• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑩~「みんな」という意識を効果的に使う~

組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑩~「みんな」という意識を効果的に使う~

「みんな」という感覚と現世ご利益主義

前回の「組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑨~「後は自分で・・・」の落とし穴:続編~」で、「お前だけ違うよ!」という状態ではなく「やっぱりお前変わるの?」という状態にしないと変化が起こらない、ということを書きました。

日本はさまざまな研究で、「集団に依拠して思考したり行動したりする傾向が強い文化:共同体文化」であることが分かっていますので、「みんな」という感覚をどのように扱うかは組織開発(OD)で非常に重要なテーマであると思っています。

今回は、この「みんな」という意識・体質をどのように理解し、活用していくのかという事に対するお話しです。私からみなさんへの、「実際はどうなの?」という問いでもあります。

経営戦略や事業戦略は、すべて「従業員を巻き込み、みんなで決める」ものではもちろんありません。例えば、英国からの原発事業の撤退(日立)や、武田薬品の巨額M&Aなどは経営陣の専権事項です。しかし、戦略によっては、従業員の巻き込みが欠かせない類の戦略もあります。例えば、それは「従業員や関係者の体質(思考と行動)転換」を求められる戦略変更です。

現在の日本で典型的なのは、農業協同組合:JA組織です。この組織は世界的に見て大成功を収めた「協同組合」ですが、様々な理由で変革を求められています。農業従事者の平均年齢が65歳を超えているという事一つを取ってみても変わらざるを得ないのです。でも、今回はJA組織のことではなく、JAのように「体質を変える必要がある組織体での戦略策定と実行」という、ものすごく難しい課題にどのように取り組んでいくのかというのが、お話しの焦点です。

日本でもここ10年くらいの中で、対話手法がODの実践方法の一つとして取り入れだされています。対話型組織開発といわれ、Large Group InterventionまたはWhole-system approach(以降略してLGI)などともいわれます。現在の状況を見てみるとこうした手法の実践は、「そもそも多様性が大事だよね」とすでに思っている組織で率先して導入されているように思うのです(思うというのは、正確なデータがないからですが)。

しかし、日本でこのやり方が本当に必要だなと思うのは「同質組織における戦略転換」を求められている組織の筈です。「筈」というのは、そのような組織こそ多様性をどのように活かすかを考えなくてはならないからです。

LGIが生まれたのは、欧州や米国です。思想や方法論は若干異なりますが、多様性をベースに様々な価値観を再統合し、みんなが乗っかれる世界(common-ground)を創っていこうとする目的は共通です。

ところでLGIは、絶対神としての「神様」が存在する宗教観を持った世界で生まれたのです。そのような世界は、個人として属する集団を超えて絶対にコミットメントすべき対象がある。したがって共通の目的もより作りやすい土壌があることが推察できます。

対して多くの日本文化研究が指摘しているところによると、国を他の民族から蹂躙された経験がなく、かつ共同体志向が強い日本は、個人が集団の利益に対して自己を主張することがなかなか難しい。そしてこのような思考は、実用的な技術主義、つまり「実利主義/現世ご利益主義」に傾きやすいと言われています。

かつ共同体志向の組織は、困った人がいれば 「何も言わなくて良いのよ。みんなちゃーんと分かっているんだから」とみんなが助けてくれる。このように「居心地の良い文化」の中で最も悪いことは、「和を乱すこと、和を破壊すること」となってしまうのです。

「みんな」が強い組織は「みんな」で変わる

と、ちょっと「日本人の行動文化論」を押さえてみて、「みんな」という曖昧模糊とした対象をどう扱うかという話に戻りますが・・・。

いろいろな組織(会社)で、LGIの話をすると、8割程度は「面白い、でもどう役に立つの?」という反応が返ってきます。果ては、コンサルタントって「どうすればうまくいくのかを教えてくれるのが商売じゃないの?」という反応もあります。(この反応は、間違いではないですけどね)

LGIって、面白いけど具体性がないね。」という反応が出てくる組織は、概ね「どうすればうまくいくのか」を思考の中心に置いている組織です。つまり、現世ご利益型組織です。

反対に、従来の「あたり前」を変えないとどうしようもない。と考えている組織は、「それ、やってみよう」となります。これが2割。未来志向型組織です。

ただこの2割も、この後が続かない。出てきたアイデアを背負って道を創っていく人が少ないのですよ。なので、LGIは特定の時期に実施する特別なものではなく、定期的にやる必要があるのです。つまり、「みんなでやろうよ」という雰囲気をつくる。

この一つのやり方例が、3階層ミックス対話集会っていう「問題解決ミーティング」です。ある大手流通企業は、これを10年間続けました。そして、ご同業との合併では、この手法を組織開発の中心に添え、自分たちが10年かかったところを3年で体質転換させることに成功したのです。

やり方は、診断型組織開発と対話型組織開発のミックスです。すごく端折って以下にそのやり方を紹介します。

      経営幹部と選抜メンバーで、業界のトレンドと将来のシナリオを検討。

      今後の事業のあるべき姿(ビジネスモデル)を描く。

      ビジネスモデルに基づき「組織活動や業務のあるべき姿質問」をつくる。

      「組織活動のあるべき姿質問」を使って、現状のレベルを査定するアンケートサーベイを行う。

      アンケートサーベイの結果を、「3階層ミックス問題解決ミーティング」で話し合い、改善の計画をつくり実行する。

      半年後、変化を同じ質問を使ってサーベイする。(後に、1年に1回となる)。

      それを「3階層ミックス問題解決ミーティング」にフィードバックし、改善計画を話し実行する。

      この「④~⑦」の繰り返しの質を上げていくために、管理者には具体的なケースを使った問題解決研修を実施する。例えば、「特定の事業所を対象とし他の事業所のメンバーがその事業所をサーベイし問題解決の提案をする」という研修などを実施。

そこで、「みんな」をどう扱うかという事についての現時点での結論ですが、終始「みんな」にするという事です。つまり、特定のヒーロー、ヒロインはつくらない。常に、みんなで話して、みんなで変えていくという「状況」をつくりあげるのです。このやり方は「問題を抱えている当事者たちが何をするかを決め、リーダーは変革のプロセスを管理する」という、ODが成功する条件にピッタリです。

特定のヒーローをつくるという事は、「他の人がその人の考えとやり方に依存する」というリスクを創り出すことになります。そうすると、結局は共同体志向が強い組織ではそのヒーローを中心とした「新しい依存という和」が生まれるだけで、「多様性の中で組織のレジリエンス(適応能力)を生み出す」ということが期待できなくなります。

3階層ミックス問題解決ミーティングは、異なる考えと経験を持った人たちから「いろいろな意見が出ていいんだ」という新しい規範を生み出すとともに、価値を生み出す新しいやり方をみんなで生み出していくという「学習能力」を集団に創り出すことに成功したのです。

ただし、どのような変革活動でも、はじき出されたり、自ら組織を離れたりしていく人たちがいることは受け入れなくてはなりません。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング波多江嘉之です。