• 組織の<重さ>とOD⑤~組織の<重さ>という変数の特徴 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-234~

組織の<重さ>とOD⑤~組織の<重さ>という変数の特徴 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-234~

組織の<重さ>は学術的な文献であり、各章では統計分析にもとづく考察がなされています。ODメディアでは、統計分析表や図そのものは割愛し、この分析から見出された知見を紹介していくことにします。

組織の<重さ>指標の作成について解説している章の最後は、達成感・成長機会・利益率と<重さ>の相関が紹介されています。調査にはミドルとロワーでは異なる質問を作成して調査が行われています。例えばそれは、ミドルには「ミドルからしてロワーは仕事を通じて高い達成感を手にしている」という聞き方に対して、ロワーには「ロワーからしてミドルは仕事を通じて高い達成感を手にしている」など相手に対してどのように見ているかという質問をしています。もちろん、自分で自分をどう見ているかという質問もあります。さて、このような調査の結果を分析したコメントは以下のようなものです。

  • 組織の<重さ>は総じて、すべての他の指標と有意な相関が認められた。組織が重いほど利益率は低く、また達成感・成長機会は少ないという関係が見出されています。なお、<重さ>と利益率の負の相関はそれほど大きくない。それは「フリーライダー問題」の項目で説明された通り、「企業も組織も、堕落できる余裕があるがゆえに堕落する」と考えられるからである。
  • 「リテラシーの低さ」や「フリーライド行為」は、仕事の達成感や成長機会と強い負の相関を持っている。組織メンバーがイキイキと仕事をし、仕事を通じた成長機会を活かしていくためには、組織には緊張感が必要なのかもしれない。

 

そもそも、組織の<重さ>は、『通常の組織運営や創発戦略の生成・実現に際してミドル・マネジメント層が苦労する組織を「重い組織」と呼び、そのような組織劣化の程度を組織の<重さ>と呼ぶ』とされていますが、それは組織内調整に労力がかかるという意味でもあります。そこで、組織の<重さ>は、タスク遂行に必要な日数と調整活動に必要な時間の割合という調整比率に関する質問が盛り込まれています。以下、調査によるさまざまな調整比率と組織の<重さ>の関係はどのようなものだったのかを見ていきましょう。

ところで組織の<重さ>では「組織とは分業と協業の体系であるから、組織である限り、必ず調整努力が必要である。従って、本研究ではその調整比率の存在自体を悪だと考えている訳ではない」と断っています。至極当然のことで、留意すべきは過剰な調整比率です。調査では、以下の3つのケース

  • 主力商品・サービスのモデルチェンジ
  • 他事業部との協働が必要な新規事業の立ち上げ
  • 既存事業の整理・撤退

を想定して、タスクの遂行にかかる日数と調整に必要な時間の比率が尋ねられています。

どのような質問をしているかは、例えば、主力商品・サービスのモデルチェンジを具体的な例として説明すると以下のようになります。

『その仕事に専任で従事すると仮定したうえで、

  • 自分自身が基本コンセプトを考え始めてから商品・サービスを市場導入するまでにかかる日数を尋ねる
  • その日数全体を100%として、
    • 仕事の内容そのものを検討し実現する作業 と
    • 組織内の調整に関わる作業の構成比 を尋ねる
  • さらに、組織内調整(イ)を100%とした場合に

 

(イ-1)同じBU内の調整根回し

(イ-2)異なるBU間を跨ぐが、同じ職能部門内で行われる調整・根回し

(イ-3) BUも職能部門も超えた全社的な調整・根回し

 

の3種類の構成比が尋ねられている。

日数の平均値は454日、調整に費やされている時間の割合は36%(約163日)である。同じ計算式で、新規事業の場合は、日数平均値は659日、調整時間の割合は44%(約290日)。

撤退の場合は、日数平均値は420日、調整時間の割合は52%(約218日) となっている。

調整時間の割合の最大値に注目すれば、モデルチェンジ63.33%、新規事業65%、撤退75%であり、組織の<重さ>という概念が現実に根差したものであることを裏打ちしているように思われる。(中略)組織の<重さ>と日数、調整比率との相関で見れば、日数はそれほど強い相関はないが、調整比率とは強い相関を示している。かつ、組織の<重さ>の2大要因の一つである内向き調整志向との相関が強い。撤退に関しては組織弛緩性との相関が強く、撤退という非常にノン・ルーチン性の高い業務では、フリーライダーや経営リテラシー不足がことさらに強く作用するかもしれない』というような分析がなされています。他にもさまざまな角度からのデータが示されていますがここでは割愛します。

本文中にはモデルチェンジと新規事業は、日数同士も調整比率同士も高い相関を示しているが、撤退というタスクはそれがなく独自のものであるように思われるという記述があります。著者たちによれば、日本企業にとっては、モデルチェンジや新規事業は利益率を高めないが売上高を高める可能性のある活動と、撤退のように売上高は下がるし雇用を維持できないが利益率を高める可能性がある意思決定では、異なる特徴を示すのではないかと思われる、との分析になります。この傾向は、グローバルに見て日本企業の利益率が低く、産業全体の新陳代謝がなかなか進まない原因のひとつではないかと思われます。日本の経営は、少なくとも現時点では、まだまだ情緒的なのでしょうね。(続く)

参考文献:組織の<重さ>2007

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。