• 嘘とシグナル・マネジメント -7つの感情と微表情を知る- LIFTプログラム④~ソモサン第185回~

嘘とシグナル・マネジメント -7つの感情と微表情を知る- LIFTプログラム④~ソモサン第185回~

ショートソモサン①:嘘はよいことか?悪いことか?

皆さんおはようございます。

先だってNHKで「嘘」に対する研究が紹介されていました。

冒頭、「嘘はいけないことか?」という問いかけから話題は始まりました。私たちは幼少期から「嘘はいけないこと」と育てられました。刑事法の中に「確信犯」という用語がありますが、これは幼少から犯罪に属する行為を「良いこと」と育成された中での刑罰をどうするかという命題です。日本の刑法は教育法が基調ですから「狼に育てられた子供」同様に教育ができるか否かは大きなテーマです。

そういった中で放送では「嘘と発達段階」について、及び「ホワイト・ライ」と称される嘘に対してが詳しく紹介されていました。今回の出だしはそのご紹介から入っていきましょう。

研究データでは、嘘とは「人が集団生活をするための副作用である」と説明されていました。嘘とは本来集団生活を維持していく中で自分や人を傷つけないために生み出されたもので、そういった手段である嘘ということがきちんと付けるかどうかは発達問題に関わるという内容です。実際実験によると、人は3歳でその半数が嘘をつき、4歳で倍増し、7歳になると100%が嘘をつくようになるとのことです。その理由として嘘をつくには認知能力の発達が求められるからであると説明されていました。つまり嘘をつくとは、まず他者という存在を認知できるかどうかが鍵なわけです。何故ならば嘘をつくには相手の気持ちを推論する能力が求められるからです。

そう認知力に障害があると言われている発達障害において最も大きなポイントの一つは「嘘がつけるかどうか」にあります。私の周りでも「嘘がつけない」人がいます。馬鹿正直というか、何でもペラペラ口に出してしまいます。こう言った人を「彼奴は正直者だ」と言って称賛する人がいますが、多くの場合悪意ある人からうまく利用されている実態を見る限り、これは見方を変えなければその人だけでなく周りに対しても不幸な結果を招いてしまいかねません。嘘をつけないということは、嘘、ひいては虚意か悪意かをを嗅ぎ分けれないということでもあるからです。

また放送では「ホワイト・ライ(白い嘘)」という言葉も紹介されていました。これは相手を思ってつく嘘のことで、ある種優しさの表れでもあります。時には場の雰囲気を壊さないという配慮の時にも表れます。こう言った嘘は心のあり方として優しさの方が正直さを超えるということを意味します。対人関係の無用な軋轢を避けるための潤滑油としての嘘もあり、言わないという嘘もある。放送では、本当のことをいうだけでは息が詰まるわけだし、要は場を守ることを重視して、感情的にならないように嘘をつくことが重要で、詰まるところ、嘘の生成自体が人における社会的行為であり、嘘自体は悪いことではない。問題は嘘は無くすのではなく、上手に取り込んで行くことであるという風に収めていました。

確かに自分のための嘘、自己保身のための嘘は困りものです。発達障害の場合、嘘がつけない状態からスペクトラム的にやや成長した場合でも、他人の気持ちや他人が認知できず、自分保身のためだけの嘘を振り撒く人もいます。そして障害的な無意識としてそれを認知できていない人もいます。

私は嘘をつくための認知力と感受性に相関を見ています。嘘をつけないということは、嘘を見極められないということに繋がるからです。これは防衛本能として自分が嘘をついているということに気付かない、つまり自分が無意識に嘘をついているということを認知できない人も同様です。人によって言うことを変える、時に真逆なことを言う人などがその好例と言えます。まず持って認知力が未発育な人は嘘がつけないだけでなく、人の気持ちが分かりません。何故ならば心のベクトルが常に自分自身を向いた状態で外側にいる他者の存在が映ってこないからです。だから自分が嘘をつくという行為の分別自体が認知できないわけです。見渡すとこういう人は結構巷にいる、というより年々増えてきているように感じています。

この分別が付かないという弊害によって、人との間合いが取れず、極端に自尊心が働き、激情によって自他を傷つける人も良く目にするところです。

しかし私はそれ以上に気にしていることがあります。発達障害は先天的で生理的存在ですから、基本その修復は困難で、その状況にあった対応を周りがしていく以外に手立てはありません。問題は、親の、というか親からしての人間教育の歪みや欠落による後天的な養育不全、心理的な発育不全の人の存在です。所謂「大人子供」です。過保護や育児放棄などから生じる現象です。原因は大きく違いますが、症状は同じで他人を思う気持ちに未発達がある存在です。こう言った存在が学歴偏重で社会に増殖する中で起きている問題が巷に溢れ始めています。

昨今頻繁に話題に上がるダイバシティやジェンダー問題なども大切な視点ですが、私はこう言った発育不全者による社会行動上のマイナスというインフラ問題ももっと真摯にみて行かなければならないと見ています。実際私の周りにも一杯います。

