• 組織の<重さ>とOD④~組織の<重さ>とは、その2 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-233~

組織の<重さ>とOD④~組織の<重さ>とは、その2 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-233~

前回のODメディアから、組織の<重さ>プロジェクトが定義している組織の<重さ>の捉え方を紹介しています。今回は、フリーライダー問題(評論ばかりで主体的な関わりがない)からです。

【フリーライダー問題】

組織の<重さ>には、Hirschman 1970の次のような言葉が載っています。『機能別組織の利害に固執したり、自分自身の利害やメンツに固執したりできるのは、そのようにするスラック(余裕・ゆとり)があるからである。(中略)企業も経済も、堕落できる余裕があるゆえに堕落するのである』むむ、手厳しい。

スラックを持つ組織は、他者の努力にただ乗り(フリーライド)する組織メンバーの出現が可能になります。社内評論家と呼ばれる人たちはこの種のフリーライダーの典型でしょう。

労働組合の衰退から国家の存亡まで幅広くフリーライダー問題を論じたOlsonが指摘するように、企業の達成する業績は集合財(Collective goods)の一種です。この場合、誰かがサボっても、他のみんなが努力していれば企業全体としての業績は保たれます。そして、各人に支払われる報酬が企業全体の業績に連動していれば、個々人でそれほど大きな差をつけることはなく、フリーライダーの出現を許します。要するに、10人で稼げるお神輿は、10人あるいは9人ぐらいで担ぐのが良いのであって、これを12人とか13人とかで担ぐと、サボる奴が出てくるということなんですね。長年の蓄積がある大企業ほど、フリーライダーが多数出現している可能性があります。同僚を批判しているだけの社内評論家、会社の業績に無関心な人、決定すべき決定をしない上司など、これらのフリーライド行為が多発していれば、創発戦略を担うミドルは周囲の説得に多くの時間を割かなくてはならず、やはり組織の<重さ>を感じるでしょう。参考までに、フリーライダーに関する質問は以下の通りです。( )内は略称です。

  • 口は出すが責任は取らない。という上司が多い(口は出すが責任は取らない)
  • BUが利益を上げていないことを自分の痛みとして感じられないミドルが多い(自分の痛みと感じない人が多い)
  • 決めるべき人が決めてくれない(決断が不足している)

 

【経営リテラシー不足】

近年の日本企業に見られる問題は、優れた戦略とそうでないものとの区別がつかず、適切な意思決定のできない経営管理者が多く存在することであるという主張があります(三枝、1994;2004)。ポテンシャルの高い戦略であるかどうかの見極めがつかなくては、適切な方向に向けての組織内調整は困難です。創発戦略とそれを支える組織内相互調整がうまく機能するためには、説得する側も説得される側も共に、優れた戦略とそうでない戦略を見分ける戦略審美眼を備えている必要がありますが、それが不足しているのです。三枝さんはミスミでの経営経験からそう感じたのでしょうね。いずれにしても、経営トップの意思決定能力が低ければ、フリーライド行為や過剰な内向きの調整を止めることはできないでしょう。それゆえ、ミドルとトップの経営能力の有無は組織の<重さ>にとって重要な役割を果たしている筈であるというのが著者たちの主張です。質問では、この2項目は「リテラシーがある状態」を尋ねています。従って、「経営リテラシー不足」を表すには得点を逆転させています。質問は以下の通りです。

  • うちのBUには戦略の評価眼が優れたミドルが多い(戦略審美眼に優れたミドルが多い)
  • わが社のトップ・マネジメントは優れた意思決定を行う能力が高い

 

組織の<重さ>プロジェクトでは、この4つの因子「過剰な和」「内向きの合意形成」「フリーライダー」「経営リテラシー不足」は、当初は独立の次元であると考えられていましたが、調査の結果2つずつのセットになっていることが判明したそうです。それは、以下の通りです。

「過剰な和」「内向きの合意形成」の2つで『内向き調整志向』

「フリーライダー」「経営リテラシー不足」の2つで『組織弛緩性』

となります。組織の<重さ>では、因子分析の内容も記載されています。主因子法を用いて抽出された「組織の<重さ>」は、当然ですが質問12項目の単純平均と0.996という高い相関を持っています。統計処理がどのようになされたのかは組織の<重さ>本文を参照頂ければと思います。いずれにせよ、統計分析では単純平均と因子得点の間にはそれほど大きな差がないことが判明し、以降の分析はすべて質問項目の単純平均を指標として用いています。そして、さまざまな組織成果との相関が分析されていますが、ODメディアでは、以降この相関について触れていきます。(続く)

参考文献:組織の<重さ>2007

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。