• [組織開発]教科書から学ぶ⑩~啓蒙主義から社会構成主義へ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-263~

[組織開発]教科書から学ぶ⑩~啓蒙主義から社会構成主義へ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-263~

ODメディアは、前回から、フランク・J・バレット(米国、対話型組織開発の協働著者)の解説に沿って、近代化の主流思想となった啓蒙思想(主義)の内容とその影響を見ています。彼によれば、社会科学は啓蒙主義の伝統から出現したといいます。

哲学者のオーギュスト・コントとアンリ・ド・サン‐シモンは、自然科学を見習って実証主義者による「社会の科学」を提唱しました。実証主義という言葉に込められた意味は、論理的表象(注釈を参照)を用いて、知覚的経験を説明することによって得られる知識のみが有効であるとする立場です。このような実証主義者による科学の課題は、社会が新たな秩序に向けて発達していく中で、社会の様々な相互関係を説明するものです。そして、彼らが描いた新しい社会秩序とは、当時発展しつつあった産業化社会でした。そのような中で、よりよい社会を創出するために自然および社会の力をコントロールする役割を担うのが社会工学者であると考えました。

 

【注】

心理学においては,しばしば「表象」という言葉が使われます。国語辞典では,一般的には「象徴」や「シンボル」「表記」「記号」といった何かを象徴的に表すものを指す言葉ですが、心理学では「外の世界における事物を表す心の中の表現」というような意味で使います。

論理的表象とは、心の中で表象を用いて行う論理的思考のことです。例えば、「3個のみかんと2個のりんごを足す」という計算を、実際にミカンとリンゴがなくても、想像してみることができるという思考のことです。表象には、「アナログ表象」と「命題表象」という2種類があり、アナログ表象は「知覚的表象」のことで、イメージあるいは心象と呼ばれることもあります。命題表象は「言語的表象」のことで、概念や判断と呼ばれることもあります。

 

啓蒙主義の伝統を引き継ぐ思想家は、過去の経験と発見を基盤とする直線的かつ漸進的な科学的進歩の観念を称賛することになります。それはつまり、人間は先入観を持ち、感情的であり、認知能力にも個人差があるため、観察者に左右されない観察結果を得るための技術が必要であり、そのようなデータはすべて数学的に計測されなくてはならないと考えました。このような考え方はモダニズム思想の流れに沿ったものです。モダニズム思想を要約すれば以下のようになります。

  • 精神と外的世界は別々の実体である。
  • 物事はいかなる特定の人からも独立して存在し、観察可能でなくてはならず、また数学的言語で記録されなければならない。
  • 私たちが物事を正しく評価し表現することができたとき、客観的世界を知ることが可能となる。

このような思想を前提とし、社会科学の課題は、自然科学と同様に実証的データから知識を蓄積すること、および、万物流転の渦中にあってもその永続性を説明するために、反復的で変わらない体系的なパターンと、歴史を超越した妥当な原理を明らかにすることでした。つまり、啓蒙主義から生まれた社会科学における実証主義的アプローチの基本的な目的は、安定的かつ永続的で持続可能な関係性を探求し、それによって人々の社会生活を説明することだったのです。そして、20世紀の社会科学は、「研究とは既知の知識を基盤として仮説を立て、社会的および心理的プロセスを測定するために計量的手法を用いていくことである」という基礎的な前提を掲げることによって、これらの考え方とアイデアを大きく発展させました。結果として、組織研究においても詳しい調査やアンケートを用いるようになります。そして研究結果は、個人、グループ、組織、社会全体を対象とし、その構造を安定的に持続させることの重要性を強調するために用いられるようになりました。これは、外観や集団・組織の特殊性といった表面に見えているものの下には、より深い永続的な構造、すなわち因果関係の観点から説明できる規則性が存在しているという考え方につながります。つまりそれは、問題を解決するための「正解」を探し求めるような姿勢です。別の言い方をすれば、発見されるのを待っている客観的事実が存在するという考え方です。フレデリック・テイラーの科学的管理法もこの流れに準ずる考え方であり、方法論です。時間と動作の研究を基盤とするテイラーのアプローチは、人間の行動はすべて数学的に説明することが可能であると仮定します。したがって、人間も機械工具の一部とみなされるようになります。テイラーの思想は、1990年代から2000年代初めにかけて流行したリ・エンジニアリングを唱える一部の人たちにも受け継がれています。確かに、テイラーイズムは工業化社会における能率の著しい向上に大いに貢献しました。とはいえ、よく知られている通り、チャップリンのモダン・タイムス(労働者の個人の尊厳が失われ、機械の一部分のようになっている世の中を笑いで表現している)は、この思想に大きな反旗を翻したものです。

啓蒙主義に基づく社会科学のアプローチを要約すれば、人々の知性は先入観にとらわれることなく、外的なものを明確に理解できると考え、この考え方に基づく適切な観察技術を利用すれば発見できる客観的事実が存在するということです。しかし、この考え方は社会構成主義によって論駁されることになります。(続く)

参考文献:[組織開発]教科書、対話型組織開発

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。