ショートソモサン②:今の自分はどんな感情をもっているか?(感情への感受性を高める)

今回踏み込んでいくボンズ・アプローチ、特にシグナル・マネジメントにとってもこの嘘という意図に伴う感情、そしてそれを表現するところの表情、声の調子、身体の動きについて、それをどう見切っていくかということはコミュニケーション上とても大切な領域だと感じています。嘘には積極的で悪意なものもありますが、その多くは本音を隠そうとしてつかれる虚意なものです。そういった虚意につかれた嘘を信じてコミュニケーションや信頼関係に食い違いが起き、その溝が大きくなることで関係がどんどんマイナスとなって自分や相手のみならず周りが不利益を被るようになっては悲劇です。そういうことを未然にポジティブ化するための切り口となるのがシグナル・マネジメントのテクニックなのです。

では人が嘘をついたり、ネガティブな気持ちを抱いたりした時に生じる代表的な感情とそれが生み出す表情についてご紹介していくことにしましょう。人が抱くネガティブな感情は5つあると言われています。因みに人はその5つのネガティブ感情をポジティブに切り替える際に生じるニュートラルな感情と純然たるポジティブな感情を合わせ、全部で7つの基本感情を持っていることが分かっています。前回その7つの感情が、

・「嫌悪」「怒り」「悲しみ」「恐怖」「軽蔑」という5つのネガティブな感情

・「驚き」というニュートラルな感情

・「幸福感」というポジティブな感情

 

を合わせた7つであることはご紹介させて頂きました。

ボンズ・アプローチはこの5つのネガティブ感情をダイレクトに、または「驚き」というニュートラルな感情を梃子に「幸福感」というポジティブな感情に転換を誘引していくテクニックです。そしてその導入において大事になるのが対象の感情を読み取る技術、シグナル・マネジメントということになります。ボンズ・アプローチでは、更にそのシグナルを機に、抱く感情をポジティブに転換させたり、事前に予測してネガティブにならないように未然化を図るテクニックとして、ペップ・トークという介入のテクニックをセットとしてアプローチを行っていくことになります。

 

(1)幸福感

さてそれではまずはポジティブ感情から始めて行きましょう。ポジティブな感情の基本は一つのシグナル・パターンです。それは「幸福感」です。「幸福感」というシグナル・パターンが内在するのは、喜び、楽しみ、興奮、そして受容、承認、期待といった肯定的な感情です。「幸福感」は目標を達成したとか問題が解決したとか自己の欲求が満たされた時、意に叶った時に表れます。喜びが受容を生み出したり、承認が喜びを生み出すといったように相互関連的に発せられます。「幸福感」は更に他者に同意していることを示したり、好意を抱いていることを示す時にも表れます。このことは同意するから喜びが出るといった流れもありますが、喜ぶことから同意が生まれるといった流れもあり、意図的にそういう流れを演出することから「幸福感」を作り出すこともできます。

「幸福感」を示す表情は「笑顔」です。「ほころぶ口元」や「上がる頬」「目尻のシワ」に表れます。笑顔には「私はあなたの味方です」「私はあなたに友好的で同意的です」といったサインが含まれています。笑顔は「満足感」と「友好」の表れです。

人は感情が表情という行為に出ますが、このことは逆に表情が感情を生み出すと言うことも行動科学的に証明されています。日常の心理をポジティブにするには意識的な行動として笑顔を作ることから感情を「幸福感」にリーディングすることが大事です。即ち日々の表情を笑顔にするように意識するのは自分自身にとってもとても重要な振る舞いと言えます。

そしてペップ・トーク・アプローチは、表情や言動によって人にポジティブ感情を創出させるテクニックです。表情には物理的な「表情そのもののシグナル」と「会話上発せられる表現的シグナル」があります。表現的なシグナルとは「言葉遣い」や「言い回し」に代表されます。また会話の中には筋肉の動きから更に声の調子や口調といったシグナルも潜んでいます。声の調子とは「声の震えやトーンの上下」のことです。例えば「上ずった声」や「くぐもった発音」などです。口調とは「話し方の調子」です。「極端な早口」とか「ちょっとした失言」などです。ネガティブな感情を持っている人は、表情だけでなく、応じたネガティブな表現や口調などにも表れます。

また徐々にご紹介しますが、感情は表情や会話だけでなくその人の態度や仕草にも表れます。態度には身体的な反応も含まれます。例えば「汗のかき方」などがそれです。相手の感情をより精度良く掴むには仕草からのサインも読み取り、表情と複合的に捉えることが望ましいと言えます。

行動科学では、感情と行動が表裏一体関係にあるという理論から、感情が行動に出るならば、反対に行動で感情も制御できるという考えに基づき、あえて事前に意図を持たずとも、一定の行為から応じた感情を生み出し、その感情から意思を生成するというアプローチを開発しました。端的に言えば、ネガティブな感情は周りもネガティブにするが、ポジティブな感情は周りもポジティブにするということをうまく使うということです。感情は波長のように人に伝染し、同時に波長を受けるように共振するという特徴がありますが、行動科学ではそれをテクニックに応用転化させて、ネガティブな感情の人に対してポジティブな感情の波長を送り続けることから感情転化を図るということも開発されてきました。その波長の伝播道具が表情や口調、仕草、表現です。これを駆使するテクニックがペップ・トーク・アプローチです。

