• 嘘にまつわる感情の動きとシグナル・マネジメント ~LIFTプログラム⑤~ ソモサン第186回

嘘にまつわる感情の動きとシグナル・マネジメント ~LIFTプログラム⑤~ ソモサン第186回

ショートソモサン①:うそはどこにあらわれるのか? ~人の内面を写す「目」~

皆さんおはようございます。

先だってテレビでフランス人の家族へのインタビュー場面を見掛けました。その中でフランス人の子供の躾という話題があり、その際

「フランスでは食事の前には必ず乾杯をする。その時のルールとして、乾杯の際には絶対に相手の目を見ながら乾杯すること、というものがある」といった紹介がありました。これには「もしかして食事の中に毒が盛られているかも知れないというお互いの疑惑を確認するための行為」

という何やら物騒な理由があるというとのことでした。

だから乾杯という行為では、相手の様子をみながら必ず杯をぶつけてお互いの内容物(まあワインですね)を混ぜることが大事なのだそうです。その様子の確認となるのが相手の目の動きです。まさに嘘を見極めるときにおけるシグナル・マネジメントの話でした。

確かに日本人のような集団主義民族はその根っこに農耕意識があり、その前提は「分かち合い」であり、「信頼」が基本ですが、欧米、特に欧州は狩猟や騎馬を軸とする搾取の民族で、その前提は「奪い合い」「疑惑」になります。これが個人主義の起点にもなっています。そういった基本を文化として抱いている人達からすれば、お互いを信用するには、最初に試し合いが求められ、それが育成段階からの躾の中にも組み込まれているのは当たり前のことなのでしょう。

ともあれ欧米の対人への価値観は、幼少からの躾によって自動思考レベルからその前提は「人は手放しで信用するな」です。これはネガティブに「疑え」ということではなく、自己保全のために埋め込まれた、相互が信頼を得るためのステップとしての基本的価値観なわけです。

例えば、欧米の挨拶は握手ですが、この場合も相手の目を見て行います。そして互いに利き腕を握り合い、すぐに武器が持てない状態にします。一方日本ではお辞儀です。これはお互いに頭を下げ、相手から目を外す行為です。その姿勢は「私はあなたを信用しています。いきなり斬りかかられても逃げ出しません」という意思の表れです。真逆ですね。その証に日本でも日本的な流儀に乗りながらも相手を信用しない挨拶のやり方があります。いわゆる任侠の挨拶です。お辞儀の体裁をしていても頭は絶対に下げません。相手を睨みつけます。腰を屈め足を開いて何時でも動けるようにし、利き腕も前に出して何時でも武器が手に取れるように身構えます。「おひけえなすって」のあの構えですね。本当に所変われば品変わるの一端を見る思いでした。

新入社員研修などで何故挨拶を重視するか、これから組織の顔となる社員に対してお辞儀を徹底させるかの真意はこういったシグナル・マネジメントの実践にあります。幾ら日本人が信頼を前提にしているからといって手放しというわけにはいきません。見知らぬ人同士が本当に信頼関係を築くには、一定の作法やしきたりを通して相手に認めてもらうというステップは至極当然の行為です。仲間関係だけで好きに生きてきた人が組織の顔になるのですから最初の礼儀を教えて、最低限の組織的姿勢を相手に示せるようにするのは企業防衛としてごもっともな事です。まして昨今家庭でそういう教育をしていませんから尚更です。

何にしても「人の心の移ろいは目に現れる」。だから「嘘を見破るにはまず持って目の動きを観察せよ」。これが人間が歴史から学んだ身を守る術の一つというわけです。

これは詰まるところ、

「人が嘘をつく時に、そういった感情が起きる時には微表情として目の動きに出る」

ということに他なりません。心、つまり意図を持った感情の変化は顔、特に目の表情に出る。そしてその典型が嘘をついた時である。そこでシグナル・マネジメントの導入として今回は嘘にまつわる感情の動きについて話を進めていくことにしたいと思います。それを梃子にボンズ・アプローチを紹介していくことにしたいと思います。

ショートソモサン②:シグナルはどれくらいその人の内面をあらわすのか?

