• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑭~ODコンサルタント必須のトレーニング~

組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑭~ODコンサルタント必須のトレーニング~

集団で考え議論する落とし穴:集団思考の弊害

組織開発(OD)は「プロセスを診る眼」が大切だと書いてきましたが、組織開発(OD)を実践するにあたり、ラボラトリー・トレーニング(Tグループ)の体験はとっても大切だと思うのですね。やっぱり。

※ ラボラトリー・トレーニングについては、ODメディア2月10日「自己の存在意味を問い直す」を参照ください。

組織開発(OD)コンサルタントをやってみようとするからには、一度は体験しておきたいトレーニングプログラムです。何故か? 今回はそれがお題です。

組織開発(OD)には、その実践を効果的に進める役割としてチェンジ・エージェント(変革の推進者)やUse of Self(自己の効果的な活用)という言葉が出てきますが、組織開発(OD)を実践する人たちにとって大事なことは以下の2つです。

① 集団に、何が起こっているかを感じ取ること

② その中で、問題解決に貢献できる振る舞いができること

もちろん、組織とは何かとか、対象となる組織や集団の事業特性、行動科学・心理学の知識およびそれに基づくトレーニングや介入技法の理解など、知識として持っておきたい領域は多岐に渡りますが、どんなに知識が豊富でも、上記2点について「鈍感」だったら、効果的な介入はできないでしょう。

普通の会社で「組織をぶっ壊してやろう」と思って働いている人はいません。多くの人たちは、「良くなりたいよね」と思って働いています。にもかかわらず、組織は問題を抱えるのです。「良くなりたいと思うから問題を抱える」といってよいかもしれません。

と同じように、問題解決の援助をしようとする側が、自分の枠組みだけでの「他者や状況の理解」で援助・介入しようとすると、最初はひょっとすると「なるほどね~~」と頷かれるかもしれませんが、うまく続いていきません。

みんなが一生懸命集団や組織のことを考えているのにうまくいかない。時には、悲劇的な結末を迎えることもある。このことは、集団思考の弊害として研究されています。

集団思考の弊害は、「当事者間の関係性の中で起こる問題」にうまく対処できないから起こってしまうのです。

「プロセスを見る眼」で触れたように、人と人との関係で起こっている事柄がプロセスです。組織行動は、このプロセスの集合体であるといってもいいでしょう。そして、このプロセスが効果的に機能しないから、組織に問題が起きるのです。

ところが、プロセスに対処するという訓練を受ける機会はそうそうありません。しかし、私たちは日常否応なしに「プロセスに対処すること」を強いられているのです。

役員会でのさまざまな意思決定、職場での問題解決ミーティング、営業方針の決定、今年入社の新人の教育をどうするか決める、上げたら切りがありません。これが、全てプロセスです。このようなプロセスの中で、「あ、しまった。あの時、~~しておけばよかったのに」と思っても後の祭り。意思決定は覆せないことがほとんどです。そんなことをやろうものなら、他のメンバーから「うざい奴だ」と、爪弾きです。

で、次回からやり直そうと思っても、「でも、そんなことをしたら危ないよね」とか、「どうせ、言っても変わらないし」ということで、自分の行動を変えようとしない。結局、同じことの繰り返しか、更なる負のスパイラルに陥ってしまう。

人間関係は固定しやすいし、一旦固定した関係になるとそれを変えるのはなかなか難しいのです。ホント。

だから、その負のスパイラルに逆らい、ストーリーを好転させていくみたいなドラマにみんな共感を覚えるんです。あれ、現実には、ほとんどやれていないから。

なので、一念発起して異なる行動を選択するには、普段とは異なる行動を選択しそれを演じた場合に、どのような反応が周囲から返ってくるかを「体験し学習する」必要があるのです。そして、良くも悪くも「あ~~~、そうなんだ」と分かり、自分の成長・行動の柔軟性につなげていく。これが、体験学習と言われるラボラトリー・トレーニングの最大の教育効果です。

プロセスを見る眼を養うのに最適なラボラトリー・トレーニング

ラボラトリー・トレーニングでは、大まかなトレーニングの目標観を主催者から提示されますが、グループの運営はチームの主体性に任されます。

※ ラボラトリー・トレーニングは構造化された進め方もありますが、本来は構造化がなされないトレーニングです。構造化とは、ある特定の目的を達成するために特定の体験をすることが実習として計画されているようなやり方、つまりレールが敷かれていて参加者はレールに乗って学習するというやり方です。構造化されていないとは、レールが敷かれていないという事です。ですから、何を目標にするのか、そのために参加者がどの様な関わりをするのかは参加者に委ねられるというような進め方です。

現実の世界は、ほとんどが構造化されていない世界です。ところが、多くの人たちは「構造化された教室での学習体験」しかありません。このような学習体験者は、問題解決をする場合「どちらが正しいか」という思考になりがちです。

対してラボラトリー・トレーニングは、グループのメンバーが学習者であると同時に、学習のリソース(素材)となるユニークな学習方式です。参加者は、相互の生きた関係ややりとりの中で自分自身の在り様を深く見つめ、効果的な対人関係やリーダーシップを学習します。このような中で、参加者は「どうしたら良いかの答え」を共同で探していかなくてはならないのです。それは多くの場合、当事者が「拘っている何かを捨てること」が含まれます。

以前、千葉県のある大手自動車販売会社の取締役が深い思いと共におっしゃったことが忘れられません。

「役員が全員ラボラトリー・トレーニングに出た後、役員会の雰囲気がガラッと変わったんですよ。議論がものすごく生産的になったんです。誰を非難するとか問題にするとかではなく、本当にみんなでどうすればよいかを考えて議論するようになりました」

ラボラトリー・トレーニングの中で、自分のコミュニケーションの仕方やグループに緊張が走った時の反応の癖などに気づき、集団が変化し成長していくプロセスを参加メンバーとして体験することによって、チェンジ・エージェントやUse of Selfの本当の意味が分かってくるでしょう。

山は高く、谷は深い道のりですが、体験してみる価値は十分にあります。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。