組織運営の大原則を認識する②~ソモサン第242回~

組織での仕事の大前提:「主導の原則」

皆さんおはようございます。

では今回は前回に引き続いて他の原則を順次ご紹介していこうと考えております。

「主導の原則」というのがあります。簡単に言えば仕事に対して主導権を握ることです。と聞きますと何やら権力じみた話の様に聞こえますが、ここで言うところの主導権とは自主的に意思を決定するということ、つまり自主性の話です。自主的に意思を決定するということは、常に先んじて動き、速やかに方針を決定する行動に繋がります。当然のことですが、主導権を握るためには情報の収集と周到な準備が必要不可欠になります。

ここで一つ皆さんにご注意をさせて頂きます。多くの方々は周知の話なのですが、こういった原則は他の原則と相互関連的に存在しています。ところが時に自分の都合の良い原則だけを振り翳したり、(理解不能なのですが)一つの原則をあげるとそれだけに執着してそれを振りかざす人がいます、この「主導の原則」もその一つです。自主性だからといって何でもありではありません。勝手放題好き放題にこの原則を振り翳されては組織は大混乱をし、瓦解してしまいます。

「主導の原則」は、あくまでも先にご紹介させて頂いた「三面等価の原則」における権限委譲の範疇内での原則であるといったことは大前提です。人は多くの場合論理や感情(例えば信頼感)よりも権力の強弱に反応して行動するという特性があります。いわゆるマウント行動などがその典型です。これは論理性が乏しい方や感情的に自身や自己肯定感の低い人ほどその傾向にあります。そういう人ほど「主導の原則」を主導権と交錯させて暴走します。また部下が権力に応じて動いているにも関わらず、自分の人望といった信頼感情に応じて動いていると錯覚する人も多く見られます。何れの場合も「主導の原則」に対する無知曲解から起きる問題です。ともあれマネジメント資質のない輩に権限を与えると意図的か錯覚を問わず横暴を極める人材がいるのは事実です。要注意な原則と言えます。

「主導の原則」は、例えば仕事に予期せぬトラブルが発生した際、(予期せぬトラブルに備えて予備のリソースを確保し、十分に対応できたならば、主導権を手放したことにはなりませんが)対応に追われて本来の業務が放置されてしまったなら、主導権を手放したということになります。つまり「主導の原則」が崩れます。

ベンジャミン・フランクリンは「仕事を追え。仕事に追われるな」という名言を残していますが、自主性を持ち、仕事を主体的に追うことで、余裕を持った対応ができるようになります。

「主導の原則」の背景にある「奇襲の原則」と「機動の原則」

さてこの「主導の原則」ですが、先の「三面等価の原則」との絡みでお話ししますと、そこには「統制限界と分権」という問題が背景にあることが見えてきます。これはある意味「統一の原則」とぶつかる様にも見えますが、実際には「統一の原則」を補完する原則という立ち位置です。

組織は同一時間に同一行動を取る学校の授業とは異なり、同一時間に全く異なった行動をそれも連動的に取ることが大前提です。そして組織が大きくなればなるほどその複雑性を増すことになります。更にそこに時間の短縮化迅速化が加わるとその難易度は天文学的になってきます。そういった中で指令や情報を統一するには当然のことながら人間的な能力限界が生じてきます。そこで求められるのが分権や権限委譲になります。一般には小集団単位で5人を超える様になったら統制限界を考えて補助をする人間を設けて分権的に統治をするのが好ましいと言われています。今はIT技術が進んだのでより多くの人間を束ねることが可能になりましたが、それはあくまでも論理的な結合の場合で、人が持つ感情を鑑みるとやはりせいぜい10人が限界と見られています。 「主導の原則」の最も根本的な意味は、軍隊的には「奇襲の原則」を守ることにあります。これは敵方が予期しない時期、場所、方法などにより、敵に対応する時間を与えずに打撃を加えることです。いわゆる先手必勝ですね。また奇襲によって得た成果および主導権は速やかに拡大し、目標の達成に繋げる必要があります。これをビジネスに適応すると、競合他社に先んじて市場にインパクトを与えるような行動を行うことになります。最大の効果を生み出すためには、情報を秘匿し、先手を打つあるいは最良のタイミングを見計らう必要があります。総じますと俊敏性が勝負になると言うことです。これはコンテンジェンシー・プラン(不測事態対応)と言われる受け身の状態の場合も同様の条件になります。

