• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?② ~エントリー:0から1をつくる作業~

組織開発(OD)の実践って、どうするの?② ~エントリー:0から1をつくる作業~

組織開発の手法については、最近は数多くの文献によって紹介され、多くの人がその方法論については知ることができるようになってきました。しかし、肝心要のところが抜け落ちています。

それは、エントリーといわれる「0から最初の1を立ち上げる所」です。

日本における組織開発の位置づけ

米国ではトップマネジメントが主導してOD・組織開発(または組織変革:Organizational Change)を導入することが一般的なようですが、日本では担当者が「ご提案があります。どうでしょうか」と持ち上げることがほとんどでしょう。

米国の場合、多くの大学の授業でOD(組織開発)を教えており大手企業には組織開発部が存在します。

今から20年ほど前、サンフランシスコで2週間のエンカウンターセミナーを受けた際に、ボーイング社からの参加者もいましたが、彼はボーイングの組織開発部の部長でした。

日本の企業で組織開発部を常設している会社はほとんどありません。ましてや大学でOD(組織開発)を教えているところはまずない。(高名な先生によると、「虐げられている」そうです)

そのような中で、トップマネジメントに「~~を変えていくために、組織開発というアプローチを導入したい」といったところで、「それ何?」 といわれるのがほとんどです。

会社の持続的成長のために、人・集団・組織の視点から事業戦略や会社の成長を考える重要性は意外と理解されていません。(「人は石垣、人は城」、「組織は人なり」と言う人は多いですけどね)

「組織開発」という手段の「目的」は何か?

で、エントリーの「0から最初の1を立ち上げる所」の話に戻りますが、要するに「トップを口説く戦略」を十分に練っているのか、トップからシカトされてもめげずに粘り強く働きかける気概を持っているのかがとても大切なわけです。

あなたが組織開発を導入しようとしているご担当者であれば、組織開発の手法というテクニカルな説明ではなく、組織運営やマネジメントに対する新しい思想や理念・価値観の提示をしていく必要があります。それがあって方法論が決定されます。組織開発は目的ではないのです。

※そもそも組織開発は組織運営に対する新しい思想や哲学、姿勢なんですけどね。組織開発の世界ではグル的存在の、W.バーク先生によると、米国におけるOD(組織開発)の初期の目的は「官僚制組織の打破」だったそうです。これはまた機会を変えて扱いたいと思います

0から1の話に戻りますが、トップマネジメントから「会社が変わっていくには、今の組織や従業員の意識を変えないといかん。君、良い方法を考えてくれ」というようなお墨付きがあればまだやりやすいものです。

JR九州におけるSS運動(サービス&セーフティ運動)はその典型的なパターンでした。当時の社長は石井さんという方。その命を受けたのが、当時30歳半ばの師村さんという、もともと技官で、新設サービス課の課長です。

ポイントは、安全という文化に加えてサービスという異なる文化(当時のJRからすると畑違いな文化)を根付かせるという明確な目標のもとに実践が始まったということです。具体的には、1日乗客数の増加を「サービスがお客様に認知されている具体的指標」にしました。

つまり、経営陣や幹部・従業員が分かる目標にするということです。そして目標達成の方法論については任せてもらう。ということは、担当者に経営陣からの信頼がないと進みませんね。(ちなみに、師村さんと私の間では組織開発という暗黙の了解はありましたが、公式には組織開発という言葉は一切使っていません)。

でもって、重要なことは「意識と行動改革」です。取り組みの焦点はここ。増収や増益を目標にしていないということです。

※ここはODの実践でとても大切なポイントなんですが、別の機会に述べてみたいと思います。

エントリーの最大要件は仲間を作ること

エントリーの最大要件は仲間を作ること

JR九州のような啐啄同機(そったくどうき)があると、エントリーはクリアーしやすいものです。では、ない場合はどうするのか。

それは、冷徹に社内を見まわし、政治的明敏性を駆使して、賛同者を増やす活動をしていく必要があります。 図1.の協力者マップを活用し、利害関係者のポジショニングをしてみましょう。

²  信頼:人望があり、頼りになる。逃げない。

²  同意:考え方や思想が同じか、違うか。

 

あなたがやるべきことは、ライバル(現時点では意見が異なるが、対話ができるし、困難から逃げない人)を口説けるかどうかです。③群に惑わされないことも大切です。

①と②で組織の権力構造の過半を押さえることができれば、持続性のある活動になります。そうでなければ、打ち上げ花火で終わります。 

組織開発は、何らかの変革をもたらそうというものです。流行りの対話型組織開発も、それをやろうという合意がなければ実施できません。

組織の実力者が、「それもいいね」という主観的確率が高まるような提案の仕方ができているでしょうか。

次回は新しいことに取り組んでいく際の、「抵抗要因とその排除」という観点から見ていきたいと思います。

 

この記事の書き手:JoyBizコンサルティング 波多江嘉之