企業経営における組織開発コンサルティングの可能性

先日のことですが、組織開発という言葉が検索キーワードでも上位に上がりつつあるというトレンドを業界関係者から聞きました。組織開発はかなり古くから発展してきている考え方であり日本でも一時期かなり導入をされました。なぜ今組織開発なのか?現在の企業経営においてどんな可能性が秘められているのか?今回のテーマを「組織開発コンサルティングの可能性」としてお届けします。

なぜ今組織開発なのか?~組織開発が目指すもの~

まずはなぜ今組織開発が再び取りざたされているのでしょうか。そこには2つの大きな潮流があると考えられます。

1)マネジメントの潮流の変化
マネジメントのキーワードは、「成果」「効果」「効率」と言えます。特定の目的に対して構造化された組織において成果を創出すること、そしてよりよく(高効果・高効率)遂行すること、これがマネジメントの本来的な意味です。そのためにマネジメントの大きな活動は指示や統制、調整ということになります。しかしVUCAと言われて正解探しが難しい時代、企業の永続性に対してより多くの関心が高まる時代において、マネジメントパラダイムは「指示統制」から「協創」へ変わりつつあります。正解がない中では、一人一人が責任をもって新しい方向性をつくっていかないと成果創出ができないからです。そして大切な価値観が「経済性」から「人間性」に転換が起こっています。

これまでのマネジメントを変える必要性をみんな分かっており、その転換をうまくいかせるために新しい方法論が求められているという状況が生まれています。

しかし、マネジメントは経済的な成果責任が大きな前提としてある以上は、それを追求すればするほど強いプレッシャーがうまれ、前例踏襲的となり、共創が生まれないなどのジレンマは起こります。マネジメントの概念も時代にあわせて発展をしてきましたが、今その矛盾をどう乗り越えるのかという転換点に差し掛かっているように思えます。

 

2)働き方改革の模索
マネジメントの潮流の変化に加えて(というよりもその中の一つとして)日本では「働き方改革」が叫ばれています。こちらも本来の目的は日本という国の生産性をあげるということがきっかけで、各社制度、労働時間、風土など多様な側面に働きかけを行っています。
しかし管理者や従業員の意識がなかなか変わらずになかなか推進がうまくいかないという話もよく伺います。そもそも働き方改革として自社の「何を」「どのように」変えていくのかという観点での合意形成がなされていない状況の中での改革は、前述のマネジメントの状況と同様にやればやるほど本質的な改革からは遠ざかってしまう(つまりリバウンドしやすい)状況が生まれてしまいます。

現在は右肩上がりの成長神話は崩れています。そしてそこから進み、その神話や成功体験にすがりつくことなく新しいスタイルの確立のために一歩を踏み出さなければならないとみんなが認識している時代だといえます。それでもそれがなかなかうまく進まないのは、「目指すもの」が以前と違うことはわかっているのに、だれかが正解を作りそれを実行していく、という以前の「やり方」でアプローチをしているからではないでしょうか。

そこで組織開発の可能性に焦点があてられているというわけです。組織開発の目的は学術的な定義はいくつかあるものの実践的な観点から端的にいうと「自分たち自身で課題を考え、自分たち自身でそれを乗り越えていく」力を開発することです。

正解提示型のやり方で限界がみえてきたマネジメントや働き方改革においてその矛盾をのりこえる重要な考え方として組織開発の価値観や手法が注目を浴びてきているといえるでしょう。

組織開発コンサルティングの可能性

では組織開発は現代の企業経営におけるインパクトとしてどんな可能性があるでしょうか。組織開発の基本サイクルとしては、簡略化すると以下のようなことが挙げられます。

① 当事者であること
② 共通の意義・意味を形成していくこと
③ 課題に立ち向かい自らの手で解決をしていくこと

こうしたことを目指し、実践する考え方であるためビジネスの現場においては、以下のような局面において力を発揮します。
※もちろん組織開発のテクノロジーは、社会課題の解決や紛争問題などビジネス以外の現場でも多く応用されています。
※以下では組織開発のことをOD(Organizational Development)という略称で表記します。

