• お為ごかしではなく、会社の発展につながる働き方改革を正月に真摯に考えましょう

お為ごかしではなく、会社の発展につながる働き方改革を正月に真摯に考えましょう

~組織や社会の特質を考えた対策が必要~

少し早いですが「メリークリスマス」。さて今年最後のソモサンとなりました。皆さん1年間のご購読、大変ありがとうございました。

以前のブログでJoyBizはいわゆる「働き方改革」を十把一絡げに考えるのではなく、働くということを要素毎にきちんと分けて、「働く集団の規範改革」や「働く個人の勤め方改革」など細かく対応することを紹介させていただきました。「雇い方改革」として組織の仕組みや制度をいじることで名目的な改革を行うアプローチが横行する中、実際の職場がそれによってどういう現状に陥っているかについては前回のメルマガで弊社の「シン」がコメントをしていた通りです。

それは、名目的な時短や残業禁止では、見せかけの1日内の仕事量は減るが、制度だけ入れて仕事の効率化をしていないので、残務の先送りや別の日に残務の集中化が起きるだけになり、全体の仕事量は全く減っていないという官庁の実例です。

企業収益の回復は成し得ていないわけですから、賃金も上がらず人も増やせずで、それをカバーするためどうしても大量の仕事を一人でこなすしかないしかないという悪循環、隘路から抜け出せない状況になります。ヘッドトリップする官僚の性で、却って仕事環境は悪化しているという声も聞こえてきます。

そもそも日本の社会は戦後の復興期以来、「製造業」をベースに経済発展をしてきましたが、その産業構造における仕事の仕方や組織運営のあり方が文化として人の心に根深く突き刺さっているのですから、幾ら名目的に仕組みや制度をいじったところで意識や行動の変容は早々変わるものではありません。

 

ここで製造業といったのは深い意図があります。工場の生産ラインというのは多くの人の協調行動で機能しています。例えばラインに特質した作業員がいて、「その人がいなくなったらラインが止まってしまう」では話にならない。従って工場では「標準化」や作業員の「代替性」が鍵となってきました。工場員一丸となって製品を作るという価値観が第一義となり、それは個性よりもチームの力の方が重要であり優先されるということを意味します。

しかしこれは反面、誰か特質的な能力を持っていても、独創性があっても、あくまでもチーム全員で製品を作り上げることが目的であるために、個々人の意思を取り上げたり、特質的な能力を評価したりするといった動機を消し去ってしまうことも意味しています。そうしてこういったモノカルチャーに染まると、従業員全員の中に独創するといった動機や特質性を発揮すると云った動機もなくなっていってしまうこととなります。

そして良くも悪くも平等主義が蔓延していきます。日本はこのような背景を持った製造業、工場第一主義で国家を発展させてきました。そう日本ではこういった文化はもはや国家としての意識にまで昇華されていると云えます。

海外からみた場合、「日本は終身雇用を保証しており、その代わりリスクがない分低賃金である。連動して商品コストも低く抑えられるので商品価格が安くなる。また従業員は長期雇用による忠誠心から、不良品が出ないように生産ラインを自己責任として仕事をする。その従業員は大卒でも直接ラインに従事するから改善も進む。当然品質も優れている」となったら引く手あまたになるのは必定です。日本が世界の中でも非常に高い競争力を保てたのは必然性があるわけです。

こういったモノカルチャーは成功した会社ほど強く残り、その中で適合した人材ほど強く心に刻み込まれています。これはもはや理屈ではない感情に作用する価値観にまで食い込んだ課題になっています。

~日本の土台を支えた製造業中心文化からの脱却

この影響は様々なところに出ています。例えば集団主義中心の価値観は終身雇用や年功序列、労使協調という横並び文化を生み出しました。

しかしこの「成功が生み出す失敗」こそが現在の日本を苦しめることになっています。

「終身雇用」や「横並びの給与」は会社が右肩上がりならばそれなりの動機付けになりますが、現代の殆どの会社にとってそれではコストパフォーマンスが保証できなくなってきています。だから人が増やせなくなっているわけです。また給与が安いと云うことは従業員から見れば動機付けを阻害する主因になります。特に特質的能力を持つものほど、それは士気低下の元凶です。当然優秀な者は辞めていきますし、それが評判になると逸材は見向きもしてくれなくなります。

会社として未来が不安定な状況では従業員に長期安定の保証はなく、優秀な者ほど先の見えない会社に高い能力を安く売りたくはない。こういったリスクやそれに基づいた労働者の流動化は変化する経営環境においては今や常識的な価値観ですが、実際の日本の会社をみる限りこの流動性の低さがネックとなって改革の障害となっているにも関わらず、現行の延長的な改善レベルでの名目的働き方改革でお茶を濁しているわけです。

流動性が低いと何故改革が進まないかというと、例えば会社がある新規事業に舵取りを切った場合、それに見合った専門性が必要となるわけで、その場合資金が潤沢な会社ならばいざ知らず、今の会社は何処も現有資源のシフトしか術がありません。その場合専門性や能力が伴わない社員の雇用を守らないといけないとなるとかなりの負担となります。新しいことをやるに当たって既存の能力を新規にシフトさせるのは容易ではありません。しかし、その状態では新しい能力を持つ人材を雇用することが出来なくなります。

給料は自分よりも貰っているが働かないというおじさん達はこうして量産されています。困ったことにこういう人たちは終身雇用の温い文化に染まり、年功序列的に不可思議な権威を振りかざして会社のことよりも自分の保身に執心し、改革の邪魔をしてきます。これらはすべて製造業中心のスタイルが根底にあるからです。

 

日本は「転職しない」「辞めない」「クビにならない」という雇用流動性が低い国です。職能給主義で専門性を軽んじて転職しても管理職になりにくく、給与が安くなりがちなのも流動性が低い理由ですが、何れにせよ欲しい専門性が不必要なところに埋もれ、見出されても制度や文化として組織的な改革につなげられないのが日本の本当の意味での働き方改革が機能不全になっている原因です。にもかかわらず最近では副業支援といった個人にとっては良いかもしれませんが、会社としては能力を散逸させる様な取り組みを行い、「内は先進的だ」と悦に入っている愚かな会社まで出てくる始末です。

日本で本当にやるべき働き方改革は、まず「リスクとリターンの歪み」を是正して、新しい事業創造に向けて必要な専門性が必要なところに要される状態を作ること。それには人材の能力を無視したような一律主義は辞めて、優秀な人材がそれに見合った働きが出来る環境づくり、制度や文化を改革することです。会社も従業員も同時に儲かる流れ、コストダウンではなく、ともかく外貨を稼ぐ状態を作り出すことです。

まずは「製造業体質」を見直すところから始めないと、働き方改革は却って会社を疲弊させるアプローチになるということを肝に銘じる必要があると思います。

皆さんの組織もきれいごとや浅はかで場当たり的な施策で今を誤魔化すことなく、来年は本質を見極めた自社に相応しい改革的施策を創案して頂ければ幸いに思います。

では皆さん、「良いお年を」

 

さて皆さんは「ソモサン?」。

JoyBiz 恩田 勲