モメンタムをマネジメントする:燃焼編⑥ ~ソモサン第290回 ~

今回は禅でいうところの「今ここ」ということが持つ意味をコメントしてみたいと思います。

ものごとは、物理的にはどんなに遠い過去での出来事であっても、心理的には常に今ここといった存在になります。またものごとは物理的にはリアルな体験として他者と共有出来ても、心理的には個々でバラバラな体感になります。それが人が持つ認知であり、他者との認知の共有や一体感を生み出すことのハードルになってきます。

ところで心理学者のアドラーも言っていますが、人間が持つ問題やストレスの全ては対人関係から生まれてきます。いわゆる相互に信頼関係が持てる状態のときにストレスレスな状態が生み出され、人は生産的な状態になります。

では人が信頼関係を持てる状態はどうすれば生み出せるのでしょうか。信頼を抱く上での条件となる対人関係をストレスレスな状態に近づけるためには、相互の間が物理的には違った体験を経ることが基本としても、心理的には認知を出来る限り共有できる状態にしていくことが欠かせないアプローチになってきます。その一歩は相互理解です。

これは「言うは易く行いは難し」なアプローチです。経験が違うことから認知が異なる人間同士が、相互理解するにはお互いに根気の良い歩みよりの心構えが求められます。そのカギとなるのが、気持ちの共振です。そして気持ちは「今ここ」によって生み出されます。むしろ気持ちだけが「今ここ」によって生み出される境地です。そしてこの「今ここ」によって生み出される境地が対人関係の入り口として人間相互に共有や共感の「場」を生み出します。

「今ここ」という境地は、物理的な時空体験と心理的な体感とが一体化する瞬間です。その瞬間の共有があってこそ、人の心根に安定や安心や安全や平等感も生み出されます。その同時性を一体感と云います。人はこの一体感があってこそ歩み出しを始めます。生産性も歩みがあってこそのものです。これこそ「心理的安全性」の真理です。

禅では「今ここ」のことを「無」と表現しています。「過去は幾ら振り返っても、憂いても戻っては来ません。また未来は不確定で幾ら予測しても惑っても見えません」そのような不安定なことに心を揺り動かされて悩み無為な時間を過ごすことよりも「今ここ」に集中して心を静め、実存的に暮らしなさい、と説いています。それが最もストレスレスな生き方であると云っています。その心根を「無」という言葉で表現しています。因みに画家のピカソは「無は全有の如し」と述べています。それはまるで「円」のようなものです。「無」とは「丸」です。

そう一人一人が「今ここ」に集中して、「心を無」にして、気持ちを開いた上でお互いに対峙した時に、初めて人は相互に胸襟を開いて感情を同時化し、相互理解の扉を開くことになる、ということになります。そして「今ここ」における平等な人間観があってこそストレスレスな場が生まれ、アドラー的には「全ての問題は解決に至る」といった按配になります。

皆さん如何でしょうか。「今ここ」を人と共有するにはまずは「個々の持つ形成された認知バイアスを手放さなくてはなりません。それを得るためのアプローチとして、一度は心理的な時間を「今ここ」に誘う集中のためのメソッドである「瞑想やマインドフルネス」のアプローチを体感してみるのも一考だと思いますよ。

では今回の主題である「傾聴と伝達」に入って行きましょう。

声のトーン(高低)や話のテンポ(速い、ゆっくり)、声のボリューム(大小)、話のリズムといったペーシングを合わせたら、パロット(オウム返し)やパラフレージング(言い換え)によって相手の話の意味合いや内容を受け止めて、同調的に相手との信頼関係を知事めていくという話は前回しました。

付け加えますと、特にパラフレージングでは、

①事実に沿うこと、

気持ちや感情に沿うこと、

③要約すること

が大事になります。そして優位感覚を見出して、相手に応じてそれを使うとより食い込めるということも思い出して下されば幸いです。

傾聴で抑えなければならないのは、まず相手がどういった基本的な指向性を持っているかを見切るというということです。

人はその心理的根底として、「接近モチベーション」に反応するか、それとも「回避モチベーション」に反応するかで思考パターンが異なります。異なるパターンに異なったアプローチをすると話の入り口段階で心に壁を作られてしまいます。接近モチベーションとは「前向きで積極的、挑戦的にものごとを見る動機」を持った人です。「目的志向型」とも称されます。一方で「回避モチベーション」は「後ろ向きで消極的、逃避的にものごとを見る動機」を持った人です。「問題回避型」とも称されます。

例えば、待ち合わせで早めに来る人にその理由を聞いた場合、「余裕を持って相手を待っていたいから」と答えるのか、「遅刻して嫌な思いをしたくないから」と答えるのでは、考え方は大きく異なってきます。

こういった場合、質問に対して相手がどのように答えるのかをしっかりと聴き取り、相手に合う言葉や相手に沿う話し方をしていくことが、相手を動機づけしていくきっかけになります。

ここでもう一度念を押しておきます。自分の話したいことで頭一杯で相手のパターンにも気が付かないような状態では、その段階でマネジャー失格ということです。

他にも幾つかパターンがありますが、大きな見分け方として3つのパターンがあります。その一つは主体的な行動です。例えばすぐに動くとか物を言うタイプか、考えてから或いは考え込んで動くタイプかといった行動をみます。

視座とか視野のタイプも大事です。情報を全体的に理解するタイプか、詳細に理解したがるタイプかといった違いです。またここでも優位感覚が利用できます。納得し理解をさせるには見せることが一番なタイプか、はたまた資料を読ませることが一番のタイプか、または実際に一緒にデモを体感させることが入りが良いタイプなのかといった按配です。

さてでは次回はもう少しこのタイプ別アプローチを深く見ていくことに致しましょう。

それでは次回もよろしくお願い申し上げます。

 

さて皆さんは「ソモサン」?