• 組織文化とOD⑦:内部統合の課題① ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-205~

組織文化とOD⑦:内部統合の課題① ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-205~

今回から組織文化の内部統合機能としての側面を見ていきます。最初に、シャインが言っている以下のことについて理解しておきましょう。組織文化は、「集団の連帯感を生み出す」とか「個人が一人では達成できないことをグループで達成する」というプロセスとは異なるということです。ある時点での人々や集団の活動を見ていると、これらのプロセスを組織文化と区別できない事が多いものですが、概念的には明確に区別すべきであるといいます。OD実践家として何らかの組織活動の変革支援をしてく身としては、シャインが言うところの理解はとても重要です。では、内部統合機能としての組織文化の課題はどのようなものなのでしょうか。シャインによれば、それは次の6つになります。「①.共通言語と概念分類、②.グループの境界線およびメンバーの入会・退会の基準、③.権力と地位、④.親密さ・友情・愛、⑤.報奨と制裁、➅.イデオロギーと宗教」。

シャインの主張に沿って、それぞれもう少し詳しく見ていくことにしましょう。「組織文化とリーダーシップ」ではかなりのページを割いていますが、論点とする主要な部分のみについて言及します。

最初は、共通言語と概念分類です。

  1. 一つのグループとして機能するには、一緒になった個々人がコミュニケーションにおいて、起こりつつあることの解釈を可能とする言語を持つことが必要です。当然ですが、メンバーがお互いに意思疎通したり、理解したりできなければグループは成立しません。要するに、「言っていることが分からない」ではグループが成立しないんですね。私たちの身体は、多すぎる不確実性や過重な刺激には耐えられません。知覚や思考を一定方向に組織化することは、それによって不必要なものを取り除き、重要なものに焦点を合わせることになります。それは、過重な負荷や不安を軽減するための重要な手段であり、かつ協調的な行動のための前提条件です。なるほど、だから人々をある方向に持っていくことが必要だと思う独裁者はプロパガンダを重視するのですね。
  2. 共通言語と概念分類でシャインが説明していることを理解する上で、私自身が分かりやすい例だと思うのは、「マネジメント(Management)」という言葉についての認識です。「マネジメント」という単語は、アメリカ文化を特徴づける行動的、楽観的かつ現実的なアプローチを反映した単語です。ところが、ドイツ語にはこの「マネジメント」と比較できるものが存在しないのです。英語圏であるアングルサクソン以外の他の言語にも「マネジメント」と比較できる言葉が存在しないといいます。ほほーですよね。その言葉が存在しなければ、同じ意味の概念自体も存在しないでしょう。日本はどうでしょう。「マネジメント」という単語は「管理」という言葉に置き換わって使われていますが、そもそもの「マネジメント」がもつ概念とは、かなりかけ離れた概念として理解されているようです。すなわち、「管理」は窮屈で、ルーティンで、間違ったことをしないように、というような概念として捉えられています。管理者研修などで、「管理は好きですか」という質問をすると、ほとんどの人が「嫌い」と答えます。「管理は好きですか」という質問自体がちょっとネガティブな意味を含んでいますが、要するに概念的理解が違うのです。企業では、「高品質」「良い製品」「低コスト」「なるべく速く」「市場」という言葉はあたり前のように使われる単語ですが、それとてこのような抽象的表現が何を意味するかを決定するために、メンバーはお互いの意味空間を習得する必要があります。メンバーが異なった概念的分類システムを使っていれば、何をすべきかについて合意できないばかりか、何が現実であり、何が事実なのか、いつあることが正しく、何に注目すべきかなどについて合意ができないのです。そうすると、仕事は混乱するか非効率的になること間違いありません。
  3. コミュニケーションができていないということは、多くの場合、意味分類について基本的に異なった仮定をしていることに気づいていないことに起因しているのです。意味分類の違いは、当然のことながら私たちの行動選択に影響を与えます。会議などの席で、何も意見を言わない行動を選択しているAさんに対して、議長は「彼は無能である」というレッテルを貼るかも知れません。しかし、Aさんが「出しゃばってはならない。意見の表明は許可を得てから」という文化で育っていれば、Aさんは意見を言う準備をしていて、議長から意見表明の機会を得られないことに欲求不満を抱いているかもしれないのです。このようなズレは、双方ともが誤った仮定を正当化し、「自己完結型の予言(人は無意識のうちに自分の思い込みや固定観念に縛られ、その考えに沿った行動をしてしまう事がある。思い込みが現実になってしまう心理学的な理由)」の古典的な例です。

 

共通言語と概念分類は、私たちの選択と行動に強い影響を与えます。組織文化を見極め、何らかの変化を起こしたい場合、最初に理解しておきたいことです。(続く)

  • 参考文献 「組織文化とリーダーシップ;H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。