• 様々な心理効果を通してバイアスの矯正や感情のマネジメントを考えてみる

様々な心理効果を通してバイアスの矯正や感情のマネジメントを考えてみる

これをしたためている日のネットニュースで、またまた頓珍漢な記事が載っていました。曰く「もしもイチローが社長だったら!?」。

名プレイヤー(個人芸)が必ずしも名マネジャーならずというのは、あの長嶋茂雄氏をしてもそうであったという有名な話ですが、あいも変わらずこういったボケたことを安直に発想するような思考パターンが大勢であるならば、やはり日本の組織は今後益々どん詰まるばかりでしょう。

無論イチロー氏が例外の場合もありますので断定はしませんが。

 

初頭効果・自己正当化バイアスと浅慮

さて皆さんは初頭効果(プライマシー効果)という言葉をご存知でしょうか。初頭効果とは、「最初に与えられた情報が印象に残って長期記憶に引き継がれやすく、後の評価に影響を及ぼす現象」のことを云います。

平たくいいますと「人は最初にインプットされた情報を主軸に物事を思考してしまいがちなので、例えば最初にネガティブな情報がインプットされると、以後そこに向けては何においてもなかなかポジティブに捉え難くなる」という心理効果の名称です。

これは人物や物事の第一印象が長期間に渡って残るのもその範疇に入りますが、第一印象とは多少軸は異なります。第一印象は「初対面のときに相手に抱く印象」です。

確かに第一印象が悪くなると、挽回するチャンスが巡ってくる可能性は低くなりますし、もしそれから繰り返し会ったとしても、最初の印象をなかなか払拭できず、悪い印象を持たれ続けてしまうということがあります。しかしあくまでも第一印象が対面後に起きる認知であるのに対して、初頭効果は会う以前での情報も含まれます。

 

そういう意味においては先入観にも関わる領域といえます。但し先入観は、直接としての対象への認知の前に影響される、予備的な知識や、認識・把握の枠組みであり、誤った認知や妥当性に欠ける評価・判断などの原因となる知識、または把握の枠組みですから、むしろアンコンシャスバイアスの領域に近く、やはり初頭効果とは違った概念と云えます。ともあれこの初頭効果は人の認知行動に多大な影響を与えることは確かです。

 

私はもう30年以上も前から、パセプション(知覚)とアサンプション(仮定)をきっちりと分けて捉えろ、ということを肝に命じて来ました。パセプションとは「客観に基づいた思考」、アサンプションは「主観に基づいた思考」という意味で、今日的には事実(ファクト)認知と決めつけ想像(バイアス)認知といったところでしょうか。この違いこそが論理思考の基本であり、コンサルタントの生命線であると恩師から仕込まれてきたのです。

このことは、これまで何度も主張してきた浅慮(一般でいうところの頭の悪さ)と先入観には密接な関係があるということにも関係があります。

これまでの経験からのコメントですが、どうも頭の回転とバイアス、特に初頭効果に基づくバイアスとの間には相関性が強くみられるのです。

 

端的にいうと、話をしていて浅慮を強く感じる人は、総じて初頭効果による思い込みが強く、またそれに対する固執も強い傾向が見られるのです。思考の流れが一貫して一直線で、いわゆる猪突猛進という人ほど初頭効果に拘るという言い方でも構いません。

こういった頭の固さは、世のいう頭の悪さとはベクトルが違うように思えます。学校秀才と云われる与えられた命題を、受け身的にであっても非常に合理的に解析できる思考力を持っている、一般では頭が良いと評価されている人の中にも頭の固い人、直線的に或いは単線的にしか思考出来ない人はごまんといます。

こういった人たちこそが初頭効果に拘る人の典型です。アンコンシャスバイアス人材の素質と云っても過言ではありません。私的にはどうも学校教育の弊害なのか学歴的に頭が良いと云われる人ほどこういった頭の固さを最近強く感じるのですが気のせいでしょうか。例えばマスコミの記者など如何でしょうか。