研究に拠りますと、人の嘘を見破る正確さは現在54%なのだそうです。そしてその内訳は状況証拠で40%、その人への知識から30%、そして行動的な手掛かりからは7%なのだそうです。これを持って学者はシグナル・マネジメントは当てにならないと喝破したがります。皆さんはこのデータを見てどう思われますか。日本人は論理信奉、特にデータ信奉があり、その典型が学者さんです。確かに7%という数字だけを取り上げると「なーんだ」となってしまいます。しかしでは何故人間はシグナル・サーチに意識を傾注するのでしょうか。フランスの躾などは無駄なのでしょうか。ここに学者の浅はかな表面的データ・レトリックによる誤謬が潜んでいます。現場を知らない学者はデータ自体の信憑性に疑いを持たず丸呑みします。そして日本人のような権威主義文化では学者が言ったといって、またその見解を丸呑みしてしまいます。

まず7%の起点となっている行動的な手掛かりですが、多くの一般人は行動的な手がかりやその見方といった知見を教育されていません。多くの場合は観察力ではなく直感的な洞察で判断しているということです。また集団主義で信頼を標榜したがる日本人は「嘘」に対して一定の嫌悪的なバイアスを掛けて判断をしたがります。「まさか」とか「そんな馬鹿な」といった具合です。これをトゥルース・デフォルト、人は生来正直だと思う、思いたいといったバイアス、と言います。実は7%の論拠にはこういった要素は加味されていません。

でも嘘を見極めるにおいて状況証拠やその人への知識ということは見逃せない点です。人はどんなに本来正直であっても、置かれた状況や立場で平然と嘘をつくことは日常茶飯事です。特に悪意ではなく自己保身的な虚意に基づいた嘘はそうです。ただし人への知識、つまり日常からの人となりに関しては用心深さが必要です。かえってそのバイアスが判断を歪める場合もあるからです。普段は決して嘘をつくはずがないといった人が状況によって嘘をついた場合などは盲信が生んだ判断ミスという弊害を生み出します。

実はシグナル・マネジメントは相手を見極める際に使われるのが通常ですが、相手に印象付ける手段として使うことも可能です。よくスパイなどが使う手ですが、自分の本心を隠すために違った心根や人柄を印象付けるように振る舞うといった演出的行動の技術としてシグナルを活用するわけです。スパイなどはこれを積極的に使うわけですが、私たちの中にも日常良く使う本音隠しの手立てがあります。それは愛想笑いという態度です。嘘笑いとか作り笑いとも言いますが、愛想笑いは本当はネガティブな心情なのに、自己保身を第一に相手にポジティブを印象付ける行為です。いわゆる媚を売るというやつですが、結構これに騙される人間観察力に劣る人が大勢います。現状は増加傾向にあるのも確かです。

この愛想笑いに騙された中で相手を善意の人とか正直者とか、嘘はつけない奴だとバイアスが掛かった中で嘘を咬まされたら最悪です。特に悪意ではなく虚意といった嘘だとこういった逆シグナル・マネジメントを掛けられた中だとほぼ間違いなくコロっと騙されます。私も最近結構人を見る経営者だったベテランの方が、その慢心故にコロっと騙されたケースを目の当たりにした経験があります。

ということで学者の偏った実証によるデータでは7%かも知れませんが、行動的な手がかりを持って相手の嘘を見抜く技術があるのであれば、それを身につけておくことに損はありません。

ここで前もって断っておく必要があるのは、嘘を見抜くということと、今回紹介しているシグナル・マネジメントとの因果関係には直線的なもの以外の要素があり、微表情などから一つの感情を持って嘘を見極められるわけではないということです。

人が嘘をつく時の感情には微表情でご紹介している感情の中でネガティブな感情としての5つが全て絡んできます。そこに愛想笑いなどが加われば6つの感情が関わることになります。

またシグナル・マネジメントの目的はあくまでも感情の動きを見定めて相手とポジティブな人間関係を生み出すためであり、嘘を見抜いたり、相手を利用することが目的ではないということです。その点十分にご理解を賜りたいところです。

ショートソモサン③:あなたは人の嘘をどう見抜きますか? ~2つの嘘とシグナルマネジメント~

では少しづつ切り込んでいくことにしましょう。嘘があるとき、そこには5つの感情が働いています。嫌悪、軽蔑、怒り、悲しみ(罪悪、苦悩)、恐怖です。更に時に幸福が混ざることがあります。ですから嘘を見極めることを行動の手がかりで行うのは至難なわけです。相当の知識と修練による経験値が求められることになります。しかし知識、理屈を知ると精度が高まることは確かなことです。

まず最初に押さえておくことは、嘘には2つの形態があるということです。先に悪意ある嘘と虚意としての嘘があるとご紹介しました。悪意ある嘘は積極的に相手を騙すための嘘、虚意とは自分の保身のために殆どの場合消極的に出る嘘です。また思い込みや錯覚によって本人は嘘と思っていないが(本当だと信じ込んでいるが)、「結果的に嘘だった」ということもあります。この2つには感情的に大きな隔たりがあります。

