• 組織運営の大原則⑥~組織運営で中核となる大原則たる動機づけについて~ ソモサン第247回

組織運営の大原則⑥~組織運営で中核となる大原則たる動機づけについて~ ソモサン第247回

組織運営にまつわる支柱的4理論の流れ

皆さんおはようございます。
「やる気」とは一体何でしょう。「ポジティブでアグレッシブなエネルギー」という表現や、「意思の力(ウィルパワー)」という表現があります。何れにしても行動を呼び起こす源泉です。
現在「組織運営の大原則」という命題を持ってブログを綴っていますが、組織運営の大原則は20世紀初頭に続々と発表された四つほどの経営管理論が元になっています。きっかけとなったのは19世紀後半から始まった第二次産業革命による企業の組織化の急進展です。競争がグローバル的に展開し始めて、どこの企業も経営資源の効率的な運用や生産の増強が求められるようになったことに起因があります。

①科学的管理法
最初の理論は米国のテイラーによる「科学的管理法」です。これは徹底した「現場作業の標準化」を追求する組織体制の構築が肝になっています。ここから「職能別組織」という考え方が生まれてきました。科学的管理法は組織の中に管理という概念を確立させたという貢献がありますが、効率を重視するあまり、現場の人間性を軽視して、時に労働強化や人権侵害に繋がるといったマイナスももたらしました。
②管理過程論
続いて出た理論が仏国のファイヨールによる管理過程論です。これは管理という考えを更に過程別の機能として管理行動をより精緻な形に促進させました。
③組織統治論
この動きと前後して組織を支配形態として分析して、最も合理的で機能的な組織は軍隊などの官僚制組織であると理論を展開したのが独国のヴェーバーです。ヴェーバーの理論はここ二回ほどでご紹介させて頂きました。この理論は米国のバーナードによって経営に応用され、システム・アプローチという理論に発展しました。
④人間関係論
さてここからが今回の骨子です。こういった「経済合理性の追求」という命題に沿って展開された組織論に対立的に生まれてきた原則論に米国のメイヨーとレスリスバーガーによる「人間関係論」があります。この理屈はエジソンが作った電気会社のホーソンという工場での実験から発見されました。それは当初現場の作業能率は客観的な職場の環境(照明や空調など)によって影響されると描いていた予測が、現実は個々人の人間関係や目標意識に左右されるといった内容でした。
またそこでは人は集団の圧力、仲間意識や集団規範が大きく影響するといったことも見出されました。これを機に欧米では経営管理論の中心が人間関係論に移行して行ったのですが、何故か日本では現代に至るまで組織運営思想の基軸は合理性の追求に傾斜したままになっています。
因みに科学的管理法は早々に戦前の逓信省を経由して電電公社や日本電気に移入され、研究もされたのですが、人間関係論が日の丸的に導入された動きは見られません。背景には日本の帝国主義思想の最中だったということがあるのかもしれませんが、こういったことが影響しているのかもしれません。ともあれに日本は人間関係への探究がマネジメントに反映されていないのが戦前戦中からのマネジメント思想が切り替わらない遠因になっており、それがいまだに続くネガティブが基調のマネジメント態勢に影響しているのかもしれません。これではやる気も動機もあったものではありません。まず持ってマネジャーのインデックスに「やる気」とか「ポジティブ」といった人間に関する知恵が刻まれていないのですから。

脳科学的に見た「目的」の機能

近年になってようやく「やる気」のような「動機」に関する関心が取り沙汰されるようになり、心理的安全性とかポジティブ・アプローチといった考えが巷間に乗る様になってきました。「やる気」とは文字通り「意欲」つまり「意図的欲求」を指します。「意図」とは「目的に対する考え」のことです。これは人が人ならしむべき心の持ちようです。
米国の心理学者マズローは人間が人間として持つ欲求を研究し、底辺に位置する動物的欲求(条件反射的欲求)から高次に向けて人間的欲求(意図的認知欲求)を段階的に層別し、最も高次に自己実現欲求を配置する「欲求段階説」を提唱しました。そして後にそれをハーツバーグは二つの要因に分けて、低層を動物的要因、高層を人間的要因と位置付けました。そして動物が行動主義的に反応する領域を「衛生維持要因」、そして人を人たらしめる自由意思の領域を「促進要因」として欲求のあり方を定義づけました。例えば「生き続けようとする」生存や「生命や種族を保守しようとする」安全秩序を衛生維持と呼び、それが満たされた後に上位に形成されるのが「群れようとする」集団帰属や「優位でいようとする」自我地位、そして「自由意志で目的を持つ」自己実現を促進要因と呼んで二つの要因の成り立ちを明確に区分したのです。
意図的欲求とはハーツバーグの要因説でいうところの「促進要因」といわれる領域です。そしてその意図の中でも最も強く誘引するのが「目的」という意識想念になります。
では目的とは一体何なのでしょうか。目的とは「成し遂げようとすること」「目指すこと」のことですが、哲学的には「存在する意味の証」ということになります。言い換えると「人は目的という意思を持って自分の存在を認知する」そして「その目的に意味を持つ存在こそが人間が人間であるという証である」という意味です。
この人が「生きる」を意識するにおいて、何故目的意識を第一義に想起するのかについては「脳の働きと心の関係」の研究がかなりの水準まで解明してきています。米国の脳科学者であるフリードマンは、脳活動のパターンはまず刺激が神経を揺さぶり、それが自律神経などの経路を通って辺縁系に伝達されてそこにある能動的で志向的な感覚のモジュールが意味のパターンを構成して、それが知覚になると説いています。そして学習によって前頭前野によって修飾された脳がこの知覚を更にこれも学習によって会得された言語によって感情や思考を形成する流れを取っているとしています。人は言語によって知覚を意味付けし、思考化して論理に引き上げます。これは前頭前野の仕事です。フリードマンは、この流れを生み出す原動力がアトラクターと呼ばれるカオス現象であり、そしてそれを誘う志向という働きが「目的」という存在の原型であると定義していますが、この辺の理屈はかなり複雑なので今回は端折りますが、要は「目的」という存在は脳内での最初は無機質な刺激と反射の活動が、心という有機的な次元にまで辿り着く自然界的な方向づけの存在であるということです。そしてこれはモメンタムを着火させて瞬間的に情動を盛り上げた後、それを如何に持続的なモメンタムに転嫁させていくかにとって重要な着眼点を示しています。