 

そしてそれには「機動性」が不可欠です。そこで求められるのが「機動の原則」です。機動とは、目的の達成に必要なリソース(人員、金銭、物資、情報)をいち早く集結させることです。軍隊においては戦力となる兵員を素早く配置することを意味します。

「機動の原則」は、ビジネスの現場で商品開発や重大なクレームの発生時などさまざまな状況において必要となります。商品開発においては競合他社に先んじて顧客のニーズをつかみ、商品やサービスを開発し、優位を得られる市場に提供する必要があります。それを行うにはマネジャーが権限に含まれるリソースを迅速に運用しなければなりません。

権限委譲や自主性の醸成は組織が上記の様な動きを取るにおいて必要かつ十分な条件となって来ます。

戦略を実現する組織を運営するための「経済の原則」

では次に経済の原則についてご紹介致しましょう。「経済の原則」とは、「選択と集中」を示す概念です。戦力を一点に集中させるとき、他の方面に利用する戦力は制限しなければなりません。軍事学の古典である孫子も「至るところ守らんとすれば、至るところ弱し」と説いています。

ここでポイントとなるのは「捨てる」勇気です。マネジャーは時として「切り捨てる」という非情な判断を下さなければなりません。今まで培ってきた技術、実績、人員といった様々な要素も、仕事の達成にそれほど役立たないのであれば「使わない」という選択をする必要があります。

これは人間の身体も同様です。現代病と呼ばれる病気の主因は肥満であることが分かっています。要するに食べるばかりで適切な排泄が出来ない人が万病を抱えているというのが実際です。

そして中核的な仕事に集中することです。わずか2,000人ほどの織田信長が40,000人以上ともいわれる大軍を擁する今川義元を破った「桶狭間の戦い」はあまりにも有名な話ですが、この勝因は、織田信長が今川義元の本陣に対峙する箇所に戦力を集中させることでした。

ビジネスの現場においても、販売競争の戦略立案などに集中の原則は応用されています。例えば新たな飲料商品を企画・開発・販売する場合、飲料の市場は巨大で、かつ大手の競合他社が存在します。しかしターゲットを絞って集中的に企画・開発・販売すれば、大手よりも自社が小規模であってでも新商品の立ち位置を確立できる可能性が高まります。実際私が昔お伺いしていたO薬品さんは、「新商品の開発以上に手こずったのは、その商品を集中的に売ろうとする営業体制に持ち込む事だった。マネジャーが当ての分からない新商品よりもこれまで売れていた商品に固執して集中をしなかった。そこで評価を変えて新商品を第一の評価基準にしたら商品が軌道に乗った」とかA食品さんでは「組織的な体制を新商品を売るための形にまで変えた。それでも過去商品に拘ったので、組織文化を変える全社運動を展開した)と教えて下さいましたが、それ位「集中と選択」は重要な組織施策になってきます。マネジャーの意識と行動が全てを決すると言う好例といえます。

組織の情報流通のための指示と報連相を支える「簡明の原則」と「正確性と適時性の原則」

更に、「簡明の原則」という原則があります。簡明の原則とは、命令や指示、そして報告や復命は明瞭かつ簡潔でなければならない、というものです。複雑または、あいまいな命令は、命令や指示を受ける側に誤解や混乱を引き起こします。命令や報告は簡明なものであるからこそ、全力で任務を遂行することができるのです。

ただし簡明の原則でいう簡明は「何も考えない」ということを意味しているわけではありません。課題について熟慮し簡単に実行できる内容にかみくだくことでシンプルな命令や報告にたどり着くことになります。その為にこの簡明の原則にはもう一つ重要な原則を内包しています。それは「正確性と適時性の原則」です。正確性とは「事実ベース」であるということです。情報には「事実」によるものと「類推」によるものと「決めつけ」によるものとがあります。後者になる程に主観的になってきます。報連相において情報が歪みを持って思考や意思決定に甚大な問題を生む主因は、この情報流通の統制がいい加減で、事実と類推と決めつけが混在してもたらされることにあります。何が事実で何が類推で何が独断かが分からず、前回ご紹介した霧の中での判断に誤りを生じさせてしまうということです。

