• 研修とODって別のことなの?③ ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-139~

研修とODって別のことなの?③ ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-139~

データフィードバックと対話による関係性改善の実際

A社のケースでは、データフィードバックと対話による関係性改善を4回のワークショップで実施することになりました。1回のワークショップは9:00から17:00まで時間が取れることになりました。当事者である設計部門メンバーが一堂に会するワークショップであり、回によっては他部門の部課長の参加も得たりしましたので、業務的には結構負荷が掛かるワークショップです。会社によっては、この時間をとることに躊躇する場合が多いのですが、A社の場合は社長の意思決定により1回のワークショップに付き1日という時間をとることが出来ました。これは関係性改善というテーマでワークショップを実施する際にとても大切なことです。なぜかというと、関係性は見えない紐みたいなものですから、それは論理だけでなく感情の束でもあるのです。感情の束ですから、参加者はワークショップの中で交わされる言動にいちいち反応することになります。そして、「いちいち反応する」というのは必ずしも言葉になって表現されることではなく、例えば黙りこくったり、違う話に振ってみたりというさまざまな形で現れます。このような集団の中で起きる出来事をプロセスと言います。関係性改善は、このプロセスを見逃さず「リアルな討議の場で起こっている出来事を話し合いのテーマにする」ことがとても重要になります。

例えば、討議の中である話題に話が及ぶと必ず参加者が苦笑いをするといったようなことを見逃さずに、どうしてなんだろうと討議メンバーに投げかけるというようなことです。このようなことは、一見具体的な問題解決から外れるようですが、実はそこに厄介な解消が難しい大きな問題が潜んでいることがあります。その厄介な問題は、ほとんどの場合、人間関係という問題です。対話型組織開発の基本的姿勢に「対話型組織開発は解釈主義であり、現状認識は関係者の認知に左右され、権力と政治的プロセスの影響を受ける」とありますが、まさしく権力と政治的プロセスの影響は当事者が感じていても言葉にして言いづらいことなのです。通常このような話題は、公式の場を離れた場で語られることになります。昭和的な昔の言い方を借りれば「一杯飲み屋での話」になり、その話をしていた人たちは「じゃ明日も頑張ろう」といって、しばしの憂さ晴らしをするのです。関係性をテーマにしたワークショップは隠れている問題を表に出していくような取り組みですから、やはり時間が掛かるわけです。事前インタビューで、支援する第三者としての外部コンサルタントが、ワークショップ参加者から権力と政治的プロセスについて聴いていたとしても「皆さんそうでしょ」という投げかけはできないのです。そんなことをしたとたんに「外の人は勝手にいろいろ言える」となり、場がしらけるだけです。ですから、当事者自身がそのことについて話をする必要があると感じるまで待つことが大切です。

このようなことで、1回のワークショップに1日を当てることが出来たというのは、問題解決にとって大変にプラスになるものでした。ワークショップに短い時間しかかけられないということになると、人間関係の微妙な感情的な話が途中で切られてしまったりして、これを次回にまた話題にするのはとても困難になります。(続く)

 

《注:コンテントとプロセス》

人間集団の振舞いを見ていく概念としてコンテント(content)とプロセス(process)という概念があります。ここでいう概念とは、私が物事を理解するために掛けている「眼鏡」です。「組織開発の実践」では、「眼鏡」のことを「モデル」という言い方をしたりします。コンテントとプロセスは、集団活動を見るモデルです。

コンテントとは、集団が取り組んでいる課題や話のテーマのことを言います。プロセスは、コンテントに取り組んでいる集団メンバーの中で起こっている出来事全てです。簡単な事例でコンテントとプロセスを見ていきましょう。例えば、営業チームが会議をやっています。それを見た人が「何をやっているんですか」と訊きました。メンバーのある人が「これからのマーケティング施策について議論しています」と答えました。これは、コンテント(content)に対する答えです。それを聞いた人がこんな感想を持ちました。「なんだか一人だけ頑張って話しているようだけど、他のメンバーは乗り気じゃないみたいだな」。これは、会議のプロセスに対する見方です。プロセスについての見方が正しいかどうかは別にして、「何をやっているんですか」と訊いた人は、一応コンテント(議題)について何が話されているのか、話し合いのプロセスがどのような状態なのかを理解したわけです。

このプロセスは3つの視点から観察することが出来ます。それは、「参画:みんなが積極的に討議に参画しているか、そうではないか など」、「雰囲気:参加者は緊張しているか、自由にしているか、不安を持っているか、安心しているか など」、「コミュニケーション:誰が誰に反応するか、無視するか。討議は防衛的か支持的か、開放的か閉鎖的か など」の3つです。ところで、プロセスはそれを見る人によって意見が分かれるものです。つまり、個々人に異なる解釈(または認知)の枠組みがあり、その解釈の枠組みによってプロセスの見方が分かれるからです。ですから、プロセスを議論する場合は当事者が自分の見方を表明し、みんなで何が起こっているのかを共有していく対話をする必要があります。

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です