• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑫ ~プロセスを見る眼①~

組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑫ ~プロセスを見る眼①~

組織変革と組織開発の違いはどこにある

組織開発(OD)をやっていると、組織変革(Organizational Change)と組織開発(Organization Development)って何が違うのですか? というご質問を受けることがあります。

昔、私の同僚や先輩たちとこのテーマで、組織変革は「外科手術」で、組織開発は「漢方薬」だ、なんて言い方をしながら「あーでもない、こーでもない」と話し合った経験があります。今でもその決着はついていません。

それはたぶん、1950年代に始まった組織開発(OD)と1980年代くらいから米国企業が、日本企業の攻勢に屈しないためには何が復活の機会になるのかを探し始め、TQMやリ・エンジニアリングなどの名称でさまざまな取り組みをしてきた歴史と無縁ではありません。

この辺りから、組織開発(OD)が「ごった煮」の様相を呈して、学者からも「アンブレラ理論」と言われる様になってしまいました。

私も1990年代から、組織変革をさんざん学習し適応してきました。その時に参考になったのが、デービッド・ナドラーとマイケル・タッシュマンの「組織行動の整合性モデル」です。ナドラーは、1980年代にゼロックスの復活を、当時のCEOであるデービッド・カーンの参謀となり一緒にリードした人です。

      ゼロックスの復活は、邦題「ゼロックスの反撃(1993年)」として本になっています。中古版がAmazonで、1円で売ってました(・□・;)。

「組織行動の整合性モデル(現在はマーサ/デルタコンサルティングの商標登録モデル)」は、当時は明快な理論モデルでしたね。

その組織変革の基本概念はかいつまんで言うと、「組織がうまくいかないのは、組織の構成要素(Component)が整合していないからである。従って、組織の効果性(Effectiveness)を取り戻すには構成要素間の新しい整合性を構築しなくてはならない」というものでした。そして、古い構成関係(現状)から新しい構成関係(将来)に移行するプロセスを「組織変革」と呼んだのです。

当時のゼロックスの変革推進者は、このモデルを持って「構成要素間のギャップ」を説明し、だから「~~しよう」と交渉しまくっていたようです。この様子は「ゼロックスの反撃」の中に詳細に書かれています。

このモデルでいえば、組織変革の中には当然戦略の変更や、それに伴うタスクと公式組織の取り決め(組織構造や制度)の変更が含まれます。そして、タスクと公式組織の取り決めといったハードな側面が変更されると、人間や非公式組織(組織文化)といったソフトな側面との間の整合性が崩れる。だから、人間や組織文化といったソフトな側面にも何らかの手を打って新しい整合性を構築しなくてはならない、となります。

「ゼロックスの反撃」の中でナドラーが言っていましたが、「前回の会議で、~~は~~しよう。と取り決めたにもかかわらず、次回にゼロックスに行ってみると全然異なった事が行われていた」というのがあります。これは組織変革を支援しているとよく起こることなんですね。

また、事前にあれこれ考え計画を立てるけど、もちろんその通りには行かない。だから、組織変革では「計画的な日和見」がとても大事なんだと強調していました。ゼロックスでの1980年代のことですが、これは今でも変わらないと思います。むしろ現代の方が「日和見能力」が求められるかもしれません。

組織開発も組織変革も大事なことはプロセスを変えていくこと

そこで、ここから先は私の個人的見解ですが、「戦略」も「公式組織の取り決めの側面」も、「では、こうしよう」というまでには、意思決定プロセスというプロセスがあります。企業として何らかの結果が出るのも、その過程で意思決定や様々な活動のプロセスがあります。

ものごとが姿を現すまでには、すべからく「プロセス/過程」があります。当たり前ですけどね。

つまり、組織開発は「組織活動というプロセスの改善または整備」であり、「それをみんなが参画する集団という“場”を使って変えていく」ということである考えているわけです。これをミクロに言えば、「当事者間の関係性の中で起こっていること(プロセス)に介入する」ということになります。

      集団という場の活用は「そもそも組織開発って何?」を参照してください。

ゼロックスでも、「あ、悪い悪い。この前の件だけど、ちょっと前提が変わってさ。変更ね、よろしく」って誰かが言って、受ける方も「そうですね」という場合もあるし、「いや、それはちょっと困る。もう~~しちゃってますし」という場合もある。そして、そこからまた新しいコミュニケーションのプロセスが生成されるといったことが起こっていたわけですよ。つまり、組織変革では、このような「動態的なコミュニケーションプロセスから起こってくる人々の関係性の変化」に、臨機応変に対応していかなくてはならないのが現実です。

まあ、このようなことは「組織開発や組織変革」と言わなくても、日常的に起こっていることですけどね。 

組織開発(Organization Development)も組織変革(Organizational Change)も、実務的に見れば、「現状組織」から「望ましい組織」へ「変わっていく一連の活動」に他なりません。

毎日のマネジメントはこの繰り返しです。で、この変化をある特定の時間軸の中で大規模にやろうとするのが組織変革と言えます。

いずれにせよ、「当事者間での意思決定プロセス」という活動を経なければ変化は起こりません。そしてこのプロセスは、「人々の関係性の中で起こっている事柄」です。

組織開発(OD)を実践する人たちは、「当事者間の関係性の中で何が起こっているのか=関係性の中での問題」、つまり「プロセス」を見る眼を持ち、それに対して適切に介入する術を学習していく必要があると思うのです。

で、最初の質問ですが、「組織開発(OD)と、組織変革(Organizational Change)の違い」をあれこれ議論するのは、実務的には不毛だなと思うのです。

どちらも、組織をより良くしていきたい、組織のパフォーマンスを高めていきたいという思いには変わりはないのですから。

ただ、そこに「プロセスを見る眼」を持った支援や介入ができているかが大切なのです。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング()波多江嘉之です。