• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑦ ~自己存在の意味を問い直す~

組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑦ ~自己存在の意味を問い直す~

今回は「自己存在の意味を問い直す機会」としてのラボラトリー・トレーニングについての紹介です。

ラボラトリー・トレーニングとは ~意味とメリット~

ラボラトリー・トレーニング(通常の生活空間から離れた場所での体験学習方式による人間関係トレーニング)は、1946年米国コネチカット州で、クルト・レヴィンとその弟子たちによって実施されたワークショプにおいて誕生しました。

その後1947年にメイン州ベゼルにおいて、NTLNational Training Laboratory)が設立され、Tグループ(トレーニング・グループ)を中心とするラボラトリーが行われるようになりました。

日本では、1950年代に導入され、Tグループあるいは感受性訓練として、1980年代までは盛んに実施されました。(ラボラトリー・トレーニングはTグループや感受性訓練などの総称です。)

      ラボラトリー・トレーニングは、グループのメンバーが学習者であると同時に、学習のリソース(素材)となるユニークな学習方式です。参加者は、講師からの指示で議論するのではなく自らがテーマを提案し、参加者同士の生きた関係ややりとりの中で自分自身のありようを深く見つめ、効果的な対人関係やリーダーシップを学習します。

結論から言えば、このラボラトリー・トレーニングが「リーダーの自己理解とリーダーシップの再考(自己存在の意味を問い直す機会)」にとても有効なのです。

では、どうしてそれがリーダーの自己理解とリーダーシップの再考に役立つのか? 今回は、過去の研究や実体験を踏まえてご紹介していきたいと思います。(参考文献「感受性訓練:Tグループの理論と方法より抜粋」)

 

1.ラボラトリー・トレーニングは、再教育の場である。

  参加者は成人であり、既に様々な教育・体験の場を通して自分なりの知識や認識、行動様式を身につけています。従って、新しい世界に適応を求められるリーダーシップの再教育は、自分自身に対して何らかの変化を要求されるような機会を体験する必要があります。

2.現実の社会における「参加の不完全さ」を実験的(ラボラトリー)に創りだす。

  参加者が心理的に安心する場ではなく、人々との関係の中で「実存の危機」という不安や緊張をつくります。それに対して参加者自らがどう対応するかを考え、実践することで学びが生まれます。

  参加者自らが変化する努力の過程を経験してこそ、現実の世界でもリーダーシップが発揮できます。

3.参加者は、自分の古い行動パターンに気づき、新しい行動パターンの可能性に直面する。

参加者は、自分および他者の動機付けや感情に対する認識を理解することが求められます。

そして、個人及びグループとしての目標の見直しや行動戦略の修正に際して見込める潜在的得失について意識的・無意識的な探究を余儀なくされます。

4.だから、参加者は「自己理解と他者理解」において感受性を高める必要がある。

参加者は自分の行為の結果を認知するために、グループで何が起こっているかの情報を収集し、他者からのフィードバックを受けます。

その過程を通して、参加者は自分の価値観の中に含まれる矛盾に気づくことができます。

行動を変えるのは、指示されたから?それとも気づいたから?

自分が変わるということは、集団の外にいる人によって決定されたり強制されたりすることがあるとすれば、それは権威的・強制的支配となります。リーダー(参加者自身)がその意味を体験的に理解することで、ひょっとしたら自分の行動が他者(会社の従業員)に無意識に「君たち変われ」を強制しているかもしれないことに気づきます。これでは本当の意味での変化が起こりません。起こるとしたら、それは面従腹背です。

また、ラボラトリー・トレーニングの場では、現在使い慣れている行動様式を捨てる必要がある場合、他者からの援助も必要であることを学びます。このような経験は、職場に戻った後、何らかの変革活動を行う際にとても良い経験となります。

筆者は今から20年ほど前、サンフランシスコで2週間のラボラトリー・トレーニングを受けたことがあります。そこに、湾岸戦争に従軍し、総司令官のシュワルツコフの下で働いていたというテキサス親父のドーンという人が参加していました。軍と言えば、当時はまだ典型的な上意下達方式のマネジメントがなされている組織です(9.11以降はかなり違った組織運営になっているようです)。

軍人バリバリ親父が、退役後の世界に適応するために、自分の経験から学んできたことを問い直そうとしていたのです。そりゃ大変でしたよ。

平たく言えば、ラボラトリー・トレーニングでは、リーダー自身が人々との関係の中で変化していくという体験をすることで、人々が従来の態度や価値観を変容する必要がある問題解決にどのように取り組めばよいのか、理屈を超えた世界で分かることができるのです。

と、ここまで書いてきて一番大変なことは、「リーダー自身がこのような講座に参加してみようという気になるか、ということだよね」と改めて思いました。

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング 波多江 嘉之 です。