• 老害問題はモメンタムレスの社会心理から生まれている ~ソモサン第279回~

老害問題はモメンタムレスの社会心理から生まれている ~ソモサン第279回~

最近某有名美容外科医の発言がその子息から「老害」的であると返されたりとか、何かと老害やマルハラに関する報道が増えてきました。これは寿命の伸長とともにどうしても避けられない話だと云えます。齢も80代前後になると情報の取得手段も減り、また認知能力も衰えてきますので、どうしても受信機が壊れがちで、応じて発信機が暴走しがちになります。この手の老害問題の内容は、何処かの新聞者の社主の如く昔から問題視されてきたジェネレーションギャップに関する話ですが、前回私が主題とした老害に関するコメントは趣旨が異なります。最近のジェネレーションギャップに関するマルハラやソフト老害といわれる話には特殊性があり、そこには失われた10年と云われた時代に話題となったバブル世代の問題が再び鎌首を持ち上げてきたという問題の先送りが生み出した深刻な影が潜んでいるという話です。

バブル世代のレベル低下がボトルネックを生み出し、それが砂時計のようになって、上にも下にもハレーションを起こして、お互いの認知にコミュニケーション的な乖離を起し、それが最早社会的な快適性や生産性にまで弊害をもたらし始めているのではないか、という話です。最早下の世代は上の世代全体を否定するようになり、上は下を否定するようになってきました。ボトルネックを軸に相互の翻訳やパイプが機能しなくなってきて、どちらも相手に対して理解不能になってしまい、社会を持続させる上で有益な情報すら途絶し始めているような感があります。実際に60歳前後の本部長とかジェネラルマネジャーと云われるようなクラスにバブル時代特有な安閑とした環境(場)でマネジメントされたことによるマネジメントに対して不勉強で無能力な人材が蔓延り(見てきていないし教えられていないから分からない。人は学んだ様に振る舞う)、

 

・人を通しての仕事の問題解決は出来ないし、

・部下を始めとして人を育てられないし、

・部下からの信頼を得られないしで、

・組織を疲弊させながらも、

・ただただ上に対する胡麻すり的な人間関係力で上におもねいて

・年功的にポジションを得て、

・ひたすらその立場を意地すべく自己保身だけを念頭に下に責任を押し付ける輩

 

をちょくちょく目にします。実際はバブル後に苦労してきた40代を中心とする下の方が優秀なのですが、その能力査定すら出来ませんから下は無能な権限保持者によって窒息状態に陥っています。この状態では下はストレスによってネガティブ意識や悲観が蔓延り、気持ちは腐るばかりです。当然これは若手に連鎖しますから、

組織や引いては社会全体がモメンタムレスな状態に填まります。これでは創造性とかイノベーションなど夢の世界です。

バブル世代を底辺に上は年を重ねるにつれて能力が低下しますから、下からはまさに上全体が無能に見えてくるのは道理です。昨今は時流も早く、70代以上の上の世代が果たしてきた功績も分からなくなって来ていますから、老齢者への認知は必然としてますます「老害」という認識になり、感謝はなくなります。一方老齢者はバブル世代の現実の振る舞いを受け身として経験していませんから、漫然と自分の経験を投射して彼らの無能さに気が付かず、若手の声よりもバブル世代の声を重視し採用しますから(組織の上意下達が裏目に出ています)、両者の乖離はその度を増すばかりです。欧米ではリストラと云えばまず上の責任者に責任を取られますが、

日本は下の首切りに終始しますから、この改善は望むべくもありません。かくして組織や社会は衰退の度を高めていくばかりになります。

実はこの例に表されるように、

モメンタムに最も大きな影響力を持たらすのは、個々人の意識や行動以上にその人が関る環境(場)の要素です。

しかもその環境は連鎖的に増殖します。ですから本当に怖いのは、若い人自身が上になったときの、年を取ったときの、組織や社会の姿になってきます。

環境を作るのは係る人々の相互関係、チーム凝集性の在りようとマネジメントの在りようです。これを作るのが組織開発です。しかしやはり起点は個々の意識の在りようになります。個々人の開発と組織の開発は同時並行でなければ意味をなしません。

