モメンタムの世界観を振り返る ~ソモサン第238回~

ショートソモサン①:要するにモメンタムって何なの?

皆さんおはようございます。

これまで半年ほど追っかけてきたテーマ「モメンタム」ですが、ここらで一度まとめと整理をしておきたいと思います。

モメンタムとは直訳的に言いますと「勢い」という意味です。「勢い」とは「覇気が触発されて発奮したり、ノリが上がったりといった状態」のことで、そこには「パットしない心に火を付ける働き」も含まれます。英語ではgain momentum(勢いづく)とかgive momentum(勢いづかせる)といった表現をします。心を奮起させるにおいて、良く「動機づけ」とか「モチベーション(意欲)」といった表現を使うケースがありますが、これらが総じて外的要因を用いた報酬提示などによる思考的なアプローチによって「やる気」を喚起する働きであるのに対して、「モメンタム」は内的な体動や五感などへの躍動的な刺激によって直接感情にアプローチして「その気」を惹起する働きをするのが特徴です。しかしモメンタムをより確かなものにするには、動機づけ的なアプローチを加味することはとても重要になります。一般に動機づけと云われるアプローチはモメンタムにおいて「クール・モメンタム」と称しています。

人の動機の源泉は、その人の価値観に応じた目的意識と報酬意識に由来します。ですから当然その有無が重要な要素になってきます。クールモメンタムは動機となる報酬要因を「打算的弁別」によって自己に有利な行動選択を勢いづける働きを担っています。この弁別によって人は単に目先の感情だけに囚われず冷静に状況判断をし、奮起するか否か、どれくらい奮起するか、などを瞬時に選択して行動を取ります。これに対して「ホット・モメンタム」と称するモメンタムは、五感的に受けた感情や内発動する感情に応じて反射的に生じる行動で、そこには理非分別は関与しません。ですから時には暴発したり暴走したりといった危険性を孕んだ動きになる可能性があります。これをより自己に有利に作用するように制御するのがクールモメンタムです。モメンタムはいずれも脳内での伝達物質であるドーパミンの働きであるということが分かっています。これが脳内の所定の部位に働いて判断や行動を発動させることになります。ドーパミンは報酬系で人の前向きな動きを促す物質です。鍵はポジティブ行動です。

このことはの2つポイントを示唆しています。一つは思考や感情の発動によって刺激反応や行動(特にホットモメンタムによる反応行動)が喚起されるということは、逆に対応する刺激反応や行動を使って思考や感情を操ることも可能だということです。例えば色感や音感、肌感といった感覚刺激や運動による体感の活用です。そしてもう一つはクールモメンタムが確立していないとホットモメンタムの制御が出来ないということです。言い換えると目的意識がなかったり、思考力や判断力が脆弱な人はホットモメンタムをうまく発動できなかったり、様々な制御ができずにモメンタムが自分に不利に作用することになりかねない、ということです。いわゆる躁鬱的な行動は、もちろん病的領域もありますが、心の未発達がもたらしていることもあるということです。

例えば利己的な人は躁鬱意識に陥りやすいということがあります。自分の感情の度合いが測れないが故に気持ちが偏ったり暴走するとか、人の本性は社会的安定であり、それが利他を生み出していますが、その心の秩序からすると利己は内的にアンバランスを生み出し、それがマイナス思考やネガティブ思考を生み出しやすい土壌を作ってしまうからです。私の部下でも表向きは特定の問題による鬱的な症状でしたが、その実はそもそもの気質である非常に内向的で利己的な心情が何に対してもネガティブな受け止め方を先導し、それによって周りを翻弄させ雰囲気を暗くさせる人材が居ました。家庭での教育や親の接し方が甘やかす方に偏っていたのかもしれません。大きな傾向で見ても、最近こういった人材が増えているような実感を持っています。

このようにクールモメンタムは間接的な作用をするので一見看過しがちですが、ホットモメンタムのあり方を左右するとても大きな存在であると言えます。特にクールモメンタムの源泉たる目的意識が不在な場合、ホットモメンタムは着火しなかったり、ネガティブな着火やマイナスを助長する着火になったりします。また思考が足りないと、見通しが利かないのでやはりホットモメンタムがマイナスに着火されたり、時に暴走したり、迷走します。

有利にホットモメンタムが起動するには、日常の中でのクールモメンタムの滋養が重要になります。そしてクールモメンタムを滋養するには、目的意識とアイデンティティの確立がポイントになります。また創造的な思考力や教養の啓発が必須になります。更にそこにマインドフルネスによる心のニュートラル化で思考の偏りや感情の起伏が常にリセットされる準備状態が加われば言うことがありません。

ここで注視しておきたいのは、マインドフルネスはあくまでも心をニュートラルにする手段であるということです。確かに人はマインドフルネスの瞑想によって前頭前野が活性しポジティブになるので活性化するという効果がある云われていますが、それは概ね気持ち程度です。マインドフルネスで本当に活性するのは元々クールモメンタムがしっかりしている人が心の疲れを癒やすことでホットモメンタムが作動し始めるからです。クールモメンタムがしっかりしていない人は単に気持ちが落ち着くだけか、全く「?」であるかのいずれかです。またホットモメンタムも肩凝りのように心がくたばっていたり後ろ向きになっている人にとってはマインドフルネスでは着火しません。ホットモメンタムを着火させるには時にはダイレクトに働きかけないと行けない場合が多々です。むしろ今のストレス時代ではその要請のほうが圧倒的だと言えます。

ショートソモサン②:モメンタムアップの総合的なアプローチを整理します!

