• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑤ ~ストーリーの大切さ~

組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑤ ~ストーリーの大切さ~

変革が止まってしまう兆候

前々回、組織変革の成功と失敗の要因について、従来なんとなく「人の気持ちを無視したらうまくいかないよね」と思っていたことが脳科学の研究により証明されたことを紹介しました。意識(理性)では分かっていても、感情(気持ち)がついていかないと、私たちはやっぱり抵抗してしまいます。

因みに、意識と感情のギャップが起き、それが解消できずに続くとメンタル不調になります。リーダーが意気込んで実施した変革が、リーダーの意に反して組織の活力を削ぐというのは、そんなところにあるんですね。

 

変革において、これに配慮していないと抵抗が大きいというものを見てみましょう。

      未来の姿が不明確、どこに行くのかわからない、単なる数値の羅列。

数字はマネジメントでは大切ですが、それはどのように変わっていくのかの実態を表すものではありません。

      変化を迫られる当事者が意思決定に参画していない、あるいはコミュニケーションの不足。

      変化に対して失敗の不安が大きい、具体的に成功がイメージできない。

未来の姿も分からず、意思決定に参画していないとこうなってしまいます。

      特定の誰かの利害得失に立っていると思われる改革。変革しても自分たちにメリットがないと感じる改革。

要するに、変革をリードする人に信頼感がないと抵抗は大きい。

      現状満足、あるいはこれまでの集団規範を無視されていると感じる。

なぜ変わらなければならないかが分からない。情報があまりにも少なすぎる。

      変化があまりに急激すぎる、ついていけないと感じる。

組織開発を推進する「ストーリー」の力

変革が求められる中で抵抗を乗り越え成功するチームは、ストーリーを語る人、異なる視点で理解の得意な人が次々現れる事を、多くのリサーチが示しています。

どういうことでしょうか。ストーリーが大切ということを考える前に、人の変化/成長の困難さは何処にあるのか考えてみましょう。

変化や成長の困難さは、以下の順(レベル)で困難度が増すといわれています。(ゴードン・リピット)

知識レベル → 技術/技能レベル → 態度/行動レベル → 価値観/信念レベル

      

態度や価値観/信念レベルの変化がなぜ困難かというと、それは過去から積み重ねてきたものを捨てなくてはならないからです。いったん頭の中をご破算にして、組み立てなおさなくてはならない。そして態度や価値観/信念レベルの変容ができた人が、新しい時代に適応することができます。

2018NHK大河ドラマ「西郷どん」で描かれた士族の葛藤はまさにこれですね。

態度や価値観/信念レベルの変容を要する課題を「適応を要する課題(ロナルド・ハイフェッツ」とも言います。

 

さて、そこで態度や価値観/信念レベルの変容に役立つのが、「ストーリー」でありそれを創造していく「対話」です。

ちょっと思い出してください。新しいことに取り組むとき、組織では何が明示されるでしょうか? ビジョン、数値目標、やるべきことのリスト? そこに私たちはどう行動すればよいかというストーリー/物語はあるのか?

 

脳は、全体重の2%の重さですが、その消費エネルギーは20%あるといわれています。そこで、脳はエネルギー節約のために判断をショートカットする。これをヒューリスティックな思考といいます。これは、もちろん良い面と悪い面があります。

良い面は、直ぐに答えを導き出すこと(これ、ベテランがベテランといわれる所以)。

悪い面は、その答えが既存のパラダイムに沿ったものであること(前例踏襲)です。

 

ということは、誰しも情報が少なく不確実性が高い状況では、気持ちを安定させるために無意識に慣れ親しんだやり方を踏襲するということです。

 

そのような時に、リーダーの早期のコミュニケーションはメンバーを安心させますが、その後、修正が必要になった場合リーダーの立場を難しくします。

遅いコミュニケーションは、リーダーの情報は深く確実になる反面、リーダーから情報発信されるまでの間メンバーは情報が少なく心理的に不安定となり、その不安定を解消するためにメンバー間でのうわさ・憶測から無駄なエネルギーを消耗することになります。

どちらにしても、一方通行のコミュニケーションは変革にとってはあまり効果的な手段ではないということです。

 

脳は、社会の中で他者と交わり共に生活していくために必要な能力(社会的技能Social skillを発達させるストーリーが好きで、シナリオや反応を試せるので好きであるといわれます。

 

対話に基づくストーリーが生まれることは、当事者たち全員にとって新しい世界観を創造することにつながります。つまり、新しい外界理解とそれへの適応に対する「主観的な確率」を上げることに役立つのです。

リーダーも、この対話の中の当事者として参画しなくてはなりません。

 

トップマネジメントのみならず、職場を預かるマネジャーの皆さんも「上が言っているからとにかくやれよ、やろうよ、お願い」ではなく、共に未来をどのようにつくっていくかをメンバーと「物語ること」に挑戦してみてはいかがでしょうか。

 

この記事の書き手:JoyBizコンサルティング 波多江嘉之