禅・精神医学とリーダーシップ③:自己の内面に目を向けること

※この記事は3部構成の3部目です。以前の記事は

禅・精神医学とリーダーシップ①
禅・精神医学とリーダーシップ②

をごらんください。

不調の原因は認知の傾向にある

(竹本)
実際にクリニックで、上司との関係に悩んでいる部下の方々にはどのような傾向がありますか?

(川野先生)
本当に2極分化します。自分の内面に視点を移す人と自分と向き合うことを最後まで拒絶する人です。自分の内面に視点を移す人は「私のどういう考え方が問題なのか」という議論になっていきます。一方で自分と向き合うことを拒絶する人は自分に目を向けるのが怖いという感情をお持ちで、「今の職場は私のスタイルとどこがあっていないのでしょうか?」という議論になってきます。極端に言えば、自分の適正ではなく職場選びの問題になってしまうのです。「私はこう考えたらいいんでしょうか?」という視点を持てる人は禅・マインドフルネスや認知行動療法などの精神療法に一生懸命に取り組もうとします。そうではなく環境に目を向ける人たちは、そうしたアクティビティや治療を単なるリラクゼーションのように感じてしまいます(もちろんリラックス効果はあるのですが)。最終的には、私には役に立たない、という考え方になってしまい、状況も本人も変われないままで終わってしまうことがあります。そして別の会社に転職を繰り返してしまう、ということも実際にあります。現在では人材の流動性も高まってきているので、転職機会も多くなっています。「次に行く職場は、今よりいいに違い無い。」という幻想で動いてしまうのです。もちろんそれを繰り返していく過程で最終的に、自分に問題があるのかもしれない、ということに気づくケースもあります。
自分が何なのかわからない、自分の心幹がないという状態のままで転職を繰り返すのは本人の成長には繋がりませんし、危険をはらんでいるように思います。結局は自己を知るということが大切なのです。私にはこうした資質があり、こうした可能性がある。そして自己努力によってある程度の成功体験を積んでいることが非常に大切です。なぜ自分がそこにいるのか、という視点がないと自己効力感の低さから抜け出ないのです。そういう方は、まず自分の自己効力感が低いのだ、ということに気づくことが第一歩です。しかしそれを認めようとしない方が多いのもまた事実です。

具体的なアプローチ

(竹本)
例えばクリニックでは自己効力感が低いという方にはどのようにアプローチしますか?

(川野先生)
主に2つのアプローチがあります。一つは、対話の中で気づいてもらうということです。そしてもう一つが行動療法的介入です。行動療法的介入とはマインドフルネスの実践の中で気づいてもらうことです。症状が重い方は、独特な認知の捉え方をしていて、自分の心の問題を外在化してしまいます。問題の対象を中ではなく外にしようとする。例えばマインドフルネスの実践として瞑想をしている中で雑念が出てきたら、集中できない自分に気づくことが第一歩なのですが、集中できない自分を認めることができないケースがあります。この場所は音がうるさくて集中できない、部屋が散らかっているから瞑想しにくいんだ、などと、問題を外在化していくのです。この状態が続くと自分の内面に入っていけません。ここで大切になってくるのが、シェアリングです。自分の内面に目を向けることのできる人は、車の音が普段より大きく聞こえることを、瞑想による感覚の変化と捉えることができます。「なんて車の音が大きいんだ」ということをプラスに捉えているということです。こうした気づきを複数の人たちで共有できれば、問題を外在化していた人も「そう気付けばいいんだ」という発想に変わってきます。仏教では「サンガ(僧伽)」と言いますが、禅の修行は必ず何人か、あるいは何十人かで集まって修行をします。それが気づきを促進していくのです。マインドフルネスとシェアリングは両輪として扱うべきでしょう。マインドフルな心の有り様がシェアリングによって多くの人に伝播することで、様々なダイナミクスが生まれます。他者の経験を自分の経験のように感じ取れるようになる、まさにオープンマインドと言われる状態です。

これはグループダイナミクスにも通じる概念ですね。自己の内部に向き合わない人たちに対してこうした他者との関わりが、外在化の歯止めになっています。自分の中が変わるから音の聞こえ方も変わる。これが外在化と内在化の違いです。

こうした感覚の違いに気づき、自己の内面に目を向け始めるとマインドフルネスは深まってゆき、実際にマインドフルネスの状態を測定する心理検査のスコアもかなり変わってきます。簡単に言えば、建設的なものの見方に変わっていくのです。

実際にあったある職場の事例があります。その人は、職場の上長に対して日々の関わりに不満があり、非常にネガティブな思いを持っていました。しかし、毎日数分間のマインドフルネスを数か月継続したところ、その人に対する見方が変わってきたそうです。そうした関わりをしてしまう上長にも色々な苦労があるのだという見方です。上長の立場をおもんばかり、苦労に共感する姿勢を持てるようになったのです。それからしばらくすると、なんとその方が上長の相談役のようになってきたそうです。不満を感じ、嫌いだと思っていた関係から相談を受けるような関係へと変化が起こったのです。こうした変化を経て今では絶大な信頼関係が生まれています。まさに自己理解が他者理解を生むという構造です。これが前述したアウェアネスとアクセプタンスなのです。

こうしたことを踏まえながら、自己の内面に目を向けられるように支援していく。リーダーシップを発揮していくために非常に大切だと感じます。

 

<編集後記>
非常に興味深いお話をたくさん教えていただきまして川野先生には感謝申し上げます。マイクロマネジメントからの脱却、自己の心幹を鍛える、など、本イタビューの中で、今のビジネスの現場にお届けしたい情報が満載になりました。JoyBizのサービスでもこうした領域にアプローチすべく日々研鑽を進めております。よろしければ、JoyBiz代表恩田の社長ブログ(https://www.joy-biz.com/ceo-blog/)もご覧下さい。
※川野先生の著作の一部をご紹介しています。詳しくお知りになりたい方は是非ご覧下さい。