• 部門間のギャップを改善する~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【125】~

部門間のギャップを改善する~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【125】~

関係改善は個々人の間でもたやすいことではありませんが、集団と集団になるとその難易度は飛躍的に増していきます。

弊社では、認知ギャップ解消のプログラムをご紹介するZoomセミナーを開催させていただいておりますが、担当講師が意外だったという参加者の声があります。それは、悩んでいる関係性の課題が「職場の関係性」よりも「部門(課)間同士の関係性」とお答えの方のほうが圧倒的に多かったことです。

 

HR総研の社内コミュニケーションに対する調査(2020年1~2月、企業の人事担当者331人対象)でも、部門間(ヨコ)と経営層と社員(タテ)の関係に課題を感じる企業が6割もあったようです。

阻害要因としては「管理者、社員、経営者のコミュニケーション力不足:48%」「組織風土・社風:40%」が、「on-line:24%」や「IT化:13%」の影響よりはるかに高い数値になっていたようです。因みに、男女間やテレワーク社員とオフィス社員間などでのコミュニケーション課題はあまり問題になっていません。また、食事会や飲み会の減少もコミュニケーションの阻害要因にはなっていないようです。

 

阻害要因としての「管理者、社員、経営者のコミュニケーション力不足:48%」、「組織風土・社風:40%」という課題を私たちはどのように捉え、どのように解決していけば良いのでしょうか。

このような課題は単に「コミュニケーション・スキル」の問題でないことは明らかです。それは、分化と統合の中でも見てきたように組織が大きくなるにつれて必然的に表れてくる問題です。つまり、ナラティブ(その人たちの世界観で語ること)が異なるのです。

 

ちょっと話が飛ぶようですが、阻害要因の2つを考えていくときに、一度立ち戻って考えておくべきことは「組織って何だろう」ということに対する当事者間での認知です。そうなんですよ、私たちは組織という言葉を日常的に使っていますが、その人たちが使っている組織ってどのような姿や意味を持っているんでしょうかね。

 

皆さんは、例えば「組織」をどのようなメタファー(喩え)で語りますか。目的を持った人々の集まりが組織だ。という考えもあるでしょう。人間の体と同じで頭や手や足や内臓などさまざまな役割があってかつそれが全体として統合されているとか、あるいは様々な要素(コンポーネント)の集まりというのもあるかも。

要素(コンポーネント)の集まりというのは、組織診断なんかをする際に便利な概念で、例えばマッキンゼーは7sモデルという組織モデルを提唱して、組織をstrategy・structure・system・staff・skill・style・shared-valueという7つの要素で見たらどのようになっているだろうかと問いかけたもんです。

最近は「組織とは意味を形成するシステムである」という概念が提唱されています。この概念は、社会構成主義を前提とし、対話ベースの組織開発を実施する際の基本的な組織概念でもあります。要するに、組織の実態は、それを語る人の語り(ナラティブ)の中にあるという見方です。

 

そこで社内コミュニケーションの2つの阻害要因に戻りますが、「管理者、社員、経営者のコミュニケーション力不足:48%」「組織風土・社風:40%」という課題は、文字通りに、コミュニケーション能力不足や組織風土(が良くない)ということではなく、社内コミュニケーションを阻害しているのは「当事者間におけるナラティブの違い」ではないかと思うのですよ。

 

このような主張をする人たちの多くは、私を含めて、その人たちの体験にこの主張の根拠があります。対話型組織開発の著者であるG.ブッシュの体験を覗いてみましょう(対話型組織開発P79~80)。

とっても簡単に紹介すると、人間集団で起こっている問題を解決できるのは「当事者間での対話である」という、至極あたり前のことだったのです。彼はこの体験で、診断型組織開発のマインドセット以外のマインドセットが必要なことを実感したのです。

彼は、こうも言っています。「この時の(ワークショップである対話)デザインは、比較的安全な方法で、同じ問題に対して多くのナラティブを表面化させる(参加した当事者がいろいろな視点で語る)。大きく異なる意見が明らかになる場合もある。

この方法によって人々は経験から生まれる感情的欲求と不合理な欲求をより明確に表現できるようになり、それまでよりもさまざまな違いを受け入れられるようになる。(中略)そこで生まれる会話は、意見をまとめたり、行動を促進したりするためのものではなく、こじれた人間関係の修復を可能にするものである。」

 

彼は、その後AI(アプリシエーティブ・インクワイアリー)と大規模対話集会(ラージグループ・インタベンション)の実践と研究に取り組むのですが、その過程で、組織に対して誰しもが異なるストーリーを持っているのだと信じるようになっていくのです。そして、組織の「正しい」ストーリー(診断)への合意を形成しようとする行為は、一つのナラティブを優遇することに繋がり、変革の促進にはそれほど有効ではないという結論に至るのです。

 

この下線部分の認識は、とても重要です。部門間のコミュニケーション・ギャップ改善や組織風土改善は、コミュニケーション・スキル研修をしたり、風土改革のため新しいビジョンを誰かが作成し、それへの合意形成を促進するミーティングを開いたりすることで解決するような問題ではないことが分かります。当たり前ですが、コミュニケーションに絡む問題解決のためには、当事者同士が自分たちのナラティブを表出し、互いのそのギャップを埋めていくような「対話の場」を設けることが必要なんですね。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です