• 組織の<重さ>とOD⑫~組織の<重さ>と組織プロセス 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-241~

組織の<重さ>とOD⑫~組織の<重さ>と組織プロセス 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-241~

組織で仕事をする人たちにとって、パワーという問題は避けて通れないものです。より良く仕事の成果を出そうと思えば、当然ながら社内のパワー構造に熟知しておく必要があります。そういった意味も含めて、組織の<重さ>とパワーとの関係は重要な切り口となります。組織の<重さ>では、4表に渡ってパワーのそれぞれの次元を構成する質問文と記述統計、信頼性、相関行列が掲載されています(P152~P155)。ここでは、その表からの分析を抜粋して掲載します。

  • BU長のリーダーシップとして、「部下の声に耳を傾ける」や「業績を上げるミドルを評価する」「理念を重視・発信している」の平均は高めであり、比較的多くのBU長が共通して持っている特徴であるといえるようです。これに対して、「具体策を発信している」や「企画書の細部にまでチェックを入れる」は平均がやや低めであり、標準偏差も大きいものがあります。これらの行動はBU長で大いに差があると言えます。
  • トップに影響力があるBU長は、社内他部門・他BU長および取引先にも影響力があることが見て取れます。とはいえ、社外にまで影響力を発揮できるBU長はそれほど多くありません。
  • パワーベース(同一パワー/カリスマ、情報パワー、正当パワー/地位力、賞罰パワー)の平均値は高低の差が出ています。「ライン長の命令だから従う」という正当パワーの平均値は最も高く、「昇進・昇給で不利になるから従う」という賞罰パワーは最も平均値が低くなっています。組織は市場取引と異なり、毎回「損か得か」を考えることなく、上司の命令であるから従うのが当然であると考えてメンバーが半自動的に行動するがゆえに組織なのです。ですから、部下たちがパワーを強く意識している場合、自動機械のような組織が機能不全を起こしている兆候だと解釈することもできます。その意味では、賞罰パワーの平均値が低く、正当パワーの平均値が高いということは、少なくともこの調査に参加した企業では、組織が組織として機能していることの表れだと考えることができます。
  • パワーベース間の相関を見ると、同一パワーと情報パワー(総合的な経営判断の適切性)の間に強い相関(759)がみられます。多くの場合、経営判断が適切な上司は部下から尊敬を集め、「この人のようになりたい」と思わせるのではないかと推察されます。逆に賞罰パワーは、同一パワーおよび情報パワーとはマイナスの優位な相関関係を示しています。つまり、同一パワーや情報パワーを基礎にして部下に影響力を行使しているBU長は賞罰のパワーに頼らない傾向が見られます

 

ここまでの分析は、日頃私たちが感じていることを証明しているようです。自分のリーダーは、トップにも影響力があって欲しいと思うし、賞罰のパワーを見境なくちらつかせるリーダーはあまり好まれませんよね。では実際に、リーダーシップと組織の<重さ>はどのような相関関係にあるのでしょうか。例によって相関関係表(P158、表8-5)の分析からの抜粋を掲載します。

リーダーシップ7項目の中で組織の<重さ>と最も強い相関を示すのは「具体策を発信している」です。具体策の発信は、組織の弛緩性を抑制する(-0.553)ばかりでなく、組織の内向きの調整を削減する(-0.424)にも役立っています。リーダーシップ2大機能である、タスク志向と人間関係志向を比べてみると、タスク志向と組織の<重さ>の相関関係は-0.438であり、人間関係志向の-0.287よりも大きな相関があります。「部下の声に耳を傾ける」というBU長の行動は平均値が高かったが、それはBU長であればむしろ当然の行動であり、重い組織と軽い組織を分ける効果を持たないと考えられます。組織の<重さ>ということとの関係を見れば、具体策の発信を基軸に置いたタスク志向のリーダーシップの方が、人間関係志向の「優しい」リーダーシップよりも、組織の<重さ>を軽減する効果が大きいようです。

 

対外的影響力3項目は、すべての項目について組織の<重さ>と高い負の相関関係を持っています。とりわけ組織弛緩性との相関が強く出ています。対外的に影響力のあるBU長は、おそらく仕事が非常にできる人材であり、そのようなBU長の下では、経営リテラシーの高い人材が増え、フリーライダーの発生も抑制され、皆が前向きな努力を投入していることが推察されます。対外影響力3項目平均と組織の<重さ>の相関は-0.418を示しています。組織の<重さ>を軽減するカギは、タスク志向のリーダーシップと対外影響力にあることが示唆されています。

 

パワーベースのうち組織の<重さ>と最も大きな相関関係を示しているのは、情報パワー(経営判断が適切だから従う)の-0.494です。それに次いで同一パワーの-0.429が大きな相関関係を示しています。逆に賞罰パワーは組織の<重さ>と正の相関関係0.402を示しています。正当パワーは、強くはありませんが組織の<重さ>と負の相関関係-0.233を示しています。またこの正当パワーは、組織の弛緩性とも負の相関-0.278が強く、BU内のメンバー全員に対して正当パワーが働いている場合は、ある程度の緊張感があり弛緩した組織になりにくいのではないかと推察されます。タスク志向が強く、具体策を発信しているBU長の部下ほど、BU長の経営判断の適切性を認識し、組織運営に無駄なエネルギーを使わなくて済むということなんですね。人間関係志向だけでは組織の<重さ>は軽減できないのです。

 

組織の<重さ>プロジェクトメンバーはこの分析から以下のような所感を述べています。『「部下の声に耳を傾ける」よりも、「企画書の細部にまでチェックを入れる」方が、組織の<重さ>と強い相関関係があることは意外であった。長期雇用のメンバーからなる共同体としての組織を運営していく上では「部下の声に耳を傾ける」こと自体は非常に望ましい行動のはずであり、部下の仕事に細かく口を出すような行動はかえって共同体運営にはマイナスであるように思われるが、組織の<重さ>という観点から考えるとそうではないということだ。組織の<重さ>が「弛んだ共同体」のもつ調整の難しさを表していると考えれば、この点は理解しやすいのではないだろうか。近年の企業組織におけるリーダーシップ・スタイルは、実務の場面で明確で具体的な指示を出し、組織弛緩性を放置しないタイプのリーダーシップへ変わってきてることが示唆されているように思われる』

 

組織の<重さ>プロジェクトメンバーのコメントは「なるほど」と思わせる反面、最近の企業組織(少なくともこの調査が行われた2000年代初め)では、何も言わずに任せるリーダーの下で、主体的に物事を進めていく人材が少なくなっているということも言えるかもしれません。筆者が依頼される人材開発研修の目的を振り返っても、そのような感じがします。皆さんの組織では如何でしょうか。(続く)

参考文献:組織の<重さ>2007

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です