では具体的にそれぞれを盛り立てて行くにはどうすればいいのでしょうか。まずはホットモメンタムから始めることにしましょう。

ホットモメンタムはまさに「心に火をつける」というアプローチです。人は心に火がついて熱くなると、活動的になります。その最も端的な反応が心臓の鼓動が早くなるということです。そしてそれに合わせて呼吸も早くなります。興奮状態になるわけです。では人は一体どういった時に興奮状態になるでしょうか。それは感情的なうねりが早くなる時です。例えば急迫不正な状態になったとか、恋愛感情が爆発したとかいったような心に余裕がなくなる感情状態や思考が追いつかないような感情状態に陥った時に生じていきます。そしてもう一つ、他者の感情のうねりに同調して感情が揺り動かされる時があります。特に思考的にも協調できる波長でのうねりの場合は否応なしに心が突き動かされます。そしてその心の揺れに合わせて思考や行動が反応します。時には生理的な身体反応までもが同調して動きます。

こういった人の心が持つ特性にホットモメンタムを意図的に起動させるヒントが隠されています。その一つは身体反応に直接操作的な介入をして、そこから感情に揺さぶりを掛けるアプローチです。それが音楽を使ったビートアプローチです。モメンタムが躍動するリズムやビートを使ってその波長によって心を揺り動かすという方法があります。これは日本でも古くから様々な民族音楽によって風習的に各地で営まれてきました。お神楽やお祭りなどがそれです。また宗教でもそういった特性を生かしたアプローチがあります。踊り念仏や読経などです。こういったアプローチはアフリカやオーストラリアなどといった諸外国でも未だに見られます。

最近ではロックやジャズ、ダンスといった音楽の中にその技法が垣間見られます。このような音やリズムを使ってモメンタムを高める様々なアプローチがあります。

そしてそこに後述するクールモメンタムに属する「意味づけ」が加わるとその効果は倍増します。詩歌やメロディー(旋律)によるストーリー展開です。それが思考的にもホットモメンタムを持ち上げる働きを行います。

さて音が聴覚ならば他の感覚はどうでしょうか。視覚でそれに該当するのは色彩とモチーフ(フレーム)になります。人は原色や暖色に躍動を感じます。また相対色によるコントラストなどにも興奮を感じます。そこに音楽で言うストーリー性が加味されると思考的にもモメンタムが持ち上がるのは音楽の場合と同様です。

更にこの音楽や絵画(彫刻も含む)に一定の匂い(香りと言った方が良いかも)や味わい、肌触りが加味されるとその効果は滴面です。

ところでここまではどちらかというと受け身的なアプローチを中心にお話してきました。しかしモメンタムは受け身よりもリーチアウト(能動的当事者的に動く)した方が効果は格段に上がります。音楽だと自分で演奏する。絵画だと自分で描いたり動画を取るといった塩梅です。演奏と言っても歌うだけでも、それは鼻歌でも口笛でも十分です。声を出すこと、張り上げることがモメンタムを高めます。

そして能動的なアプローチとして最も有効なのがスポーツです。中でも武道はクールモメンタムにも関連しているので効果が高まります。その観点で言えば、茶道や華道なども一種の体動的なアプローチですので非常に良いと考えられえます。チームで行うスポーツは相互シナジーも得られます。今そういった着眼点から「アクティビティ」というアプローチ手法に関心が高まっています。アクティビティは簡単なところでは立っての屈伸やラジオ体操などでも十分効果があります。またジョギングやランニング、最近話題のコンビニジムのちょこザップなどへ顔を出すのも良い取り組みです。ともかくちょっとしたタイミングで意識的に身体を動かす習慣を身につけることです。そして外に出ること、光を浴びてセロトニンを補給することです。一日に一回は外に出るようにそして身体を動かすように習慣づけることが肝要です。

また興奮したときに出るポーズがあります(例えばガッツポーズ)。モメンタムが上がると人は条件反射のように特有の構えを取りますが、これも身体反応の一つです。ということはこの動きもモメンタムを上げるアプローチとして役立ちます。自分得意のポーズを意識的に取ることでモメンタムを上げることが出来ます。手を握りしめたり、腕を上げたり、シャドーボクシングをしたり、素振りのポーズを取ったりとアプローチは自由です。自分が乗れる格好や動作をします。

このようにホットモメンタムは自分の感情を高めることによって発動させることが出来ますが、心の運動は体の運動同様に急にやると無理が働いて筋肉が切れたり、怪我をしかねませんから事前準備も重要になります。これは単純に疲れている場合もさることながら、心がストレスで凝ってしまっている場合などは非常に注意が必要です。無理が祟って返って心が折れてしまったり、反作用的に落ち込んでしまっては何にもなりません。

