• 組織文化とOD⑯:植え付けのメカニズム④~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-214~

組織文化とOD⑯:植え付けのメカニズム④~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-214~

組織文化の植え付けのメカニズムでは、2次的メカニズムとしている6番目から10番目の項目を見ていくことにしましょう。改めて、以下に示します。

  1. 組織のデザインと機構
  2. 組織のシステムと手続き
  3. 物理的空間や建物の設計(オフィス・レイアウト)
  4. 重要なイベントや人物に関する物語、伝説、神話
  5. 組織の倫理規定、設立趣意書、価値観などについての公式な表明/文書

 

10番目を見て、がっかり来るリーダーもいるのではないかと思います。倫理規定、設立趣意書、価値観などについての公式な表明/文書は組織文化の植え付けにあまり役に立っていないのです。ただしこれは、特に1番から5番と整合性がない場合であり、倫理規定、設立趣意書、価値観などについての公式な表明/文書を明確にしても「しょうがない」ということではありません。例えばSONYの設立趣意書は、井深さんの基本理念であると同時に、SONYにとって長らくその体を表すものとなっていました。平井改革においてもこれだけは変わっていないようです。

組織の倫理規定や価値観について気を付けなくてはならないのは、これらは創業者や強力なリーダーが考え実践していること、あるいは文化の一部、そして公にするに相応しい部分だけであるということです。つまりは、組織の基本的考え方として発表するのに役立つと考えた側面だけが書かれているのです。最近でいえばSDGsなどはその典型でしょう。ですから、一部上場企業の倫理規定や価値観は、ほとんど変わり映えばしないのです。いずれにしても、この5つが2次的メカニズムとなっているのは、これらが作用するのが、すでに見てきた1次的メカニズムと整合性を持っている場合に限られるからです。整合性ということについて、以下、筆者のキャリアをスタートさせた会社を例にとって事例紹介的に見ていくことにします。

この会社は、業界で初めて営業部隊をつくったこともあり、営業活動を非常に重視していました。そして、この営業活動と密接に関係していたのが、「1社からの100万より、10社で100万」という考え方です。これは、顧客を分散させるという考えです。大口1社があれば安定的・効率的に仕事ができ良さそうに思えますが、現実はそう簡単なことではなく、その1社からの発注が止まれば会社の経営はたちまち困窮してしまいます。従って、少々営業コストが掛かっても「1社からの100万より、10社で100万」だったのです。営業拠点も大マーケットである東京に集中させずに、創業期より地方主要都市に営業拠点を置いていました。また、営業担当者がコンサルタントの人数より多かったのも特徴的です。一般的には、コンサルタントが10人いれば、営業は2~3名というような感覚ではないでしょうか。この会社は逆で、コンサルタントの1.5倍程度の営業担当者を雇用していました。また、営業担当者は将来のコンサルタント見習いでもあり、コンサルタントは自社育成を基本としていました。

地方営業所の作りと言えば、営業担当が4人程度で、出納や資料管理という支援業務を担当する女性が一人というのが標準でした。来客用のテーブルや応接室はありません。なぜかといえば、営業は顧客のところに行って面談しているのが生産的な時間であり、営業所にたむろしているのは生産的ではないという考えがあったからです。営業所は、居心地が悪いくらいがちょうどよいとも言っていました。当時の最高経営責任者である社長は、以前ある大手家電メーカーの代理店の経営幹部をやっていたのですが、営業不振でその会社の清算を経験しています。このような組織づくりになっていたのは、その体験によるところが大きかったと思います。

組織のシステムと手続きについても毎日管理が大事だといっていて、現に25日締め日などという締め日を決めるようなことはするなと言っていました。要するに、仕事が終わったらすぐに請求書を出して代金回収をしろということです。こうすることで、キャッシュフローを良くするのです。言いたいことは、この会社のやり方がベストであるということではなく、言っていること(1次的メカニズム)と、やっていること(2次的メカニズム)が同じというのがとても重要なのです。こうすることで、社員は自分達のやり方を顧客であるクライアントにそのまま説明することができました。書き出すと切りがないのでこの辺りで私の経験は終了としますが、みなさんの会社においてはどうでしょうか。Eシャインが言うように、10の植え付けメカニズムが一貫したものになっているでしょうか。それとも、点でばらばらで、意味わからない、となっていないでしょうか。特に2次的メカニズムの項目は、他社がやっているとか、最近注目されている経営理論であり我が社も取り入れてみようと、流行に流されるようなものになっていないでしょうか。10項目の整合性は、その歴史的背景を含めて、よくよく考えてみる必要があります。次回から、いよいよ組織文化の変革に言及していきます。(続く)

参考文献 「組織文化とリーダーシップ;E.H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。