• 組織の<重さ>とOD⑮~組織の<重さ>の克服 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-243~

組織の<重さ>とOD⑮~組織の<重さ>の克服 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-243~

組織の<重さ>研究から学ぶは、前回から組織の<重さ>をどのようにして克服するのかに焦点を移しています。今回はリーダーシップによる変革に焦点を当てます。

組織の<重さ>に関する構造的要因を探ったモデル1.では、組織の<重さ>や新規活動の調整比率を低減させる要因として、上下の情報流、下位2階層のパワーが強く影響することがわかっています。(図9-1 全体像 モデル1:一部省略して掲載)

 

 

リーダーシップによる変革分析では、タスク志向のリーダーシップ、人間関係志向のリーダーシップ、情報パワー(経営判断の適切性)の3つをモデル1と関係づけて説明がなされています。以下この分析について概略説明していきます。

  • 情報パワーを高めるリーダーシップ要因として、タスク志向と人間関係志向の両方が重要である。とりわけタスク志向から情報パワーに向かうパス係数は625と非常に高い。
  • 組織の<重さ>にマイナスの相関関係がある直接対決に優位な影響を及ぼすのは情報パワーのみである。
  • 上下の情報流を増やすためには、人間関係志向が重要である点は興味深い。また、経営判断が適切なBU長の下では、部下たちは徹底的な議論を通して問題を解決するようになり、結果、上下間での情報流が増えていると考えられる。
  • 下位2階層のパワーに対しては、人間関係志向のリーダーシップが強い影響(304)を与えている。逆に、BU長の情報パワー(経営判断が適切)が強い場合は、下位2階層のパワーが低下する傾向(-0.267)がある。BU長が優れた経営判断によって部下たちを引っ張っていく場合、下位2階層はイニシアティブを持つよりフォロアーとしての行動が強くなるといえる。
  • 組織の<重さ>は、直接対決と上下の情報流および情報パワー(BU長の経営判断の適切性)の3つによってかなり軽減される(決定係数504)。逆に、人間関係志向のリーダーシップは組織の<重さ>をそれほど軽減させない(-0.245)。
  • 新規活動の調整比率に対しては、下位2階層のパワーが効果的に影響する(-315)。これに比べると、タスク志向(-0.096)と人間関係志向(-0.037)のリーダーシップはどちらも効果が薄い。

 

ここまでの総合的な分析のポイントは以下の通りです。

「ここまでを見てみると、リーダーシップという視点ではタスク志向も人間関係志向も組織の<重さ>を軽減するという意味ではどちらも必要であるといえるが、あえて言えば、タスク志向のリーダーシップの方が高い重要性を持つ。経営判断の適切さをベースにした強い影響力行使が重要な役割を果たしているという点を追加して考えると、実務に有能で強いリーダーシップを発揮できるBU長が組織の重さを軽減する上で重要な役割を果たすと考えられる。(中略)現状で重い組織と高い調整比率に悩むBUが存在するとすれば、そのBU長は、タスク志向も人間関係志向も、両方ともに発揮し、直接対決を増やすとともに、下位2階層のパワーを高める努力をしていく必要がある」まぁ、最後のBU長に対する教訓は、おおむね私たちが日々感じていることですね。

 

今回の最後は、創発戦略が組織成長と共にどのような影響を受けていくのかということを時間軸的な変化という視点で見ていくことにします。

  • 発足したての組織では、組織規模も小さくメンバーも若い。このような時期の日本企業は、新製品のアイデアについてミドルやロワーという下位2階層が行使できるパワーが強かった。つまり、新規活動の調整比率は低く創発戦略が機能した。
  • 時が経つにつれて、ミドルの戦略創発に頼った組織運営は、組織規模の巨大化や組織メンバーの高齢化とともに問題を露呈してくる。例えば、組織規模が大きくなることでロワーのルート距離が伸び、上下の情報流が弱まるとともに、斜め方向の社内ネットワークが発達して、内向きの調整志向が強く、フリーライダーの多い組織になっていく。
  • 組織は、規模の巨大化や高齢化、構造の複雑さが進んでいくと、規律(機械的組織の特徴)とネットワーク(有機的組織)のバランスが崩れ「弛んだ組織体」になり、重い組織と化していく。この段階では、本来、創発戦略を促進するはずの自由度の高い組織は、自らの自由度のゆえに調整比率を高めるような内向きの調整比率の高い弛んだ共同体に変質する。
  • バランスを回復させるには、リーダーは関係志向のリーダーシップによってミドルのパワーを発揮せしめるようなコミュニケーション(今風で言えば、心理的安全)を確立し、組織を小型化・単純化・若年化すること、その上で課題を明確に定義し、しっかりした計画のインフラを整備することが必要である。

となります。

提言④の組織を小型化・単純化・若年化することは同じ組織の中ではリストラでありそう簡単に実施できるものではないでしょう。そうすると現実的な方法論としては、有望事業を本体から切り離すこと、あるいは本体との距離を置くことであり、組織の<重さ>研究は示唆していませんが、自由度を高くした小規模企業で成り立つグループ経営を志向することかもしれません。(続く)

参考文献:組織の<重さ>2007

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。