嘘をつくきっかけは悪意も虚意も嫌悪であることは確かです。ですから表情にも嫌悪が出てきます。また時には怒りを伴う場合もあります。当然怒りの表情が出る場合もあるでしょう。しかし悪意ある感情は相手に対しての優越感や騙す喜びが先に立ちますので、いくら平静を装っても微表情としての変化が出ます。その微表情を生み出す感情が軽蔑と幸福が混じった状態で出る感情なのです。そして混じった表情、愛想笑いのような表情が醸し出されるのです。

愛想笑い、作り笑いの表情は

①顔の表情が左右非対称になる

②口角だけが上がる

③ぎこちない(軽蔑と幸福が混ざるので筋肉の動きがバラバラになる)

④目も同様なので視点が定まらない

⑤笑い過ぎる。といった特徴が出てきます。

 

ここで着目すべきは微表情です。誰しも人を騙す時に露わに表情に出す馬鹿はいません。必ず隠そうとします。しかし人は自分に嘘はつけません。それが0.5秒以内の瞬間的な表情変化に表れるのです。ですからNHKのチコちゃんではないですが、「ポーっと生きている」と見切れません。観察眼が重要になるのです。無論微表情だけでは心許ないのも確かです。ですからシグナル・マネジメントでは更に目の動き、話し方や声の調子、口調、物言いの姿勢、身振りや手振り、態度といった生体反応を伴った身体的な動きを加えた中でしっかりと全体を観察して複合的に捉えていくわけです。

先ほどは悪意を話しましたが、では虚意の場合はどうでしょう。虚意は消極的な嘘です。つきたくは無いがついたとか思わずついてしまったという嘘です。この場合に生じる感情は、悲しみです。嘘をついたことへの罪悪感であり、苦悩が表情に出てきます。またバレるのではないか、という恐怖も表情に出てきます。

7つの感情には全てそれぞれなりの特徴があります。それが通常の表情でも出ますが、多くの場合本音として瞬間的な微表情として表れます。その動きを見極められれば人の今の気持ちやひいては思いが推測できます。それがポジティブであれば更に誘発させ、ネガティブならば、それをおさめたり、それをポジティブに転じてもらう手立てが講じられます。これは対人関係を良好にする上において、マネジメントを効果的にするにおいて非常に重要なポイントと言えます。

皆さんこの技術を身につける重要性に納得して貰えてきたでしょうか。

これを身につけるにはまずは7つの感情の持つ表情の特徴、特に微表情の特徴に対する知見を高めなくてはなりません。前回2つの感情をご紹介しました。嘘を見極めるには驚きを除く6つの特徴を知る必要があります。そう嘘を見極めるのはシグナル・マネジメントとしては最終段階の極めて複雑な技能が求められるんです。

そこで今回は嘘の中核をなす「軽蔑」という感情から切り込んでいくことにしたいと思い、前回の案内でもメッセージさせて頂いたわけです。

「軽蔑」とは優越感、蔑み、冷ややかさといった否定的な感情の総称です。本心と表現に食い違いがあるが故に、表情が左右非対称になるのが特徴です。「片方の口角が上がる」といった按配で、冷笑とかニヤリといった表情として出てきます。自分が相手よりも優っていると感じたり、他者が自分の社会的基準にとって不道徳な、あるいは不作法な行為をしていると嘲笑する時に表れます。「軽蔑」が表情に出がちな人は、日常の人間性として「他者を比べて評価したがる傾向」があり、「他者に対して劣等感があるのを裏返してみる」否定的なパーソナリティがあります。因みに赤ちゃんに「軽蔑」は表れません。「軽蔑」は人が自分と他人とを区別して比較するような価値判断が身につけた時に初めて表れる特質だからです。

人が悪意を持って嘘をつく時には、「こいつならば騙せる」といったどこか相手を馬鹿にしているとか、見下している心理が働いています。また消極的な場合でもやはり「騙せる」と期待するから嘘をつくのであって、相手に対して劣等感の裏返し的な「見下したい意識」「騙したい意識」が働いているのが深層心理と言えるでしょう。まあ恨みのような気持ちですよね。人が持つマウンティング的な意識は永遠のものです。

ということで、嘘をテーマに追っかけるのはまた改めてとすることに致します。

軽蔑やその他の感情を見極める手掛かりとして微表情のみならず目線や仕草といったノンバーバル・メッセージとかボディ・ランゲージという生体反応的なシグナルを総合的に見ていくにはもう少し多方面のシグナルの要素について紙面を割かなければならないのですが、今回はボンズ・アプローチを見通すにおいて、シグナル・マネジメントと双璧をなすペップ・トーク・アプローチ、ポジティブ誘導するための介入技術についてご紹介していきましょう。