この準備運動に値するのがマインドフルネスになります。瞑想は心だけでなく目を休め、姿勢を正すことで身体を調律して安めます。また集中によって脳を休めます。色々な角度で心身をリセットさせて調律させます。一旦ニュートラルになってから次に入るのが大事です。まあマインドフルネスは心のラジオ体操といったところでしょうか。

ホットモメンタムを発動させるクールモメンタムがしっかりしている人は、それだけでホットモメンタムが起動し始めるということは前述の通りです。

しかし現代の多くの日本の若者のようにクールモメンタムがしっかり作られていない人は、それだけでホットモメンタムが発動することはありません。また発動させても一過性ですぐに火が消えてしまいます。

きちんとホットモメンタムの火が着き、それが持続するようになるには、日常からクールモメンタムの準備をしておく必要があります。ホットモメンタムもクールモメンタムもどちらも同じ要因に寄っています。脳内で伝達物質であるドーパミンが多く早く分泌されるか否かです。モメンタムを上げるアプローチは言い換えるとドーパミンの分泌を活性させて、流れを多くさせたり早めさせるアプローチと言えます。日常において事前に着火させるための材料を充実させ、その機能を高めるアプローチをしておくということです。

その一つが目的意識の保有とそのブラッシュアップです。人は目的的存在です。目的に向かって動機づけられます。目的とは心の拠り所です。人によって目的は様々ですが、大事なのは自覚です。それによって人に流されることなく、心を地に足をつけた状態にすることが出来ます。これは判断や意思決定に大きく影響します。まさに燃えやすい材料を形成する行為と言えます。

もう一つはポジティブ意識、プラス思考への調律です。人は元々はポジティブな存在です。それが様々な経験や学習、影響によって歪みや脆弱化をもたらしてしまい、心を燃えにくい材質の原料にしてしまいます。それではいくらマインドフルネスをしても、ホットモメンタムを煽っても簡単に着火はしません。

クールモメンタムが適時にかつ効果的に作用するよう、日頃から調整しておく必要があります。例えば軽いところでは自己観察をして自分の特徴を知る(特にバイオリズム)とか、自己称賛を意識して自信を少しずつ醸成するなどです。またやや本格的には催眠暗示(ヒプノシス)などによる認知バイアスの修正や認知行動的レジリエンス強化といった心に蓋をする構えを取り払うアプローチや自己感情の理解と制御を行うアプローチなどです。催眠などは原体験を探求して他者評価を気にしたり承認欲求に引っ張られることからすぐにネガティブになるといった自分の習癖を矯正するには非常に効果を発揮します。更には教養を高めて感受性を高めたり、思考の多様性を磨いて柔軟な考えが持てるようにすることも大事です。このような方法で心の規制力を外す取り組みをすることによってクールモメンタムがスムースに作用してより効果的にホットモメンタムが作動するような心の環境を作ることがとても大切になります。

このクールモメンタムが健全に機能する人には、ここを刺激することでホットモメンタムを発動させることが可能になっています。それがペップトークというアプローチです。ペップトークは自分にとって動機づけとなる言葉や動作を自発的に行うテクニックです。例えば自分が燃える一言を自分に投げかけるとか、自分が燃える動きをタイミングよく行うといったやり方で、スポーツ選手などはそれを試合前や試合中の出番でルーチン的に行っている人もいます。イチロー選手のバッターボックスでの構えや大谷選手の試合前のボールの壁投げなどがそうです。相撲選手の顔叩きとか塩投げもそうですし、役者さんたちの独り言や口ずさみ、独唱などもその一つです。このように自分を鼓舞する意味を持った言葉や歌、動作を自分なりに作って所有するのは非常に効果的です。

ただこういったアプローチも自己の枠組みの中で展開する限り、一定の限界にぶち当たることになります。それを超えるにはやはり他者との交わりは不可欠です。他者の持つ多様な思考や感情と触れ合った時に自己概念の殻が壊され限界の突破口になることは確かです。人との相互作用こそが人の飛躍的な成長の起爆剤となります。集団や組織的な相乗性を持って一段ステップを上げたモメンタムの醸成が今の日本の若者や組織の未来を作る鍵となっています。

モメンタムこそが創造性を生み出し、ポジティブな行動を喚起し、ポジティブな集団や組織や社会を育みます。未来はポジティブ意識とプラス思考からしか生み出せません。皆さんも是非真摯に組織や人にモメンタムを育ませる取り組みに目を向けてみてください。

いよいよ連休明けになります。新人さんの五月病が発生する会社も多々あることでしょう。新人さんのモメンタムを上げるには、単に個々の心の問題に原因を帰した取り組みをするだけではなく、社会や組織における常識に対して幼少からの無知が引き起こしている面を解決するという面に対する取り組みをしっかりさせるということも多々あるように感じています。これは上司や先輩の責任でもあります。そういった観点から、次回のソモサンでは久しぶりに「組織における行動の基本とは」についてコメントしていきたいと考えています。

それでは皆さん、次回のソモサンも何卒よろしくお願い申しあげます。

さて皆さんは「ソモサン」?