• 研修とODって別のことなの?①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-137~

研修とODって別のことなの?①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-137~

回り回ってこのテーマに来てしまいました。研修と組織開発(OD)って、何が違うのでしょう。個人の能力開発に焦点を当てた人材開発と組織開発(OD)は、何が違うのでしょう。結論から言えば、組織開発(OD)の方法論の中に個人の能力開発はありますし、いわゆる研修方式で何らかの介入を実施するということはあります。とはいえ、何がどう違うのか、どのような方法で課題解決を進めていけば良いのかについては幅広い選択肢を持っておくに越したことはありません。ということで、今回の焦点は研修とODの違いです。

 

先日弊社の若手から以下のような相談を受けました。

  1. ご担当から、管理者前の中堅どころの社員にもっと一段上の視点に立ちものを考えたり、部門間のシナジーを考えたりして仕事をしてもらいたい。と言われました。
  2. もっとマーケティングや会計ということを考えてもらいたいんだよねと、ボソッと研修担当の方が言っていたんですよ。

どういう方法での支援がありますか、というような相談です。さて、みなさんが相談に乗る側としてこのような相談にどのように答えますか。

弊社の若手は「A社の課題に対して、シナリオプランニングを学んでいくというアプローチがありますが、それはどうですかね」と考えていました。A社とB社の名前を出すといろいろなことが推論できると思いますが、ここではA社、B社の名前は出せません。悪しからず。

既にお分かりのように、それぞれの会社の歴史と現状があり、それに対するご担当の「解釈の枠組み:ナラティブ」があり、それが「一段上の視点」とか、「マーケティング」という言葉になって口から出ているのであり、それを真に受けて「一段高い視点でものを見るような訓練をするには、〇〇という研修があります」とか、「じゃ、マーケティング研修のプログラムをお持ちします」とかでは的確な課題対応をしているとは言えません。もちろん、結果として一連の介入施策の中に、そのような研修が取り入れられるということは可能性としてはありますが、それが対応策の柱ではないでしょう。では、どのようなことを考えてA社、B社のご担当の問題意識に応えていけば良いのでしょうか。当たり前のことですが、相談を受けた側には、それぞれの会社にはどのような歴史があり、今どのような状況にあり、これからどこに進もうとしているのか、それをご担当なりにどのように解釈/意味付けして「一段上の視点」とか、「マーケティング」と言っているのかを考えていく必要があります。相談を受けた営業担当としては、ご担当は「どのような現状」を見て、それを自分なりにどのように解釈したのかを確認していくことが大切なのです。つまり、相談を投げかけた側と相談を受けた側が共有した世界をつくることが出来なければ、効果的な支援ができません。もちろん、相談を投げかけた人と、その人が見ている対象者(A社でいえば管理者前の中堅どころの社員)が同じようなナラティブを持っているかも不確かです。そこを明らかにしながら、当事者自身が自分たち自身で問題解決のために行動していくようにしていくことが組織開発(OD)です。別の言い方をすれば、対象者に不足している何か(A社でいえば一段上の視点に立ったものの見方や考え方、B社でいえば会計やマーケティングの知識)を埋めていくことが組織開発(OD)ではないのです。大切なことは、当事者が置かれている状況を自分たち自身で理解し、問題解決のためにどのように行動していくかを自分自身で選択し、実践していくことです。これを支援するのが組織開発(OD)です。

因みに、研修を沢山やることが組織開発(OD)ではないという人もいますが、研修も組織開発(OD)を成功させるための有力な手段になります。例えば、英国航空は民営化に際してサービス研修を全従業員に対して実施しました。当時のCEOだったコーリン・マーシャルは、良いサービスはお客のニーズを感じ取ることが大切であるという信念を持っていました。ThinkからFeelへというのが合言葉です。このような考え方と対応ができるようにすることが研修の眼目でした。以前の官僚的な組織で仕事をしてきた従業員にとっては必要な訓練だったのです。当時、スカンジナビア航空もサービスを重視し、「わが社には1日3万回もの真実の瞬間」があるといって、顧客接点の質向上を積極的に推進しました。従業員には「真実の瞬間」での対応力を高める訓練を実施しています。

JR九州が民営化後、安全とサービスを2大柱にした事業運営を実施することになりそれをSS運動として全社展開しましたが、その時もサービス研修を大々的に実施しました。門司の研修所に頻繁に通ったことを思い出します。

現在、組織開発(OD)では「対話型」と言われる介入方法が主流になっていますが、大規模な組織開発では「研修」も有効な手段になります。大切なことは、問題状況に対して的確なシナリオを持ち実施していくことです。

とはいえ、ご担当が組織開発についての知見を持たず、先の要望(問題意識)に対しての対処方法が「研修で何をするか、良いものがあったら持ってきて」ということに偏っている場合は、それを覆すのはなかなか大変ですね。(続く)

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です