ショートソモサン④:今日の誰かの話を「傾聴」しましたか? ~対人能力の基礎「聴く」~

ペップ・トークとは、もともとスポーツ界から生まれたアプローチ法で、選手を激励する短い(心に突き刺さる)メッセージのことを言います。意図的にポジティブな言葉を使って相手の気持ちを高揚させたり、不安を解消する技術です。理屈ではなく感情に訴えかけるトーキング・アプローチです。皆さんもご存知のように論理は「理解」というフィルターをかけて間接的にコミュニケートされますが、感情は波動のようにダイレクトに共振します。そこに怒りがあれば何でもなかった人も不快になり怒りが波及します。そしてダイレクトたる感情がワンテンポ遅い思考に影響して理解を歪めてしまうことが多々あります。ペップ・トークはこの性質を逆手にとって人の感情をポジティブに誘導し、元気付ける技術です。

JoyBIzではこの技術をよりシグナル・マネジメント的に展開して、物言いやメッセージのみならず、アプローチする側の態度や表情、口調などもポジティブ的に駆使して全体の雰囲気を一気にポジティブ状態に塗り替えようとするアプローチです。

こういったアプローチは古くから対人関係の基本として重視されてきました。JoyBizでは対人能力とは「観察力」「傾聴力」「洞察力」「客観力」「表現力」「肯定力」の6つであると捉えています。シグナル・マネジメントはその中の「観察力」「洞察力」であり、ペップ・トークは「表現力」「肯定力」です。JoyBizのボンズ・アプローチは残りの「傾聴力」と「客観力」という論理的な理解の側面を加味して構成されています。

今回は紙面の都合もありますので、ボンズの大前提である古くからある「傾聴力」についてを紹介することにさせて頂きます。対人関係の基本は、「自分のことが分かってもらえない」の前に「相手を分かろうとする」です。それも自分で勝手に作った相手像を見るのではなく、今の実態を見ることが第一義とします。それをするにはまずは相手の目をしっかり見て、相手の話をしっかりと聞けないといけません。

最近相手の話をきちんと聞けない人が増えています。話の途中で「相手が言いたいことはこうだろう」と見当をつけて全部を聞かない。またすぐにネガに価値判断して反論する。こういう人が増えてきています。頭の良いと言われる人ほどそうなっています。

また相手を見て話をしない。相手を見ていても視ていない。話を聞いていても聴いていない。こういった状況で自分を分かって貰おうなど虫のいい話です。相手は本音を隠している場合もあれば、無言で語っている場合もあります。そういった中できちんと相手と話をするには「聴く」という心構えがいります。

「聴く」とは「受け入れる」ということです。ロダンの彫刻の中に「聴く」と銘打った彫像があるそうですが、それは両手を大きく空に拡げ、全てを受け止めるような姿勢をしているそうです。

聴くという行為は、非言語的なボディランゲージとしては相手を受け入れているという無言のメッセージとなり、これが相手にポジティブな印象を与えることがあります。「聴く」という行為はペップ・トークでもあるのです。

では「聴く」という行為について言及してみましょう。

①話す量を今の10分の1にする。

②話したから相手はわかってくれるものでは無いということを自明する。

③自分のことを受け入れてもらいたいというような利己心を排除する。

④相手の示している反応に注視して、動きに気づく。

⑤客観力を持って聴く。

⑥相槌を欠かさない。頻繁にうなづく。

⑦まずは肯定的に受け入れる。ニュートラルに徹する。

⑧相手の話をまとめる。

⑨相手の話をポジティブに言い換える。

⑩相手を主語にして、相手を中心に置いて聴く。

などがあります。

他にも、

・ポジティブな語彙を多用する

・ネガティブ言葉である疑問言葉は少なくする

・言い訳でも最後まで聞く

といったことがあります。大事なのは同意ではなく、共感の姿勢を示すということです。まずは感情を優先に対するということが傾聴力の導入なのです。

こういった前提があってよりそのコミュニケーション状況をプラスに引き上げていくのが「観察力」を軸にしたシグナル・マネジメントや「表現力」を軸にしたペップ・トークなのです。

次回は2つ目の感情である「嫌悪」における微表情やシグナル・マネジメントを率いる観察力の要所、そしてペップ・トークと表現力などについてお話を進めて進めていきたいと考えています。

次回も、是非ご期待いただけますと幸いに存じます。

さて皆さんは「ソモサン」?