• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑮~ラボラトリー・トレーニングの実際~

組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑮~ラボラトリー・トレーニングの実際~

トレーナーのメンタルモデルを問う

今回はちょっと専門的な視点からラボラトリー・トレーニング、特にTグループのあり様について実際にやってきた立場からお話ししてみたいと思います。

       Tグループの理論と方法については、厚さ5㎝700ページほどの、三隅二不二先生監訳の本があるのですが、今回は4ページ程度です。

お話しする前に、みなさん、ちょっとだけ考えてみてください。トレーニング参加者が、トレーニングが終わった後トレーナーに、『○○さん、本当にありがとうございました。○○さんのお蔭で私たち、いや私は何か吹っ切れたような気がします。』とお礼を述べたのです。

あなたが、このトレーナーなら、この感謝をどのように受け止めますか?

最近日本でも、日本の研究者による組織開発の文献が出版され、そこに「未熟なトレーナー」というような指摘があるのは、「参加者を無理やり気づかせる」というやり方をしたトレーナーを指しています。

メアリー・パーカー・フォレット(1868年~1933年、米国、ソーシャルワーカーでありリーダーシップやマネジメントの先駆的研究社)の言葉に、「リーダーシップとは、人に対して権力を行使する」のではなく、「人と共に権力(パワー)を活用」しつつ、グループの思想を統合し高めていく能力である。というのがあります。

Tグループは、基礎的な対人関係向上トレーニング(Basic Human Relation Training)であり、どのように行動するか、一人の人間として他者との関係の中でどのように「振る舞うのか」に焦点を当て、それを体験的に学んでいくものです。

根底には、「自分の行動はすべて自分が選択している」という、アドラーの目的論アプローチがあります。過去が原因で、このように振る舞っているというフロイト的原因論(トラウマ)の話が出てきた場合は、「なるほどね」と聴くが、それを現在の行動選択の原因にしてはならない。行動の目的を探っていくことがとても大切です。

トレーニングの成果は、如何に「行動が変容するか」です。そのための一つとして、自分の行動の目的や価値を問い直し、これからどうなっていきたいのかという大きな地図を描くことに繋げてもらいます。

Tグループの展開:ある1週間の出来事

さて、そのようなTグループはトレーナーが主役ではありません。「参加者が、参加メンバーみんなのおかげで成長した」というプロセスが大切です。決して、「トレーナーのおかげで成長した」とならないようにすることが大切なのです。現実の職場集団にトレーナーはいません。

 

そのようなTグループは、一般的にどのような成長過程を歩んでいくのでしょうか。

      はじまり:模索

(ア) トレーナーが呼びかける。「では、始めましょう」、「皆さんでこのグループを本当に望むようなものにしていきましょう」。ほとんどの場合、グループは当惑に満ちた沈黙に支配されたり、当たり障りのない社交的な会話が行われたりする。

(イ) しばらくすると、「ここは自分たちが作る以外には何のルールもない」という現実に直面する。そこで、例えば「このグループの目的は何か? 自分は何を求めてここにきているのか?」といった基本的なことが討論されることもある。中には、沈黙が続くグループもある。

      個人的欲求の表明とそれに対する抵抗

(ア) 模索の段階の次に出てくる態度が「個人的な欲求表明、態度」である。自分のことを語りだす人もいるが、グループメンバーにはそれに抵抗する人もいる。

      過去感情の振り返り

(ア) グループに対する信頼が浅いにもかかわらず、感情の表明が話し合いの大きな部分を占めるようになる。しかし、そのほとんどは「there & then:あの時、あそこで」という過去のことである。

      否定的感情の表明

(ア) 「今、ここで起こっている:here & now」感情が率直に表明されるようになる。その最もたるものは、「トレーナーや他のメンバーに対する、攻撃・批判、怒り」などである。例えば、「こんなことをやって何の意味があるんですか?」。

(イ) そして、否定的感情が表明されても、グループに受け入れられる経験を持つと、このグループには自由があることを認識し、信頼が育ち始める。

      個人的に意味ある事柄の表明と探究

(ア) 信頼が育ち、メンバーがこれは自分のグループである、このグループを自分が望むようにしていきたいと感じ始める。そのような中で、あるメンバーが自分の内面を話し出す。「自分の内側に向かう旅」が始まる。

      グループ内における「here & now」での対人感情の表明

(ア) 信頼の空気が育つと、「あなたに対する私の感情」が表明される。例えば、「Aさんがずっと黙っているが、なんだか怖いな」など。

      グループ内の治癒力の発展

(ア) 悩みや苦痛を感じながら語っている人に対して、多くのメンバーがその人なりのやり方で関わろうとする。「Aさん、もっと話してください」あるいは「実は私もそんな経験があるんです」など。

      自己受容と変化の芽生え

(ア) 自分の内面をグループに語った時の体験を通して、自分自身を自己受容し自分自身であろうとする。自己受容は変化の表れである。

      仮面が壊れる

(ア) 幾人かのメンバーが行った自己表明と、それに伴うグループの動きから信頼関係が高まる。グループは、個人が自分自身であること、社会的な仮面を脱ぐことを要求し始める。例えば、「本音で語ろうよ、本音出せよ」とか。メンバーが非常に激しくやりあうこともあれば、穏やかな場合もある。

      フィードバック

(ア) 自由なやり取りの中で、自分が他人にどのように映っているかを知る手がかりを得るようになる。例えば、「大変気さくな男性は、その気さくさが不快に思われていることを知る」、「親切な女性は、自分の母親的な役割を望んでいない人がいることを知る」など。

(イ) フィードバックの中で、気づいていなかった自分の行動が他者に与える影響を知る。

      対決

(ア) フィードバックでは生ぬるいと感じ、メンバーの中で対決(直接的なフィードバックや言い争い)が起こる場合もある。

      グループセッション以外での援助的関係の出現

(ア) グループ討議以外の場面で、一緒に散歩するとか、各人が自分の理解・支持・経験などをいろいろな場面で発揮するようになる。

      肯定的感情と親密さの表明

(ア) 人が互いに感情を表出し、受容されると非常に深い親密さと肯定的感情を持ちあうようになる。例えば、「感情を人前で出すことを嫌っていましたが、やっぱり人の気持ちを知るということは大切なんですね」としみじみ語ったりする。

参加者は、グループの成長と個人の成長は切っても切れないものであるという事を学びます。個人の変化としては、自己と他者を感受性豊かに認識し、自分の可能性に気づいてそれを実現させ始めます。人間関係では、真実の感情表現をする勇気をもってコミュニケーションができるようになります。

ただし、Tグループには欠点もあります。それは、学習という点では時間がかかるという事と1チーム10名前後に対して1名のトレーナーと観察者がつくということです。つまり、コストが掛かる。

アメリカのNTLで始まった初期には2週間の時間が当てられました。日本ではさすがにそれは難しく、とはいっても1週間の時間をとっていました。私たちJoyBizは、現在45日で実施しています。それでも5日間の合宿研修が必要なんですね。

ところで、私ですが、トレーニング終盤に参加者が「自分たちの成長や学びを描く絵」があるのです。それはいつも「卵が割れてひなが孵る絵」でした。ご一緒していた先輩のグループは「みんなで山の頂上で万歳している絵」でした。恐竜を踏んづけている絵を描いたグループもありました。新米のころの経験です。何なんでしょうね?

 

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