• チームとして成長する~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㉝~

チームとして成長する~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㉝~

~ビジョンをつくるのは始まりに過ぎない~

私たちが好んで使うマネジメント用語にビジョンがありますが、ビジョンは私たちが思っているほど人を「ウキウキさせるもの」ではありません。ビジョンは「私たちが自分の行く道を自分で決める覚悟を示すもの」です。従ってむしろ、人を緊張状態にさせるものです。

人によってはビジョンを持たない方が楽な人もいるでしょう。家父長的な組織を志向するリーダーのもとで長く仕事をしてきた人たちはそのような思考パターンが知らず知らずに身についています。ですから、ある日突然新社長が「自分で考えて仕事をする」とか「会社は君らの面倒を一生涯見ることはできない」などというと、途端に思考停止になるのです。

ピーター・センゲは学習する組織の中で、感情的緊張と創造的緊張という言葉を使ってそれを説明しています。感情的緊張とはいわゆる「負け犬根性」です。

          そんなのできないですよ。無謀です。

          それってやる価値があるんですか。

          そもそもそんなことやる時間も金もないし。

というような感情です。

ビジョンという目指す姿を設定したにもかかわらず、その目標を実現させる行動をとらず、いつもの行動をとっている。それには3つの要因と出現するパターンがあります。

パターン1

       目標を引き下げる、現実的目標にする。なぜかというと、深いところで自分に自信がない。

パターン2

       望まないものを避ける、失敗しないようにしている。なぜかというと、深いところで自分に価値がないと思っている。

パターン3

       ひたすら自分にはっぱをかける。目標達成に対するあらゆる抵抗を抑えつける。意志力で乗り切ろうとする。パターン1の裏返し。無理をして別の問題を引き起こす(社員の離反、家庭を犠牲、離婚など)

 

これって分かる気がするんですよ。自己防衛が働いているんです。でも、これじゃ何時まで経っても何にも変わらない。このままだと、現状が続いていくことのリスクを考えたくもないという態度になってしまいます。だから、創造的緊張という「是非ともそれを成し遂げたい」という気持ちと意識をどうやって創り出すかがとても大切になってきます。

そこで、創造的緊張という概念をちょっと分かり易くして、日常の仕事環境の中で実践に移すにはどうするか。ポジティブ心理学的に言えば、チクセントミハイが言うところの「フロー状態:熱中している」のデザインができるかでしょう。私なりにちょっとアレンジしてお伝えします。自分の仕事環境やマネジメントと合わせて考えてみてください。

~ビジョンを実践に移す

      ビジョンを身近な達成目標に分解する。ビジョンにどれほど価値があり素晴らしいものであっても、日常の仕事とどのようにつながっているのかが理解できなければ行動に移しようがない。

      目標達成のための「課題と行動」を明確にしたら、それに努力を集中させる。つまり、やっていることに優先順位をつけ、チームや個人の努力の投入時間を明確に決める。

      行動に対するタイミング良い的確なフィードバック。つまり、一人ひとりの行動が目標達成にかなった行動になっているかを定期的にみんなで振り返り指摘しあう。

      振り返りの場で、一人ひとりが感じている「不安や懸念」といった心理的なことを表出できる信頼関係を築く。それには、リーダーの受容的態度が欠かせない。

      時に心を休めるための「場」があること。例えば、カラオケでもいいし、スポーツでもいいし、休日はちゃんととること。つまり、ストレス解消は必要。

管理者のあなた、①から⑤を面倒くさがらずに、メンバーを巻き込んで実践できていますか。

①はあたり前のように感じるかもしれませんが、本当にチームの全員が仕事の中に価値を感じる目的を設定し合意するのは生易しいものではありません。そして、それが日常の具体的な仕事とどのようにつながっているかを明確に理解することは意外と難しいものです。

②もそうです。みんなが今までこれが大事な仕事、つまり自分の役割だと思ってやっていたことを「そんなんじゃダメ、こっちをやろう」とすぐに合意できるでしょうか。特に、ベテランがいる場合はどうでしょう。重要度/緊急度マトリックスって知っていてもあまり使われていないものです。

③なんかは、もっと難しいでしょうね。若手管理者なんかは「ここは強く出なくちゃ」と思っても「え、いや、みなさんの自主性に」なんて言って、心で「だめだ俺」って感じてしまったりする。メンバーの中には「ちょっと言いたいことがあるんですけど」と思っても、リーダーが「これで良いですね」と強く言うと、「ま、しょうがないか」と思い黙ってしまうとか。

④も下手するとリーダーが「私が頑張らなくちゃ」と思い、チームを引っ張れば引っ張るほどメンバーが何も言わなくなる。結果、一層メンバーにプレッシャーをかけて、休日にも連絡してしまう。残業が過剰になってしまうとか。

そしてやがて、⑤のルーズにすべき時間がまったくなくなってしまう。

受け身のストレスでは生産性が低下してしまいます。大切なことは、自分たちがやっていることに「価値や意義」を見出し、ストレスを積極的に活用することです。これが創造的緊張です。スポーツチームや、スタートアップの集団が熱く頑張れるのは、自分たちのやっていることに価値を見出しているからです。ここが曖昧だと、ストレスは私たちを蝕みます。

 

      この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。