• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑰~ODでは、増収増益を直接的な目標にしない?~

組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑰~ODでは、増収増益を直接的な目標にしない?~

組織開発が今一つ経営者に理解されないのは何故?

組織開発(OD)は、組織の成長や発達に対して、特に人間的側面からアプローチしそれを促していく「課題解決あるいは組織の体質改善」の哲学であり介入技法の包括的用語です。

1980年代からこれまで、日本でも様々な企業や組織で実績があるのですが、経営層には今一つ理解されていないようです。それは、どうも以下の2つに原因があるのではないかと思うのです。

      組織開発は増収増益を直接的な目標にしない。

      組織開発はやってみないとアプローチ方法が確定しない。

今回は①「組織開発は増収増益を直接的な目標にしない」について考えてみようという回です。お読みいただき、みなさんからのコメントなどを頂けると嬉しいです。

米国における組織開発の初期の目的は「官僚制の打破」でした。そして、組織開発に関するどのような文献を見ても「ODを実践すれば儲かります」というようなうたい文句は出てきません。日本で人気なのはむしろ「業績向上のための10か条」とか、「儲かる会社の秘密」といった経営ノウハウの提供やセミナーです。

一方で、組織開発の分厚い教科書は「価値観ベースの問題解決」を大事にしていて、それは「人間尊重、民主的、クライアント中心」などを柱にしています。それでもって、組織の効果性や健全性を高める」ことが目的である、と述べています。

セミナー1回分のお金しかなく、どちらを取るか決めろ、といわれたら「儲かる会社の秘密」の方を買っちゃうんですよね、普通。

そこで問題。直接「増収増益または儲かる会社にする」を目的にする「介入」の是非は?

バブル華やかりし頃日本のある自動車メーカーから「シーマ」「パオ」というとても特徴的な車が発売されました。特に「シーマ」はシーマ現象と呼ばれるほどに人気を博しました。3ナンバーで500万円、初年度36,400台も売れています。ペーペーだった私も、大先輩がこの車を購入し、隣に乗せてもらい、良い気分だったことを覚えています。因みに「セルシオ」は、このシーマの1年後に発売されています。

この時、「遂にN社もT社に一泡吹かせるか?」と思ったのですが、そうはなりませんでした。 なぜか? それはこの一連のマーケティングが外部提案によるものだったからです。この時N社はもう一つの提案を受けています。それは、車種の絞り込みです。これはしかし採用していません。

いやいや、別にいいんですよ。外部提案を受けるのは。私たちも部外者で提案をするのですから。現代はパートナーシップを様々な人たちと組んで「エコ・システム」を形成し、イノベーションを起こしていこうとすることは当たり前ですから。では、なぜN社はその後低迷し、フランスの会社から経営支援を受けることになるのか? それもシーマ現象を起こしてから約10年後に。

ポイントは「学習能力、自分たちで問題解決する力」をその時に身につけなかったのではないか? というのが私見です。

持続的成長の鍵となる学習

学習する組織(P.センゲ)の原書が出版されたのが1990年ですが、ポイントは「従来のものの見方や考え方では出現する未来を乗り切れない」というものです。「戦略を考えるのが経営者で、それを実行するのが従業員である」というパラダイムは古い。真に卓越した組織になるのは、「組織内のあらゆるレベルで人々の決意や学習する能力を引き出す方法を見つける組織だ(学習する組織:前書きより)」と主張したのです。

ところで、学習も「先人が残してくれたさまざまな知恵を身につけていく」というものと「古いパラダイムに疑問を呈し、自ら新しいパラダイムを構築する」とでは、その取り組みと組織のマネジメントが全く異なります。これは、P.センゲのみならず、古くはC.アージリスが「ダブル・ループ学習」という言い方で提唱しています。当時のN社に必要だったのは「ダブル・ループ学習」であり、その学習を実践できる組織の構築だった筈です。

「儲かる会社にする」は至極当然の目標ですが、「儲かる会社にすることを、全員で考えられる組織にする」ことが出来ていないと後が続かないのです。企業で実施する組織開発(OD)は、「儲かる会社にすることを、全員で考えられる組織にする」のが目的です。だから、「増収増益を直接的な目標にしない」のです。

増収増益を直接的な目標にすると、ほとんどの場合は「議論する人が経験してきたことの中で、言葉にできること」が施策になってしまいます。つまり、前例踏襲のアクセルふかしの危険が多いのです。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング() 波多江嘉之です。