• 組織の<重さ>とOD③~組織の<重さ>とは、その1 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-232~

組織の<重さ>とOD③~組織の<重さ>とは、その1 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-232~

組織の<重さ>とは何なのでしょうか。組織の<重さ>プロジェクトでは以下のように定義されています。重さとは、硬直性とは異なる概念であるということから確認しましょう。

『通常の組織運営や創発戦略の生成・実現に際してミドル・マネジメント層が苦労する組織を「重い組織」と呼び、そのような組織劣化の程度を組織の<重さ>と呼ぶ』

この定義はとても大切なことであり、組織の<重さ>は、一般的に認識されるような「過度の官僚制」による柔軟性の低下や、意思決定の遅さ、過剰な規則遵守などの組織の<硬直性>ではないのです。組織の<重さ>という概念は、周囲の人間の無責任さ、フリーライド行為、経営リテラシーの低さ、内向きの合意形成のための過剰な労力支出などに注目した概念です。

この問題意識は、組織開発(OD)の視点から見てもとても重要です。なぜかといえば、アメリカの組織開発(OD)のターゲットは「官僚制の打破(W.バーク)」だったからです。つまり、組織が機能不全を起こす原因、あるいは組織再活性化の原点が、アメリカと日本では異なるのです。ですから、アメリカ組織で成功した組織活性化の方法論を、日本にそのまま持ってきてもうまくいかないことが多いのです。組織の<重さ>プロジェクトでは、日本の大企業は、むしろ組織弛緩的な現象が起こっており、規律(機械的組織論が主張すること)と柔軟性(有機的組織論が主張すること)のバランスを取り直さなければならないと主張しています。この点は、結論になるような事なので改めて詳細をご紹介します。

 

さて、組織の<重さ>では、組織の劣化度を4次元で概念化できると想定して研究に着手しています。(研究プロジェクトの調査方法などは割愛します)

  1. 過剰な「和」志向
  2. 経営合理性から離れた内向きの合意形成
  3. フリーライダー問題(評論ばかりで主体的な関わりがない)
  4. 経営リテラシー不足

 

そして、過剰な「和」思考と経営合理性から離れた内向きの合意形成は「内向き調整志向」に集約、フリーライダー問題と経営リテラシー不足は「組織弛緩性」に集約されています。では以下、4つの概念の詳細を見ていきましょう。

 

【過剰な「和」志向】

日本の企業は「和」を重視した仕事の進め方が重視される傾向にあると多くの研究者が指摘しています。「空気を読む」とかも重視されますね。しかしながら、近年の日本企業に関する観察からは、必ずしも「和」の重視が高い経営成果に結びつくという主張は展開されていません。そもそも戦略の方向性が間違っている場合や不明確な場合は、過剰な「和」は「集団思考の弊害/集団浅慮」というような状態になっているといえます。戦略なき「和」の重視は「戦略不全」をもたらしているといえます(三品、2002、2004)。また、当初は戦略の実行に有効に機能していた「和」が、時とともに「和」の維持そのものが重要な目的に変質してしまった、という可能性もあります。この過剰な「和」の重視は、ミドルに戦略実行に支払う努力以上に調整努力を強いることになり、彼らに<重さ>として経験されるとしています。組織の<重さ>プロジェクトでは、過剰な「和」の尊重実態を捉えるために、以下の3つの質問をしています。( )内は質問項目の意味を象徴的に表記したものです。

  • 誰か一人でも反対する人がいると、意思決定にかかる時間が増える(1人でもゴネると大変)
  • 激しい議論は「大人げない」と思われている(激しい議論は子供だと思われている)
  • 正当な意見を忌憚なく言う人よりも、対立回避のための気配りをする人の方が出世する(対立回避するヤツが出世する)

 

組織の<重さ>では、「和」が全く不要だとは主張していません。どのような協働システムも一定程度の「和」を必要とします。強調すべきは、「和」の過剰な強調によって戦略創発を支える組織内調整プロセスが機能不全に陥っている可能性があるという点です。

 

【経営合理性から離れた内向きの合意形成】

組織メンバーの追及する目標が、本来の組織全体の目標ではなく、組織の下位ユニットの部分目標に転化していくことは、アカデミックな組織論の研究でもしばしば指摘されています。この点で重要な貢献を生み出したのはローレンスとローシュ(1967)のコンティンジェンシー理論でしょう。詳細は割愛しますが、彼らによれば、分化が進んだ大規模組織が高い経営成果を達成するためには、それを統合する担当部署を置いたり、徹底した議論を通してコンフリクト解消を行ったりすることが大切であるとします。つまり、現代組織論では下位ユニットがそれぞれ異なる目標を追求していくことは、取り立てて「病理的な現象」ではないのです。とはいえ、下位ユニットが過度にそれぞれ異なる独自の視点で主張をするようになると、その調整に時間や労力を取られ、やはり組織の<重さ>を感じるようになるでしょう。さらに、組織内の活動調整が組織全体の合理性に施行したものではなく、不合理な「政治的解決」になりがちであれば、なお一層組織の<重さ>を感じることになります。このような観点に立った質問は以下の通りです。

  • R&Dや生産、販売などの機能部門の利害に固執しているミドルが多い(機能別の利害に固執)
  • 顧客や市場競争の問題よりも、BU内の人々の合意を取り付けることに真剣な配慮をしている局面にしばしば直面する(内向きの合意形成)
  • ミドルがBU内の調整を行う際に、利害対立の問題よりも、単にメンツだけの問題を解決しているような気持になる(メンツを重視しているだけ)
  • わが社のトップ周辺には奇妙な政治力学が働いている(わが社のトップ層は政治的)

いやはや、耳が痛い質問です。(続く)

 

参考文献:組織の<重さ>2007

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。