 

またこういった人たちはもう一つの心理効果においても典型的に影響を受ける人でもあります。それは「自己正当化バイアス」です。

自己正当化バイアスとは、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性のことで、自分は正しいという裏付けだけを集めて、自分と違う意見はスルーしてしまったり、自分は正しくて、他人は間違っていると考えてしまう認知観念です。

当然それでは「自分が正しい」という意見のみ寄せ集めて、自分を正当化すればするほど自分の価値観に固執して融通がきかなくなってしまうわけですから、思考は直線的にまた偏ってしまうのは必定です。

こうして浅慮な人は初頭効果と自己正当化バイアスが絡み合って人へのアンコンシャスバイアスを苛烈化させ、やがて自らを窮地に貶める結果に繋がっていくことになります。初頭効果によって固定化された思考を基軸に思い込みを作り上げ、一旦それを思い込んだらそれに執着してバイアスを解こうとしないのです。

こういった人たちがマスコミなどで初頭効果を煽られると社会的な歪みにまで発展します。煽っているマスコミの記者自身に頭の固さがある場合、もう目も当てられない結果になると惨憺たる気持ちになります。

マスコミからのバイアスに塗れた情報を初頭に吹き込まれ、それに疑問を持つもなく鵜呑みして集団バッシングに走る光景を最近よく目にします。冷静に論理的に考えると何か筋が通り切らない、情報に偏りがある場面が結構あるのですが、巷間では自己正当化バイアスに則って足りない情報を自己都合での想像で補完して初頭情報に合理化して人を安易に責めたり追い詰める姿は本当に薄ら寒い気持ちがします。

 

例えば不倫問題で一方的に叩かれた俳優がいました。確かに不倫はまずいのでしょうが、誰も何故そこへ至ったかの言及をしません。そして奥さんの方をまるで聖女扱いです。様々な情報によると、奥さんは結構きつい女優で旦那が息詰まりしていたという話もあります。少なくとも聖女なのかどうかは私的には懐疑です。

いずれにしてもバッシングはされても仕事はひっきりなしの様で、まあ知る人ぞ知るといったところなのでしょうか。ともあれ真実は当事者しか分からないことです。マスコミの初頭効果に乗せられて自分のバイアスに気が付かない人は、他でもこういった決めつけで対人問題を引き起こし、非生産的な生き方をしている可能性は大のように思うところです。

 

自分を省みることができず周囲を混乱させる浅慮人財

こういったことが会社などの組織や職場内で起きるとそれこそ難儀な事態に突入します。私的に最近でもこの典型的なケースに遭遇しました。

それは親しいとある会社が他社を合併した際に起きたガバナンス上の混乱といった内容でした。初頭効果でのバイアスが如何に不要なエネルギーの逸失を招きだすかという話です。

 

この会社は例え合併された側の人材でも重用するという人重視の思想で、一般にはガバナンス上前経営者に伴って多くの幹部にも退陣を強いるといった話も多い中、現実に昇格までさせて貰えるという厚遇状態でした。

本来であれば(というかきちんと論理的に考えれば)、それだけでも十分にポジティブな初頭効果が見込まれるはずです。ところがこの会社では違った初頭効果が作用しました。ことの発端は昇格役員の一人が「俺はここではやっていけない。辞める」と吹聴している、との情報が入ってきたことから始まります。

どう考えても全く理由が分かりません。直ぐに調査を始めると思いもよらぬ動きが起きていたのです。

 

ことの次第はこうでした。合併された側の会社は前社長の独断で会社を手放す経緯にありました。その為後継会社として経営の正常化を旨に、専門コンサルタントなども使って迅速化を図ったそうですが、どうやらそのコンサルタントが当該役員に陰口を吐いたのがきっかけだったようです。

その内容は「後継会社から派遣されてきた役員が会社の状況を無視して専制的に振舞っている」といったものです。どういう意図でこのコンサルタントが依頼している側の会社の意向を無視して暗黙裡に被合併側の役員に告げ口したのか分かりません(常識の範疇外ですね)が、いずれにしてもこの役員はその言を丸呑みして、件の言動になったという次第です。