持続モメンタムを生み出すカギ

行動によって着火させたモメンタムを瞬間現象にせず、持続的なモメンタムに転嫁させる、モメンタムを育むには、素早い感情の言語化、感情の意味的理解が欠かせません。
キャンプで良くあるのが、せっかく着火させた火種がすぐに燃え尽きて消えてしまうという現象です。焚き火は点火するだけが目的ではありません。その火を使えるように火を育てる必要があります。これを一般に熾火といいます。吹子を使ったり、薪を効果的に組んだり、木々の転換を上手にしたりとあの手この手で火の加勢を損なわない様に調整して行かなくてはなりません。
ここで重要なのは「良質な薪」を準備すれば安心だという誤解です。良質な薪とはモメンタムで言えば「質の良い目的意識」や「使命感」「自己実現欲求の意味付け」といったものです。
このような質の良い勢いの材料がいくら準備されていたからといって、それに着火した火種がちゃんと燃え移らなければ何にもなりません。肝心なところ、タイミングで火が消えては全ては徒労になります。上手な持って行き方が明暗を決めるのです。
この演出的な動きがモメンタムを持続化させる大きな鍵となってきます。中脳辺縁系を活性させているドーパミンを前頭前野にも効果的に働かせる誘導を仕掛けるのです。
そのポイントは「言葉化する」ということです。音楽でいえばリズムやビートだけでなく、頭にイメージが浮かぶ(これは言語化の作用です。人は言語が無いとイメージは浮かべられません)様なメロディーや歌詞を一緒に聴取する。感情を揺さぶる絵画や造形を意味付けるといったアプローチをすることが大きく効果を発揮します。
最近ナラティブ・アプローチとかドラマ学習といった手法が耳目をあび始めていますが、これもそのアプローチの一つです。皆さんも禅などが単に坐禅を組むだけででなく、写経したり、般若心経を読誦する光景を目にしたことがあると思います。これは般若心経という「大義」「目的」の心中醸成が事前にありますが、事あるごとにそれを想起して持続的にモメンタムが上がる様に演出する所作に他なりません。しかもあのアプローチは一定のリズム付けで着火モメンタムとしての感覚感情にも刺激を与えるという二重効果を持ったやり方になっています。
私たちはモメンタムを持続化させるやり方として「ペップトーク」という技法を使っています。
更にヒプノシス的に「自己暗示」という技法も応用しています。
更には意味を持った慣習として、日常のルーチン行動を設ける(大谷選手の壁投げやイチロー選手の素振りの様な)のも効果は的面です。
詳しい内容は以前のブログに書きてありますのでご参照頂けますと幸いに存じます。
ペップトークは簡単な暗示も兼ね合わせて、内容を「337拍子」のパターンで毎日癖づけるのが効果的です。最近私はブログ原稿を練るのに「ちょこザップ」というジムを使っての40分運動をルーチン化させています。その際、耳にオープンイヤーのヘッドホンを付けてブログに参考となる書籍をAmazonのオーディナブルを使って聴く様にしています。結構ハイになっていると耳に残るものです。
さて次回は、直接前頭前野を刺激して持続モメンタムの火種になる薪をいかに燃え易く作り上げるかについてです。米国ではこれを「グリット」と称している研究者もいる様です。
常に意識してしまう暗示(呪いのようなもの)のようになる目的とか習慣づけや癖づけとなる目的や意味合いとはどうやって作れば良いのでしょうか。動機づけの心理作用から見て「柳の枝に飛びつくカエル」理論に叶う、諦めず息切れせず、かといって舐めないレベルの目的や意味合いとはどういう考え方をすれば浮かんでくるのでしょうか。
次回はその辺りについて言及して行きましょう。

それでは皆さん、次回のソモサンも何卒よろしくお願い申しあげます。
さて皆さんは「ソモサン」?