1) ビジョンづくり
ニーズ:将来の成長を見据えて現在の延長上ではなく新たな未来を描きたい。
これまでのやり方:歴史を振り返りながら自社の大切な価値観や事業領域を再検討し定義する(定義しなおす)。浸透しづらい。
ODの可能性:自社が大切にしてきたこと、今後自社を取り巻く環境変化、これから大切にしたいこと、などを当事者同士で意味を再形成し、共通の価値観をつくっていく、そしてそれをもとに将来像を合意形成していく。検討と実行は不可分。

2) 戦略作り
ニーズ:将来の成長を目指した具体的な戦略計画がほしい。
これまでのやり方:フレームワークによる分析を行い、より高い経済効果が見込まれる事業への資源投入やこれまでの強みが生きる事業領域の特定を行う。実行されづらい。
ODの可能性:分析結果を活用しながらそれがもつ意味や現在抱えている課題を共有し、合意形成をしていく。検討と実行は不可分。

3) 新規事業、コラボレーション
ニーズ:従来の発想をこえて創造性あふれる事業アイディアや他社とのコラボレーションを生み出したい。
これまでのやり方:アイディアを出し(募集するなど)投資判断。検討者以外には価値観や目標が受容されづらい。従来のパラダイムへ取り込まれやすい。
ODの可能性:新しい手法や事業運営の在り方自体を自分たちの思想や考えと対話しながら、自分たちの手で考えていく。事業成功のための粘り強さが高まる。

4) 戦略遂行力の強化
ニーズ:目標や計画はあるが、達成できない、新しいやり方や工夫が出てこない。
これまでのやり方:KPIに落とし込み、進捗フォローミーティングにてPDCAサイクルを回す。マンネリ化し未達成の言い訳ミーティングになる。
ODの可能性:課題未達成の原因を「目標とのGAP」という外的要因からだけではなく自分たち自身の検討や合意形成で課題を作っていく。当事者意識が高まり達成・未達成問わず前向き・健全な雰囲気になる。

5) 組織改革
ニーズ:新しい事業創造ができる組織に変えていきたい。
これまでのやり方:組織図の改変、人事制度の改革、システム導入による業務効率化を実行し仕事の仕方を変えていく。意識が変わらないことが多い。

ODの可能性:新しい事業を生み出す組織の形とは何か、どのような運営が望ましいのか、を自らで考え合意形成する。そしてそれをもとに望ましい組織の具体的な姿を決めていく。仕事や仕組みの前に意識が変わる。

6) 人材「開発」(≠トレーニング)※器やキャパシティを広げるという意味で開発という言葉を使っています。
ニーズ:これまでの成功体験をすてて(特に管理者では)マイクロマネジメントから脱却してほしい。
これまでのやり方:部下育成、コーチング、ファシリテーションなどの手法を学習し実践させる。
ODの可能性:自らの頭で考え、自らの力で課題解決していくマインドセットを促す。今の自分の殻を破るために何が必要なのか自分で考え抜く。

上記でみたように組織開発は当事者として自らで課題を形成し自らで課題を解決していく、という状態を生み出すための技法であり、思想です。またこれまでのやり方を否定するものではなく、これまでのやり方にくわえて相乗効果を生み出すものといえます。

組織開発コンサルティングの可能性は上記のようなビジネスニーズに対して、「自分たち自身で課題を考え、自分たち自身でそれを乗り越えていく」力を開発することを支援できることです。

正解提供型のマネジメントパラダイムが限界にきている今、企業経営における組織課題を解決する重要な概念だということができると思います。

組織開発についての別の記事はこちら
・そもそも組織開発(OD)ってなに?
・組織開発コンサルタントって何するの?