• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?④ ~何のための組織開発?~

組織開発(OD)の実践って、どうするの?④ ~何のための組織開発?~

昨年(2018年)末、ちょっとしたニュースが飛び込んできました。それは、アメリカのNTL(ナショナル・トレーニング・ラボラトリー:1947年設立の由緒ある組織開発の研究所)の経済的困窮というニュースです。

組織開発に携わる人たちがいろいろ学ばせていただいた組織なんですけどね。

アメリカではニーズがなくなってきたのでしょうか。それともNTLのマーケティングの失敗なのでしょうか。

そこで今回は、改めて組織開発って何のためにやるの? を考えてみたいと思います。

 

「組織」の前に何がある?

ところで、組織って何? という問いに対してはいろいろな研究者がいろいろな定義をしています。

日本でもよく参考にされるE.シャインの定義は、「ある共通の明確な目的、ないし目標を達成するために、分業や職能の分化を通じて、また権限と責任の階層を通じて、多くの人びとの活動を合理的に協働させることである」と言っています。

経営学者のチェスター・バーナードによる定義は、「意識的に調整された、人々の活動や諸力のシステム」です。システムとは「相互作用する諸要素の複合体である」という意味です。
つまり組織は、いろいろな諸要素が相互に関連しあって機能するということですね。

実務的には、「組織は仕事を上手にかつ効率的にやるための手段である」と言えます。

そこで実務として考えなくてはならないのは、「組織を考える前に事業がある」ということです。組織はその事業の特性を踏まえたうえで、仕事を上手にかつ効率的にやることを考えデザインしなくてはならないわけです。ただし、その手段たる組織は「人々の集まり」なわけですから、機械のように設計者の意図通りに動いてくれるとは限りません。

組織の構成要素たる人間は、個々人の主体的な意思で動いていきます。逆に主体的に動いていかないのなら、組織としての効果性やイノベーションは期待できるはずもありません。

 

「組織」開発が目指しているものは? ~事業開発のない組織開発はない~

意思と感情を持った人たちが、主体的・自律的・創造的に活動していくには機械とは異なる働きかけが求められます。これを探求していったのが組織開発です。

それも単に現状組織の問題解決だけではなく、変化する事業環境に如何に適応していくか、さらに自らが新しい未来を如何に切り開いていくかという「持続性のある組織」を創造していく活動です。

経営としては、組織(会社)が現在環境だけでなく、将来環境にも適応していくことを常に考えていく必要があります。その中で、自分たちの事業が社会問題を解決し、新しい未来を創造する(アップルのiPhoneような)ことができれば、それに尽きる喜びはありません。経済的にも潤います。それこそイノベーションです。(図-1「環境と組織の適合」を参照)

 

                    図-1 環境と組織の適合

図-1環境と組織の適合は、ABCの相互関係を考えBに対してどのような変化が必要なのかを議論するためのモデルである。
組織がその活動の調整程度で済むのは、AとBが整合しており、かつAとCは緩やかな変化の中にあるという関係である。
一方でAとBが整合していても、AとCにギャップがあるならBは将来環境に対して適合できない。従って、まだ収益が出て
いるうちに事業革新と組織変革を行っていく必要がある。

 

このように、事業とその遂行手段である組織活動を、当事者(経営者、従業員)がみんなでより良くしていこうとすることは、至極当然なことです。

そこで今回の問い「何のためのOD?」ですが、「組織開発(OD)のための組織開発(OD)はない」が実務の世界です。実務の世界では、事業のテーマが必ず先に来ます。

30年前のJR九州は「安全だけではなく、サービスができる会社にする:SS運動」がテーマでした。そこで、サービスを理解しそれを実践していくための「組織体質の変革」に組織開発(OD)の哲学と技法を活用しました。

自動車製造業におけるマネジメントは、近代産業界のマネジメントのお手本でした。

現在は、ほとんどの自動車製造会社が「モビリティサービスの構築」を掲げています。自動運転やEVへの転換などの事業環境の激変の中で、異なるスタイルを持ったIT系の企業とのコラボが必要になっています。それこそ「仕事を上手にかつ効率的にやるための手段である組織」の変革に挑戦してくことが求められるでしょう。

大切なのは、事業の成功なのです。

あたり前と言えば、至極あたり前のことです。でも気をつけないと輸入ものである組織開発(OD)は、その理念や研究の歴史・方法論に関心がいき、何のためにやるのかというそもそもの目的が希薄になっているのかもしれません。

組織開発(OD)は、特定の手法を意味するのではなく、従来の事業運営の中で習い性になっている人々の活動に何らかの変化を起こすための様々な方法論の集合体です。だからこそ、目的とその達成のための方法論の組み合わせを、個別企業(組織)の実情に合わせてデザインしていくことが肝要です。

 

この記事の書き手:JoyBizコンサルティング 波多江嘉之