• リーダーは状況を操作しろ⑤ ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-158~

リーダーは状況を操作しろ⑤ ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-158~

リーダー・マッチ理論の最終回は、リーダーシップ状況を如何にエンジニアリングするかです。あなたのリーダーシップ・スタイルが状況にマッチしていない場合、選択肢は2つです。一つはあなたのリーダーシップ・スタイルを変えること、もう一つはリーダーシップ状況を修正することです。リーダー・マッチ理論では、リーダーシップはあなたのパーソナリティの一部だとみています。要するに、強みは強みとして活かしていきたいわけです。自分を変えるということは、それほど容易ではありません。長い年月がかかります。それよりはリーダーシップ状況を変化させる方が容易です。

リーダーシップ状況を変えるとは、仕事状況について何らかの手直しをするということです。ただしこれは、あなたが一人でできることではありません。あなたが中間管理者(ミドル・マネジャー)であれば、あなたの上司の協力を得ることが大切です。上司との関係が良く忌憚なく話すことができれば、リーダーシップ状況の多くの重要な側面を変えることで出来るでしょう。上司との関係が良好でなければ、リーダーシップ状況を変えることに限界が生じます。このような場合は、まずは率直に上司と話す機会をつくることに努力しましょう。どうしても上司との話し合いができないという場合は、自分自身で何とかするしかありません。そりゃそうですね。

そこで、リーダーシップ状況を修正する領域は、リーダーとメンバーの関係、課題の構造度、そして地位力の3つです。修正する場合も、この順番に検討していきます。

【リーダーとメンバーの関係を修正する】

この領域でのポイントは、リーダーとメンバーの「信頼関係を築くこと」です。同時に、気を付けなくてはならないのは「慣れ合いの関係にならないこと」です。低LPCリーダーの場合、課題の構造度に注意を向けすぎて、メンバーとの関係づくりを無視する傾向にあります。メンバーとの信頼関係を高めるには、単にフレンドリーな関係をつくるのではなく、メンバーが抱えている問題を明確に理解し、その問題を少しでも軽くするように試みることが大切です。また、組織がどのように動いているかについての情報を的確に提供する事も役に立ちます。日頃の困りごと解決のような“ちょっとした話し合い”の時間を設けることで、あなた自身の考え方を知ってもらうのも有益です。高LPCリーダーの場合は、メンバーとの関係づくりは得意でしょうが、逆に親密になりすぎ、リーダーとの関係でなれ合いが生じて、メンバーが自分たちのタスクに十分に専念しない状況が生まれることもあります。その場合は、メンバーと距離を置くようにします。リーダーがメンバーと距離を置くと、メンバーがリーダーに認められるのは仕事の結果を出すことしかありません。低LPCリーダーの場合も、高LPCリーダーの場合も、リーダーの業績はチームの業績によって決まるのです。従って、リーダー自身が高い業績を上げようと思えば、チームの業績が上がるように状況をエンジニアリングする必要があるのです。その最初が、リーダーとメンバーの関係を取り扱うことです。この領域での事例として、もう一つ事例を見てみましょう。あるマネジャーは、自分が「問題児の対処」に優れていることを知っていました。彼は上司に、何人かの問題児を自分の配下に置くように申し入れました。問題児がいなくなったチームは喜び、当然仕事も捗りました。マネジャーは仕事の結果を出し、昇格も早まりました。この場合、リーダーは統制状況を低めて成果を出したということになります。

 

【課題の構造度を修正する】

あなたがもっと構造度の高い状況をつくりたいのであれば、以下のことを試みるのが良いでしょう。

  1. 上司に頼み、もっと具体的に仕事の目的や進め方を説明してもらう。あるいは、メンバーと一緒に仕事の目的や進め方について確認する話し合いをする。
  2. その課題について、リーダー自身がもっと専門性を身に付け、具体的な計画を準備できるようにする。
  3. 仕事を細分化し、構造度が高くなるようにする。
  4. 入手可能な前例を基に、手続き、ガイドラインを明確にする。構図あるいは完成品のアウトラインをつくる。

あなたがもっと構造度の低い状況をつくりたいのであれば、以下のことを試みるのが良いでしょう。

  1. 上司に頼んで、新しい、あるいは特殊な問題の解決に当たらせてもらう。
  2. メンバーに新しい課題や問題を提示し、その解決に対してリーダーと一緒に取り組むよう促す。
  3. 漠然とした課題に対しては、メンバーと共に考え、加えて意思決定に上司を巻き込む。

このような対応は、創造的で挑戦的な課題に取り組むことがリーダーやメンバーにとって必要であるというときに適切な対応となるでしょう。

 

【地位力を修正する】

地位力は組織から与えられた公式のパワーや権限であるにしても、これを変える方法はいくつかあります。あなたが地位力を高めたいのであれば、例えば以下の方法があります。

  1. 賞罰を明確に示し、メンバーに誰が上司かをはっきり示す。
  2. できるだけその課題に対する専門性を高め、部下の専門性に依存しなくて良い状況をつくる。
  3. レポートラインを明確にし、メンバー集団に関する情報が、必ず自分を通して流れるようにする。

このようなやり方は高統制状況をつくることに寄与しますが、創造性が必要な集団では業績を低下させる要因にもなります。

あなたが地位力を低下させたいのであれば、以下のやり方があります。

  1. フランクに仲間づきあいをして、リーダーも良きメンバーであることを認識してもらう。
  2. 意思決定や計画づくりにメンバーを参画させる。
  3. 情報ができるだけ速やかにメンバーに行き渡るようにする。
  4. チームの2番手/サブリーダーに比較的多くの権限を付与する。

状況統制力の他の2つに比べ、地位力の重要性は低く、地位力の修正のみでは変化を起こすには十分ではありません。状況統制力を変えようとすれば、他の2つも変える必要があります。そして、みなさんが考えておくべきは、リーダーの状況統制力が高ければ良いというわけではないことです。仕事や課題の性質によって、状況統制力は期待レベルであることが重要です。組織開発(OD)の視点でいえば、状況統制力は現場レベルに降ろしていき自主管理チームをつくること、最近の用語を使えば自己組織化チームをつくることを目指してきました。知識経済や創造性が重要視され、ナレッジワーカーが主体の組織では、メンバーの参画が重視されます。リーダー・マッチ理論がチームづくりやリーダーシップの効果性に対する正解ではありませんが、状況対応リーダーシップについて精神論ではない効果的な理論であることは確かです。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。