 

そして今主題になってるのが、ストレス状態によって相当に低下している個人や組織におけるモメンタムの劣化と相互、特に上下に対する信頼の途絶と対立構造の状態です(信頼があれば、相手に気配りした一定の労いやあしらいが働くものです)。この回復が急務になってきていると思う次第です。

本来組織開発を生業とする私がまず個人としてのモメンタム向上に着手した理由はここにあります。まず個にアプローチする。社会にとって今やそれ位モメンタムの劣化は喫緊の課題になっているのです。

それでは本題に入っていくことに致しましょう。

皆さん、仮面ライダーはご存じですよね。

では「仮面ライダーの法則」は如何でしょうか。

これは私が思いついた法則で、単に「仮面ライダーはしゃがんで飛ぶ」という物理法則を指したものです。ウルトラマンのような宇宙人は直立したまま半重力を利用して飛び上がりますが、地球人は一旦しゃがんでタメを作ってからでないと飛び上がれません。この当たり前のような法則は様々なところで顔を出してきます。ここでいうところのタメとは土台、インフラのことです。しかし当たり前とは云いますが、実際にはこのタメを軽く見てアキレス腱を切る人が多くみられます。同様に土台を作らずに建築をして砂上の楼閣を醸し出したり(液状化で家が傾くあれですね)、インフラもないのにイノベーション的な動きをして経営を壊滅に導いてしまうケースも引っ切り無しです。土台というのも色々ありますが、身体的には筋力や反射神経であり、経営や組織の世界においての土台はいわゆる「人、モノ、金」です。人モノ金の質と量とバランスなくしてイノベーションのようなジャンプ行動は無謀そのものです。

こういった陰と陽の関係は「タオ」の如くセットで一つの世界を醸し出します。

これは心の在りようも一緒でそれがマインドフルネスとモメンタムの関係にも反映されています。

心の状態は「気」という概念で表現されますが、気とは知情意という心の三要素でいう意と情に関係します。意が方向付けだとすれば情はエネルギーのような位置づけになります。「気が強い」とは意思が前向きで感情が力強い状態です。ここで着目するのは「気」が陰陽の「タオ」と同じように意情という二つの因子によって成り立っているという点です。つまり気を動かすには「意」という意思の側面と「情」という感情の側面の両方を刺激する必要があるということです。そしてそれはマインドフルネスにもモメンタムにも求められ、総合すると都合4つの領域に対するアプローチが必要になるということです。

これは「やる気」という世界や「動機付け」という世界にも共通します。これまでも「やる気を高めるには」とか「動機付けをする」という名目で様々な論が展開され来ました(両者は静態的な見方でのアプローチです)が、その中に「まずは土台をしっかりとさせる」といった「しゃがんでタメを作る」面や「感情的な動きを誘引させる」といった動的な面を総合的に言及する内容は全くと云って良いほど見掛けませんでした。だからこれらの世界はなかなか実践がされなかったと云えます。JoyBIzコンサルティングではこのマインドフルネスとモメンタムにおける意と情の二面アプローチに対してこれまでLIFT(Life Intention & Force Treatment)と命名して取り組んできました。これをモメンタムの普及に合わせて「M²(エム・スクエア)プログラム」として展開していくことにしました。

それではやる気を喚起させ、動機づけを可能にする「M²(エム・スクエア)」、マインドフルネス&モメンタムへのアプローチをご紹介して行きましょう。

やる気にしても動機づけにしても最も重要なのは「意」、意思的な領域での「気(気持ち)」の向上です。

モメンタムの概念では「持続的なやる気」として「燃焼モメンタム」と称しています。ですから最終的には如何に「燃焼モメンタム」を炊きたてるかということが狙いになります。

