日常に起きるアンコンシャス・バイアス

~善意が善意でなくなるとき

年の瀬も深まり忘年会がたけなわになってきました。私も幾つかの会社さんからお誘いがあり、お伺いさせていただいたのですが、先般感慨深い出来事に遭遇しました。今回はその話を取り上げてみたいと思います。

ことは宴もたけなわとなり、何やら「ジャンケン大会」という景品付きの催しが始まった時のことでした。先方の司会者がおもむろに「今から景品争奪のジャンケン大会を始めたいと思います。始めに今日来客頂いた○○会社の社長からの差し入れのお菓子セット10個を景品にしたいと思います。では社長どうぞ」と案内をし、当該社長がステージに登壇したのです。

社長はマイクを受け取り、開口「来場の女性はお立ち下さい」と促しました。そして唐突に「この中で最も遠方から来た人は挙手をして下さい」と語りかけ、挙手をした人に景品のお菓子セットを渡したのです。そして続けざま「ではお子さまが3人以上居る方挙手をして」とまたまた景品を手渡します。そうして10個全部を女性にジャンケン無しに配ってしまったのです。

その間立ち上がった女性は何やら狐に摘ままれた如く成り行きに従っています。座っている男性陣も同様です。相手は来賓ですし、自身が持ってきたお土産ですから誰も留め立てすることはできません。それなりに上手にはやし立てながら対応していましたが、女性陣を中心に妙な空気が流れていたのも確かでした。

 

皆さんはこの話で気付かれることは何かありますでしょうか。そうこの話こそ典型的なアンコンシャス・バイアスです。一時代前ならば女性第一として喜ばれたかもしれません。しかしダイバシティや男女同権が取り沙汰される時代においてこれは頂けません。

この社長は現在70代前半の方です。単純に女性の気を引きたかっただけだとは思いますが、一見女性第一のように見えて、この行為は女性を特別に見た差別意識に根ざしているという誹りを受けることからは免れられません。私的には下品の極みだと感じた次第です。私を招いて下さった主催会社の社長からは「古くから東京の一等地に住まれるセレブな方」という案内がありましたが、それと品性は別物であると思います。つくづく「他人の振り見て我が振り直せ」を自戒した瞬間でした。その後何か同席しているだけで酒席が重苦しくも感じた夕べでした。

 

企業の中にはこういった動きに組織自体が疎い中小企業も未だに多々ありますが、今回の企業はヨーロッパに本社があるグローバル企業ですから、妙な空気が流れたのは当然のことです。

アンコンシャス・バイアスとはLGBTの様な、或いは民族差別のような重苦しい内容ばかりではありません。この様な身直なところにも潜んでいるのです。

~感受性のなさに気づく

「嘘つきは泥棒の始まり」という諺があります。身直な差別を差別と認識しない、或いは出来ない心性がアンコンシャス・バイアスを生み出すのです。アンコンシャス・バイアスを軽視してはいけません。これが虐めを生み、コミュニケーションの断裂を生み、引いては民族問題にまで発展していくわけですからとても恐ろしい問題だと思います。

中には、「自分にはアンコンシャス・バイアスなど無い」とうそぶく人もいます。こういう人に共通するのは「臭いものにはふたをする」「見たくないものから目を背ける」という回避欲求の強さです。例えばLGBTなど「おおげさである」「自分の周りにはいない」と豪語するひとなどがそれです。現状国内でLGBTの人の割合は7~8%と云われています。13人に1人はそういう方がいる中で、身の回りに居ないはずもありません。

しかし豪語する人は前提自体が「いるはずがない」ですから、見ようとしないし目に映るはずもないわけです。こういう人はLGBTだけがそうなのではありません。もともと回避欲求が根底にあるのですから厄介なわけです。こういう人の認知バイアスは自己中心性バイアスが強い(自分は正しい、自分は間違っていないに凝り固まっている)状態ですから、聞く耳の間口が狭く、自分の正当性を堅持することに拘泥して相手を平気で傷つけたり、否定したりすることに終始しますから、LGBT当事者の方にとっては心の安全が脅かされ続けることになります。

ましてそういう人が教師や親のような権威者であったり、日本的には年長者であったりした場合、ただただ黙するしかない状態に追い込まれます。そういった感受性のなさに気付くか否かがアンコンシャス・バイアスの肝なのです。

日常「自分は差別主義ではない」と思っておられる方。貴方も予備軍であるかもしれません。冒頭の様な差別に配慮のない浅慮な方や自己中心バイアスの強い方は一度じっくりと内観されることをお勧め致します。

さらに言えば、冒頭のような出来事に対して気が付かない、或いは気付いても「そう目くじらを立てることもないでしょう」といった安閑とした人もアンコンシャス・バイアスの予備軍です。むしろこちらの方がもっと根が深いと云えます。

 

さて皆さんは「ソモサン?」。

JoyBiz 恩田 勲