• 組織の<重さ>とOD⑯~総括 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-244~

組織の<重さ>とOD⑯~総括 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-244~

組織の<重さ>研究から学ぶは今回が最終回です。日本型組織の再活性化に向けてと題される最終章の主張を紹介していきます。最初に戻って、組織の<重さ>プロジェクトは、なぜ始まったのかを確認しておきましょう。それは、研究者や実務家に共有されてきた日本企業の強みに対するメンタルモデル/バイアスに対する議論からスタートしています。

「日本企業の競争力は、組織内の濃密な相互作用を通じて、新鮮で豊富な現場情報をベースとした創発戦略を実現することで支えられてきた。優れた創発戦略を生み出し、実行すること、またそれを支える組織的プロセスこそが日本企業の強みの源泉である」

しかし、このような認識は、早ければ1970年代から、遅くともバブル崩壊の1990年代には、すでに幻想になっていたのです。しかしながら経営学者たちがこの点について真剣に書き始めるのは2000年頃であり、トップマネジメントに問題ありとか、戦略不全の状態が発生しているという指摘がなされてきました。これに対して組織の<重さ>プロジェクトは、戦略創発の組織的プロセスを阻害する構造的な要因があるのではないかという仮説をたて、それを実証的に研究しています。その研究を大きな視点でまとめると以下の図(組織の<重さ>P208 図10-1:有機的組織と機械的組織の共存の意味)に示されるような有機的組織の特徴と機械的組織の特徴のバランス次第で創発戦略が容易になったり、困難になったりするということです。

 

 

+は正の方向 -は負の方向

創発戦略を機能させるには、緊密なネットワークをもつ組織で階層までパワーを持ち、相互調整を行って新規活動を進めていく必要があります。その意味では創発戦略を促進するには有機的組織の特徴が重要です。しかし、同時にその緊密なネットワークが大きくなりすぎたり、高齢化したりすると、上下の情報流が阻害され、内向き調整志向が強くなり、経営リテラシーが低下するとともに、フリーライダーが現れてくる。つまり、有機的組織の特徴が過剰になり戦略創発を阻害する状況、すなわち重い組織が出現するのです。この重い組織・弛んだ共同体のもつ<重さ>を克服し、再び創発戦略を機能させる組織を取り戻すためには、BU長の強力なリーダーシップやヒエラルキーを流れる情報の増加など機械的組織の充実が必要になってきます。BU長のパワーなど、機械的組織の特徴の一部は有機的組織の特徴と対立し、創発戦略を阻害する可能性があるものの、同時に組織の<重さ>を抑制することでトータルには創発戦略を促進する方向に作用する可能性が高いのです。一見当たり前の主張のように見えますが、これまでの言説とはやはり異なる部分があります。一般的には、「組織が重い」という感覚は、さらなる自由度の増大を目指した組織改革をしがちなのです。組織が個人を抑圧していると知覚されれば、組織のルールやヒエラルキーの縛りから個人を開放する方向に解決策があるように思われます。実際、アメリカの企業ではそのような主張がなされてきました。組織開発(OD)の視点でもそうであり、「アメリカにおけるODの目的は官僚制の打破である:W.バーク」と言われます。しかし、これはアメリカにおける組織の成り立ちがそういわせるのであって、必ずしも日本の組織に当てはまるかといえばそうではないことが多いものです。日本は、他の研究でも言われるように「共同体意識」が強い社会です。そのような社会の組織は良くも悪くも有機的組織の特徴を備えているのです。日本企業の組織劣化現象は、機械的組織の特徴が過剰になることより、有機的組織の過剰による内向きの弛んだ共同体という形態をとることが原因であるといえます。組織の<重さ>では、創発戦略を機能不全に陥らせる組織構造・組織運営に対して処方箋を明示するまでには至っていませんが、「再活性化された新たな日本的経営」ということに対してどのようなイメージを持っているかを抜粋して紹介します。

『近年の日本企業では創発戦略を生み出し、実行する組織に問題が存在したように思われる。しかし、それは、創発戦略の創出と実行が全く無意味になったということではない。特定事業からの撤退などが喫緊の課題であった時期には、創発戦略による事業構造の再編は難しかったといえる。しかし、通常業務を効率化したり、衰退産業の中でも利益を確保しやすいニッチへと戦略的ポジションを変更したり、新規分野を開拓したり、といった通常の戦略的な行動は、現場に近いミドル・マネジメントとロワー・マネジメントのイニシアティブを必要とし、その連動による自律的な適応によって柔軟で迅速な戦略的適応が可能になると思われる。その点で創発戦略そのものは今後も企業を経営するうえで重要な方法(プロセス)としてとどまり続けるであろう。創発戦略の復活のためには、ミドルとロワーが連動しやすい組織の再構築が必要である。』

今風の表現を使えば、重い組織とは、すなわちアジャイルでない組織です。日本企業の組織活性化ひいてはアジャイルな組織の創造のためには、ODの領域である組織プロセスへの介入や方法論としての対話だけでなく、構造的側面の整備、つまり組織運営の基本である機械的組織の特徴(計画、情報流や組織運営ルールの明示、ヒエラルキーの役割の明示など)を整備することはやはり大切なのですね。

参考文献:組織の<重さ>2007

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。