• 組織の<重さ>とOD⑭~組織の<重さ>の克服 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-242~

組織の<重さ>とOD⑭~組織の<重さ>の克服 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-242~

組織の<重さ>研究から学ぶは、今回から、組織の<重さ>をどのようにして克服するのかに焦点を移していきます。

組織の<重さ>研究では、すべての変数を活用するのではなく、主要な変数を取り出して分析しています。そして、どのようなリーダーシップによって変革できるのか、そのリーダーシップが構造的に規定されているのか、それとも主体性の余地があるのかが考察されています。さらに、変革に向かう姿勢をBU長がとった場合に、そのBU長が直面すると予想されるミドルとロワーとの認識ギャップの問題を指摘し、その認識ギャップを解消するものとして本社のスタッフの役割に言及しています。面白そうです。

 

組織の<重さ>P174~P175に主要な変数の相関行列(表9-1)、知見の全体像(表9-2)が掲載してあります。組織の<重さ>では、表の9-2から「軽量級の組織では機械的組織と有機的組織の両方の特徴が存在している」という主張が確認できるとしています。要するに軽い組織は、様々な計画が組織の<重さ>を軽減したり、新規活動の調整比率を低めたりする傾向がみられます。つまり、ヨコや斜めのインフォーマル・ネットワークに頼らずに上下の情報流を高めていくことが軽量化の基本になっています。加えて軽量級組織は、計画への参加可能性が高く、シンプルな規則を持ち、下位階層のパワーが大きく、現場からの戦略情報発信が上部階層に聞き届けられ、リーダーの情報パワーが大きく、直接対決型のコンフリクト解決が盛んであるという特徴も備えています。この主張について、組織の<重さ>では、主要変数の因果関係モデルを提示して説明しています。

P178の図9-1全体像モデル1を見てみましょう。このモデルは、「上下の情報流」を起点として、「下位2階層のパワー」、「組織の<重さ>」「新規活動の調整比率」の関係を示しています。上下の情報流は、組織の<重さ>に対しても(パス係数、-0.573)、下位2階層のパワーに対しても(パス係数、0.428)、大きな変数であることがわかります。そして、これら2つの変数から新規活動の調整比率へのパス係数も1%水準で優位な値を示しています。

P179の図9-2全体像モデル2では、図1に加えて、主要な変数「BU内の説得対象者数」「ロワーの公式ルート距離」「職能計画参照度」が追加されています。この図を見ると、職能計画参照度が上下の情報流に対して0.317の相関関係を示しています。職能計画をしっかり参照している組織では、計画に縛られてコミュニケーションが減るのではなく、むしろ計画の策定やその事後的な調整など、上下のコミュニケーションが増えているようです。説得対象者数やロワーの公式ルート距離は、やはり上下の情報流に対してマイナスの相関関係となっています。組織の<重さ>の決定係数は、モデル1が0.328だったのに対して、モデル2では4.00にまで高まっています。BU内の説得対象者の増加の追加によって、説明できる部分が増えるようです。このモデル2に、BU内正規従業員数、BU内正規従業員平均年齢、BU長パワー占有率を追加したのがモデル3(P181 図9-3)です。モデル2では、組織の<重さ>から新規活動の調整比率へのパス係数は0.394だったのですが、モデル3では0.429に増えています。逆に、上下の情報流と下位2階層のパワーから調整比率へと向かうパス係数は若干弱まっています。それは、おそらくBU長パワー占有率から新規活動の調整比率へ向かうパス係数が加わったためであると推察されています。BU長パワー占有率から新規活動の調整比率へのパス係数(0.172)は、大きくはありませんが正の数値となっています。つまり、短期的な問題に関連して、BU長のパワーが職能長のパワーより強いほど、新規活動の調整比率が高まる傾向がみられます。このことは何を意味するのでしょうか、組織の<重さ>研究では以下のように分析しています。

「BU長パワー占有率が高いほど、組織は事業部制的に動いているといえる。(中略)本来、事業部制の影響が強くなり、職能部門の影響が弱くなるほど、調整比率が低くなることを予測していたが、ここで得られたパス係数は職能部門の影響が強く、職能計画を参照する方が、新規活動の調整比率が低下する傾向がみられることを示唆している。事業部制へと組織変更することで無用な調整労力が減る傾向は見られるものの、組織内調整そのものが軽減できるとは必ずしも主張できないのである。つまり、すべての問題を解決してくれる組織形態は存在しないということである」

モデル3からは、まとめると以下のようなことが言えるとなります。

  • BUの高齢化と大規模化によってヒエラルキーは縦長になる。あるいは、職能的な形態に近づく。
  • これらの事によりBUのパワー構造を事業部制的でなく、職能制的なものに近づける。
  • BUの大規模化と高齢化は組織内ネットワークを広げ、説得対象者を増やす。
  • 職能制的なパワー構造の下では、担当者と主任クラスの持つ影響力が増え新規活動の調整比率が低下する傾向がみられる。
  • しかし、職能制的なパワー構造の下では、BU内目上の説得対象者数が増え、上下の情報流が少なくなり、その結果として組織の<重さ>が増える。
  • 小規模でメンバーが若いBUは事業部制的なパワー構造を持ちやすく、BU内の説得者数が増えず、上下の情報流が増え、組織の<重さ>は低下する傾向がみられる。ただし、組織の<重さ>を経由して新規活動の調整比率は低下するが、事業部制的なパワー構造は、そのほかの経路を通じて、新規活動の調整比率そのものを増やす側に作用している。

 

以上のようなことから、組織の<重さ>を軽減するためには、小規模なBUで高齢化に気をつけ、BU長からロワーまでの距離が長くなりすぎないようにし、上下の情報流が十分に確保されるようにすることが大切であるといえます。ただし、調整比率そのものについては、必ずしも若い構成員の事業部制が良いと主張できるものではありません。やはり、ある程度の職能計画が整備されていることが必要であり、それがあって初めて組織は効果的に機能するようです。計画の立案とその伝達/周知プロセスというインフラは大切なのですね。(続く)

参考文献:組織の<重さ>2007

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です