私の経験では、意図的な場合は犯罪に近い行為ですが、多くの場合は自分が得た欠損情報を主観で埋め合わせて辻褄を合わせることから生じている場合が殆どといえます。人間の頭はそう良くはありません。ズボラな人はノートも取らずにその場限りで話を聞き、分かった気になります。そうしてその情報を伝聞する段階になって忘却した欠損部分を自己保身的に埋め合わせようとして、情報を主観で埋め合わせしまうのです。そこにその人特有のバイアス思考が加味されるとその情報は百八十度変わってしまうこともあります。全く恐ろしい話です。そういう人ほど責任意識がないので困った問題です。

また指令系統の正確性がないと、情報が上下左右に適切に入ってこない中で情報の欠損状態が生じ、足りない情報によって意図的ではなく歪んだ判断や誤った判断が行われるといったこともあります。更にそこに他の人の情報による歪みが加わる場合もあります。その人が主観的で権力者だとその情報や理解に巻き込まれる場合もあります。

そして適時です。これはタイムリーということです。私の経験ではこれが生む時間差による誤った判断というのが非常に多い気がしています。適時でない情報は情報がないに等しいといえます。寧ろ後追いで入ることほど無念なことはありません。良くあるのは自分にとっての判断基準で情報価値を見ることです。下の人間はそもそも構造上大局が見れない立ち位置にいます。そういった人間が勝手に自分の視座や視野で情報を判断して抱え込んだり、優先順位づけをすると組織は極めて痛い目に遭うことになります。報連相は適時性が勝負になります。また適位性(適する立場の人に適した情報が正確に伝わること)が勝負になります。これこそ指令系統の原則の肝といえます。

情報や意図は命令にせよ報告にせよ正確で適時なのことが大原則になります。

不測の事態に備えられることを常態化させる「例外処理の原則」

最後に「例外処理の原則」をご紹介しましょう。例外処理の原則とは警戒をもって不測事態を避けるということです。不測事態を避けるためには情報を常に収集し、備えを怠らないことが重要です。それには単に「注意せよ」と命じるだけでなく、指揮官が瞬時に対応できる様な体勢を準備しておいて、有事には具体的かつ効果的な施策を実施させなければなりません。無論そこには迅速で正確な報連相は前提条件になります。前の原則で報連相をご紹介しましたが、実は報連相は口頭だけではありません。報連相とは組織の情報流通のあり方をいっています。報連相が常に有効になるには指令統一だけでなく、その情報を正確で適時に入手する態勢や反応出来る態勢を具備しておく必要があります。

例えばビジネスの現場において、情報の外部流出や工程の不具合、クレームなどの不測事態がそれに相当し、これに対する事前の警戒や有事での迅速で具体的かつ効果的な施策がマネジャーによって講じられている必要があります。それを行おうとすれば、マネジャーが現場と有機的に接触するのは良しとして、そこに没頭して、ましてや率先して動いている様では出来るわけがありません。こういうマネジャーは本来の自分の仕事が分かっていませんし、資質に欠けるというのはまさにこういう人を指します。

例えば「業務用のノートパソコンを紛失するな」と命じるだけでは、具体的かつ効果的な対策とはいえません。この場合は「業務用のパソコンを持ち帰らせない」「業務用のノートパソコンを紛失した際にも機密情報が漏れないよう、起動時のパスワードを複雑で推測しにくいものにせよ」「パスワードを5回連続して間違えたら、ロックされる設定にせよ」といったことを講じて、実際に命じ、同時にそれを実行し徹底させることが現実的です。そして有事には有効な対策を行わなければなりません。当然それを機敏に行うには事前の予測や準備が必須となります。

それには常日頃から部門の社員の仕事を熟知し、人間的な資質も観察して、それこそ先手必勝を講じて置く必要があります。

マネジャーの仕事はこういった様々な大局的な動きや不測事態に備えてメンタル・リハーサルし続けることです。それを行うにおいて、日常の作業に自らが没頭していてはそういった仕事の遂行は不可能になります。

だからこその分権や権限移譲ともいえるのです。ところがどうでしょう。自らがパソコンを紛失するマネジャーが後を経たないという会社があります。全く組織も何もあったものでありません。

皆さんの組織はこのような組織行動の基本がきちんと浸透し、上からしっかりと統制されているでしょうか。トップ自らが無知蒙昧では話にもなりません。それで下がついてくると思っている様では笑止千万です。

次回は文化、様式としての組織行動の基本に触れてみたいと思います。いわゆる暗黙知としての組織の当たり前ですね。

それでは皆さん、次回のソモサンも何卒よろしくお願い申しあげます。

さて皆さんは「ソモサン」?