しかし言うは易く行いが難しです。そう簡単に燃焼モメンタムには火が付きません。それは「やる気のない状態」とは、単に意思が弱い(モラルダウン)だけではなく、感情的に落ち込んでいる(メンタルダウン)場合が殆どだからです。ですからまずは感情への着火が必要になります。

「瞬間的にでもやる気のきっかけを起こす」必要があります。

この感情面でのやる気を起こすアプローチを「着火モメンタム」と称しています。

具体的には、まず低位となった感情の揺れを高める必要があります。それには五感を刺激することから感覚を揉み解して、感情の起伏を高めていくことが肝要になります。その時に効果的なのがNLP(神経言語プログラミング)という心理学的な理論を応用した

「人それぞれが持つ固有の優先感覚」の活用です。

例えば視覚優先な人や聴覚優先な人、あるいは体感覚優先な人といった「お好みの感覚」を刺激することによる「情動的な起伏」の活性化です。例えば「ビジュアル鑑賞」「音楽鑑賞」「運動」といった取り組みです。中でもそこに日常の利便性を合わせた形で活用度が高いのが「音楽」、特に「リズム」による刺激です。そこに「意思」の刺激にも繋がる「歌詞」などが加わると着火モメンタムの作用は強まります。こうしてまずは心が硬直している情動的な領域にエネルギーを充填することが大事です。気持ちのないところに幾ら理屈を言っても心は動き出しません。

でも単に一時的に感情が低位なだけならば、まだ盛り上げるだけでも何とか心は動き出しますが、多くの場合はそれが長期間に及んでいたり、マイナス思考によって押し込められている場合、

その刺激ですらマイナスに作用することがあります。

そうなると前向きなこと自体が反射的に拒絶される場合があります。その時にはまず後ろ向きであったり、がちがちに凝り固まった気持ちや感情をゆっくりと解きほぐす必要が出てきます。まずは心の在りようをニュートラルにしなければなりません。それを可能にするのが

マインドフルネスの中でも集中瞑想(フォーカスト・アテンション)と称されるアプローチです。

このアプローチは実際に医療現場で治療方法として運用されています。気持ちを集中させることから感情を凪いだ状態にします。湿った薪を乾燥させるようなものです。そういった準備をした上で薪に火を点けるわけです。

薪が着火したら、今度はその火を持続的に燃焼させなければなりません。そこで登場するのが「燃焼モメンタム」です。今度は意思的、「思い」に火を繋ぎます。でも思いがなければ、或いは思いが不確かであれば火はそこで消えてしまいます。ところで「思い」とは一体何でしょうか。

「思い」とは「信念」であり「目標」です。時には「使命感」とか「責任感」と捉えている人もいます。いずれも「自分は自分である」という存在の自己認知です。

これがないと「思い」が希薄になり、ただ生きているだけという存在になって「思い」は迷走します。一方思いがあれば、その思いに火が灯って「やる気」が起き、活性した行動が生み出されます。「思い」をどう作るかはまた別次元の話なので別の機会にしますが、「思い」を作るにおいてもモメンタムがなければその行動は生み出されません。

少なくとも「思い」の種となるのが

「メタ認知」と称される認知能力

「利他心」と称される信念

が元になっているということは間違いありません。メタ認知は「自分自身も含めた形で自分を俯瞰する認識」です。まあ背後霊のように自分が今何を行っているかを客観視する想念ということです。先だって人間ドックに行ったときに、計測担当者から「最近何か変化がありましたか」と聞かれたので、「少し瘦せたかもしれません」と答えました。計測すると意に反してデータ的には増えていました。担当者はそれに対応出来ずに固まってしまいました。瞬時に対応出来ないのです。聡明な皆さんならばお気づきだと思いますが、データは一年前のデータです。私は「最近」と言われたので「減った」といったのですが、一年の中では上下は平気で起こりえます。たった5キロ以内の話です。この時に会話を俯瞰出来ていれば、「上下があったのですね」といった答えになります。また相手の立場になれば(別に気を使う必要はないのですが)、気の利いた返しも出来たはずです。何故ならば「このお客さんはどうして減ったとったのだろうか。自分は今どういう問いかけをしたのか」ということに思いが回るからです。この担当者に欠けるのがメタ認知力です。ここから見えてくるのが「利他心」を持つには、その条件として「メタ認知力」が必要になるということです。メタ認知が出来ない人は自分が持つバイアスから抜け出せません。