ペップ・トーク・アプローチはもう一つ大きなメッセージを内包しています。よくネガティブな人をポジティブにするには、まず自分自身がポジティブでないと行けない、といって自己改革から進める指導書が横行していますが、実践的に見る限り、これはまやかしです。ごたいそうなことをいっても、こういうことを言う人は実践家ではありません。現実として意思や意識という存在はそう簡単に内観だけで変わるものではありません。特にこれが自動思考といったレベルからネガティブ意識をポジティブ意識に変えるなどといった話になると、余程の修行を積んだ高僧でもない限り、相当の自覚や思い入れ、あるいは何らかのショック的な経験がなければ限りなく不可能に近いテーマです。人間そう簡単に意識、特に自動思考などは変えられないものです。まず持って自覚自体ができない。それが出来ていれば誰も苦労しないし、誰も悩んだりしません。にも関わらず、識者によってはアプローチとして「まずは隗より始めよ」という。全くの戯言です。確かに心懸けは大事ですが、それが出来ないとアプローチが出来ないでは何も始まりません。実際には「まずはやって見る」「訳は分からないが取り敢えずやってみる」。そしてその反応から新体験や新鮮な体感を得てみて、その感覚を通して学びが変わっていくということの方が実際的である。自分を変えてからやるではなく、まずはやってみて、その反応で自分も変えていくという方が実践的なのです。まずは「行動から体感を通して感情を拡張、変異させる」。そして「意識をも転換する」。これがペップ・トーク・アプローチという行動科学的なテクニックが持つ隠れた効能なのです。

 

(2)驚き

さて感情には更に否定的ではないですが、肯定的とも言えないニュートラルな存在として「驚き」というものがあります。「驚き」で顕著なのがあんぐり顔です。あんぐり顔とは、呆然とした顔、目も口も全部開いた顔です。ちょうど先だってNHKの朝ドラで親友が想像もしなかった相手と結婚すると報告を受けた主人公ともう一人の友人が上手にその顔を芝居していました。「両眉が上がる」「両額に水平なシワができる」「目が見開く」「口が開く」といったことが同時に起きる表情です。「驚き」とは驚愕、当惑、瞠目といった一瞬頭が白くなったような無思考状態の心理になった状態です。多くの場合予期していないことが起きた時や起きようとしている時に表れます。本能的に状況を把握しようと目を見開き、十分に呼吸するために口を大きく開けることで、脳に血を送り、できるだけ冷静に多くの情報を処理しようとする反応です。そして周りにもその出来事に準備を促そうとするサインとして表れます。

実は「驚き」は心の揺らぎを通して思考をリセットさせる作用を促します。ネガティブな心理状態に陥っている人がいるような場合、それをポジティブにすべくアプローチするには、「驚き」という感情を活用して、一旦心理をニュートラルにさせてからポジティブに誘因するという仕方があります。

「驚き」はシグナル・マネジメント的には単純ですが、ペップ・トーク・アプローチにおいては重要な感情です。ネガティブ感情に溺れている人、自動思考的に意識レベルでネガティブが染み付いている人は、いきなりポジティブ感情を促すアプローチは却って逆効果になる時があります。あまりの感情落差に意識が付いていかず、自己防衛的な反応でよりネガティブ感情を高めようとしたり、アプローチした人を疑念に思い、他のネガティブ感情の方を誘引させ(例えば嫌悪や軽蔑)、関係づくりの距離を返って遠ざけてしまうことがあります。「過ぎたるは及ばざるが如し」で極端は危険です。

そんな時、相手のネガティブ感情を一旦ニュートラルにして意識をリセットして貰い、そこから時に冷静に、時にポジティブにアプローチしていくことが非常に効果的に作用することが多々あります。その感情こそが「驚き」という感情です。相手に驚きやショックを与え、それからポジティブに染めていくというペップ・トーク・アプローチもあります。

さあ、それではこれからは具体的な実践的な使い方や事例を使って本稿を進めていくことにしましょう。まずは「嘘を見極める」に因んで、それに関わる感情「軽蔑」というネガティブ感情から始めることにしたいと思います。

さて、と言いたいわけですが、今回も相当に長いブログになって来ました。ということで具体的な内容は次回からということにさせて頂きたく存じます。

次回からは5回に分けて各感情とそのシグナル・マネジメント、そしてそれぞれに対するペップ・トーク・アプローチというボンズ・アプローチのテクニックを5事例を交えながらご紹介して行くことに致します。

次回のテーマは「軽蔑」です。次回からも、楽しみにお読みいただけると幸いです。

 

さて皆さんは「ソモサン」?