• 組織文化とOD⑳:組織文化の変革④~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-218~

組織文化とOD⑳:組織文化の変革④~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-218~

組織文化の変革、前回からの続きです。

GMの他の工場ではできていないことが、なぜNUMMIではできているのでしょうか。何が変わったから、ジェイミが腰を抜かすような現場が実現したのでしょうか。「隠れた人材価値」には以下のような記述(P279~P280)があります。

「NUMMIの成功は、人的資源と製造工程とが車の両輪のような効果を発揮したからこそ可能だったのだ。従業員、管理者、経営者の三者三様の利害を一つに束ね、従業員を信頼して任せながら、その一方で複雑な製造工程にあっては絶対に必要な、お互いの協力関係を巧みに作り上げて従業員を製造工程に引き付けていく力こそNUMMIの成功の源泉なのだ」このようなことは、ソシオテクニカル・システム(Socio-Technical-System)と言われます。要するに高いパフォーマンスを発揮させるには、技術的要因と人間的要因を効果的にデザインする必要性があるということです。組織開発分野に知見がある人は耳にしたことがあるかもしれませんが、ソシオテクニカル・システムはロンドンのタビストック研究所による炭鉱の労働者と仕事の関係研究に基づいた造語です。組織開発においては「業務遂行のために人間と技術が相互作用しなければならないシステム」を指す用語として使われます。

17年間勤務したあるベテランは、他のGM工場との一番大きな違いは、現場の職工に対する経営陣の態度だといっています。彼は以下のように言っています。

「職工に限らず全従業員に対する扱いが違うんだ。自分の仕事をどうやるかについて、みんなが自分の考えを、胸を張って発言する機会があるんだ。だから自分がかけがえのない人間だと思えるんだ」。これは、とても重要なことで、心理学的には自尊感情/重要感といわれることですね。ケースによれば、NUMMIの従業員の50%はマイノリティであり、従業員はこれを誇りにしています、となります。

経営陣は成功のカギと考える3原則を上げています。

  • 労使ともにそれぞれの将来は、お互いに相手によって決まるものであること。共通の理念を堅持するべきこと。
  • 従業員は自分が公正に扱われていると思ったときに初めて、職場に貢献するものであること。
  • 生産方式には強力な相互依存の絆が必須であること。それによってチームワーク、信頼、お互いの敬意が生まれるものであること。

実際にNUMMIの職務規定には以下のような特徴がみられます。

  • 相互の信頼と尊敬、公正、職務への熱意、チームワークを育みための規定がある。
  • レイオフはしない、工場内の安全に対する配慮、品質保持に対する個々人の責任、意思決定過程への積極的な参加、タイム・レコーダーの廃止、全社員共通の食堂と駐車場
  • などが規定されています。アメリカの工場経営の常識とはかなり異なるものです。他にも、職階は3段階で構成されており、全従業員が3人から6人のチームで構成されている。チームリーダーは、経営陣と組合側が協力して従業員の中から選ばれる。リーダーは、時間当たりで50%増しの報酬が支払われる。
  • 職務設計は、旧GM体制では81種の職種があったが、NUMMIでは3種しかない(多能工化が進んで知る)。賃金はどの職種も同じである。
  • ライン停止の方法である、トヨタでいうところの行灯コードが全員に教えられている。
  • 終身訓練制度と呼ばれる制度があり、従業員は断続的に教育訓練を受けられる機会がある。
  • 労働協約は、旧GM体制下では8冊分、1400ページもあったがNUMMIでは100ページに満たない小冊子である。

 

C.オーライリー、J.フェイファーがまとめたNUMMIの成功理由を以下抜粋します。

  • 信頼を培うには、完全にオープンな経営スタイルが必須であり、データ主導の意思決定が経営スタイルになっていなくてはならない。
  • NUMMIの管理者と従業員は、終わりなきカイゼンの追及をしている。彼らは、その過程を「精神の再生」という。「精神の再生」とは、ある管理者の言葉だが、従業員たちが成功に慢心することなく、いきいきとカイゼンに励むことができるように、新しい方法を発見することである。
  • NUMMIの成功は、レイオフから始まる大きなモチベーションの再生ではなく、むしろはるかに微細で微妙な活動の一貫した積み重ねである。それは、工場内の人間関係の特色を成す信頼、敬意、不断のカイゼンを重視する価値観、またこうした価値観をあらゆる業務体系や経営ルールに反映させるときの首尾一貫した態度や姿勢にある。
  • 徹底した言行一致の整合性が、従業員の選考や教育訓練の方法、報酬などの待遇の方法、監督の仕方に歴然と反映されている。
  • そしてこの整合性を実現させるために、経営陣が組織運営の基本原理を明確に持ち、それを体現している。他の会社がNUMMIを真似ようとしても、この基本理念・原理を持っていない経営陣の下ではうまくいかない。

 

根底の哲学や価値観がしっかりと根付いていて、このような価値観を生きるのだという信念がない限り、NUMMIに限らず企業経営はうまくいかないし、持続性のある成功は望めないものなのです。組織文化の変革は、「変革のWAY」といわれるような根底の哲学や価値観にもとづく経営陣や管理者・従業員の生き方があってこそ成功するのです。運営のノウハウだけに焦点を絞ると、根底に潜む真の成功の理由を見逃してしまいます。

参考文献「隠れた人材価値;C.オーライリー、J.フェイファー」