それでも人は日常の中でどうしても様々に存在するバイアスの罠からはなかなか抜け出せません。そこから抜け出すには、今度は自分の思いをニュートラルにする必要が出てきます。自分が持っている信念や目的がぶれたり、見え難くなった場合に、それを取り戻して意を正すには、一旦自分を見直す必要があります。その上でその信念や目標に対して念を入れ込むことが燃焼モメンタムになります。

この時、自分と向き合って思いを見つめ直すために行うのが「自己との対話」です。

その対話を促すのがマインドフルネスの「観察瞑想(オープン・モニタリング、オープン・ミラーリング)」というアプローチになります。

これによって常日頃自分をリセットできる癖付けが出来ていると燃焼モメンタムを焚き付け易くなります。瞑想法は静かなアプローチ(人に迷惑をかけない)ですが、詰まってしまった場合は「叫ぶ」という瞬間的な自分との対峙で心をリセットするという方法もあります。叫ぶのもマインドフルネスの一つです。そうして自分にエネルギーを充てんすると同時に、心の方向をニュートラルにします。

では燃焼モメンタムに話を進めましょう。燃焼モメンタムは「意図的行動を起こして思いを高める」アプローチです。行動は目に見える活動だけではありません。言葉を口にした対話といった言語的なものもあります。大事なのは内面で行うのではなく、きちんと動きをするということです。喋るということも一つです。そういった意味で独り言も自己との対話行動の一つです。人は言葉を口にすると、言葉は一旦外に出て耳を通して自分に返ってきます。それはある種の対話行為になります。ペットや植物、時には人形と話すのは自分と向き合う行為です。その時人は単に後ろ向きな愚痴を発するだけでなく、後から前向きな発言をし始めます。これが燃焼モメンタムです。前向きな歌詞を歌うとか、好きなヒーローのポーズを決めるのも自噴を促すアプローチと云えます。特に前向きな歌詞やセリフは肯定的な自分を取り戻し、勢いづけます。

 実はこれを他者に対してリーディングしたり、支援するのがコーチングであり、カウンセリングであり、マネジメントの神髄なのです

昔から名コーチや名マネジャーといわれる人に共通するのは、勢いづくりが出来る人です。自分に優しく人にも優しい人は堕落を生み出します。自分に優しく人に厳しい人は単なる利己主義です。そして自分に厳しく人に厳しい人は、一見良いように見えますが最終的には人を潰します。過ぎたるは及ばざるが如しです。もっともハイパフォーマンスな人は自分に厳しく人に優しい人です。背中を見せながら心を誘える人です。日本にはどっちにも厳しいマネジメント下手が圧倒的です。これはこれまでの組織文化がもたらした悪癖です。

今は組織風土レベルでのモメンタムの向上が望まれています。

その第一歩はマネジメントとしてのモメンタムの重要性を認知することです。

いよいよ今月このモメンタムを扱った書籍を上梓する運びとなりました。まずはこの段階からということで「心の勢いの作り方」という内容にしましたが、JoyBizコンサルティングとしては、これをマネジメントやチームづくりの観点で展開するのが使命だと捉えています。

ということで、いよいよモメンタムリーダーシップを展開していく予定です。皆さん、乞うご期待ください。

それでは来週もよろしくお願い申し上げます。

 

さて皆さんは「ソモサン」?