それにしても折角厚遇を受けながらも、会社の方よりもコンサルタントの言を信じて、しかも「口では任せるといったのに。こんな経営ならば俺は辞める」まで暴走する真意が測り兼ねます。

真意を確かめるべく直接自らコンタクトするでもなく、後先なく辛抱熟慮もせずに暴挙に出る心理とは一体どのような状態なのでしょうか。果たしてまさかとも思えるコンサルタントの暗躍に目を奪われてしまって思考に混乱を来たしてしまったのでしょうか。

因みにこの役員は海外担当で今回の過程での直接当事者ではありません。またどうもコンサルタントの暗躍の裏には「安直で無責任な仕事の進め方に対して派遣役員から叱責を受けた」という逆恨みがあったようです。

それにしても浅慮が初頭効果を増幅するのか、初頭効果が浅慮を生み出すのか。どっちもどっちです。ただ日本の場合後者のケースが多いのが不思議なところです。

 

しかし現実にはこういった出来事は会社の中で頻繁に起きているという実態があるのも確かなことです。少し論理的に物事を見れば、時系列的に物事を追っかけながら合理的に解釈していけば、自分の見方がバイアスがっている、他にも違った見方や解釈が出来るなどは可能なはずなのに、初頭効果に引きずられて前提を固定化し、そこからは決めつけで猪突猛進する。

そして自己正当化バイアスをどんどんと膨らませて抜き差しならなくなっていく。

 

バイアスと感情は密接不可分である

ここで注目したいのは、初頭効果にせよ浅慮にせよそれらは人の感情に直接影響するということです。意思や認知、特にバイアスは人の思考に影響するよりも迅速にダイレクトに感情に影響します。従ってよほど自分を冷静に意志的抑止、思考的抑止出来ないと感情の波に飲み込まれ、思考低下、思考停止の状態に陥ってしまうということです。そうなると前提として刷り込まれた思考のみが作動する状態に陥ってしまいます。これが初頭効果による相互作用です。

更に日本人の場合、偽の合意効果(フォールス・コンセンサス効果、総意誤認効果)と称される心理効果の影響を受けやすい集団主義の文化を持っています。

これは自分の考え方や行動は通常において正当あるいは多数派であり、同じ状況下においては他の人も同じ意見のはずだと錯覚する心理的傾向的なバイアスの一つで、自分の意見や判断、行動などを、同じ状況下であれば皆にとって「一般的」「常識的」「普通」「多数派」で適切なものであると過大評価し、それ以外のものを少数派で普通ではないと捉え、ときには非常識だとまで捉えてしまう心理状態が合理で冷静な論理的な判断を阻害してしまう現象です。

集団主義が強い条件下において強く発動します。これは所属した組織が歴史的に培った文化や風土の影響によって認知や判断が強く影響される中で頻繁に起きる思考や感情のパターンで、異文化に対して強く反発的に発動する効果と云えます。

こういった幾つかの効果が同時に相乗的に発動することから、人は認知や判断を誤ったり、バイアス的に偏らせたりします。

 

アンコンシャスバイアスの一形態ですが、こういったバイアス的な認知や判断による損失を避けるには、まずその存在(様々な心理効果を人は持っている)に気付くこと、知ること。

そして出来る限り事実ベース(いわゆる三現主義・現場/現物/現実)で情報を裏取りしたり、何よりも多元的思考で物事に接する責任意識を身に着けることです。これが社会的な観点での浅慮から脱出する最短の道と云えます。

人生を生きる上での対人力を基軸とした意味においての頭の良さを身に着けて、マネジメント的な問題解決がスムースにできる力を日本の多くの組織人に求めて止みません。

 

今回はゴールデンウィーク中ということもありまして少々コンパクトにソモサンしました。

 

さて、皆さんは「ソモサン」