め、意味づけをすることで自分の存在を認識させます。その根源の一つが「ポジティブ」な意識を持つということです。

人にとって「意味」が「思い」の源泉です。そして意味合いや意味付けが気持ちを思いに繋げる役割を担っています。意味は気持ちを思いに橋渡しして、無意識を意識化させる存在と云えます。

ここで押さえておかなければならないのは、「意味」や「意味合い」を想起するには言葉を紡ぐ力がいるということです。それには言語力、語彙力が要ります。いわゆるボキャブラリーです。語彙の幅が思考の幅を生み出します。感情を持続させるには、その感情やそれを生み出す背景を意味付けることが必要になりますが、語彙力や紡ぐ力が弱いとしっかりとした意味が想起できませんし、ストーリー立ての弱い意味合いや意味づけはどうしても目先や浅慮な内容になってしまいます。応じて描かれる世界も短期的で弱弱しい内容になってしまいます。クールなモメンタムを作動させるには、語彙力や論理立て力は必要不可欠になります。前回も取り上げた「人間性に対する頭の出来」が大きく影響するということです。

モメンタムワーク紹介

さてでは長続きするホットモメンタム、長続きさせるホットモメンタムをご紹介して行きましょう。

①自分なりのルーチンを持つ

形やポーズ、振る舞いを持つ。例えば好きなポーズ、意味を持ったガッツポーズやファイティングポーズを持って、TPOに応じてそれを行うことです。大事なのは「何故その行いを自分は取るのか」という意味合いです。意味を持てばルーチン行動は作れますし、また長く続けられます。野球の大谷選手が試合前にダッグアウトの壁に向かって後ろ向きに球を投げながらストレッチするのは有名な光景ですし、歌手の人たちが朝鏡の前で笑顔を作ったり、発声練習するのも有名な事例です。私は家にいるときは毎夕1時間ジョギングや腹筋をしますが、運動すると「頭がすっきりする」という実感は一か月位経ってからでした。その前はただ身体を軽くしたいというものでしたが、この実感以来、実施は必ず風呂に入る前にしています。運動してから風呂に浸かるとアイデアが良く浮かんでくるからです。私なりの意味があってそうしているわけです。

ルーチンは一連の行動ですが、ポージングでも一定の効果はあります。昔仮面ライダーが自分の勇気づけになった人は「ライダーポーズ」でも良いですし、ウルトラマンがそうならば「ウルトラマンポーズ」でも構いません。ボクシングが好きな人は「ファイティングポーズ」で良いし、プロレスが好きな人は「アントニオ猪木ポーズ」でも構いません。ゴルフのスイングでも、剣道の素振りでも、ガッツポーズでも何でも構いません。大事なのはその所作に対する意味づけです。何故その動きをするのか。その動きはどういった感情と繋がっているのか、そしてその背景や意味合い、ストーリーはどういったもので、動作に連動してそれらが思い起こせるか、が大事になります。そういったルーチンやポーズがこれまでの成功体験やポジティブ感情に基づいたものならば云うことありません。そういった自分なりのルーチンや決めポーズを持てば、それが引き金となって気持ちを盛り上げるきっかけを作ってくれます。

➁自分の心の琴線に触れる「格言」や「教え」「決めコトバ」「フレーズ」を持つ、それを想起したり、それを声に出して唱える

時には大声で叫ぶのも「呼吸法」的な作用を伴って効果が上がります。これに応じて助力的な効果を発揮するのが「カラオケ」です。歌はリズムを持っているのでモメンタムがリッチになります。この時マイフェイバリットソング(持ち歌)を持っているとより一層効果が上がります。これは口ずさむのも鼻歌も口笛でも効果があります。大事なのはその中の詩がどういう詩かということです。ただ好きと云うだけでも効果は上がりますが、それがビート良く、ハイリズムな歌だと心のエネルギーはグッと上がります。最近では「アニメソング」に人気が集中しています。Yosasobiの「アイドル」などはかなりテンションが上がる楽曲です。私は古いですが「マジンガーZ」を歌うと盛り上がります。ゼーット!

以前ペップトークをご紹介させて頂きましたが、これも同じ意味を持った働きかけのワークです。ペップトークも337拍子のように応援的なリズムで盛り上げながら唱えると効果が上がります。

さて意味を目的と合わせて深ぼっていくと意義という世界に入っていきます。意義は自己の存在や態度決定に対する価値観の認識決定であり、目的の源泉です。目的とは意味を満足させるための動機付けという役割を担っています。人は意味を満足させることを本性とする存在ですがそれを具体的な行動に繋げていくのが目的と云うことになります。意味にはゴールがありません。ある意味に対する解釈や納得を目指した目的が達成された、或いは満足になった瞬間に、また次の意味への興味や探求心が湧くのが人間の性です。こういった世界を「思い」と称します。思いという心の状態に勢いを付けるのがクールモメンタムです。

今回もだいぶ紙面を使ってしまいました。目的意識やクールモメンタムに関しては次回の話とさせて頂くことに致します。

それでは皆さん、次回のソモサンも何卒よろしくお願い申しあげます。

 

さて皆さんは「ソモサン」?