• 組織文化とOD⑫:文化はどのように形成されるのか④~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-210~

組織文化とOD⑫:文化はどのように形成されるのか④~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-210~

文化はどのように形成されるのかの最後は、学習理論から見た組織文化の成り立ちです。学習されるものは行動様式のパターンだけでなく、認知や感情も含まれます。集団の成員は多くの異なった形の不安を経験する能力があるので、学習や防衛という行動は多くのレベルで起こります。そして、文化は一つの不安を減らす一方で、往々にして別のタイプの不安を増やすのです。それはどういうことか、シャインが主張する2つの学習メカニズムを見ていくことにしましょう。

 

①積極的問題解決の状況

積極的問題解決の状況とは、目標の達成あるいは感じている欠乏を満たすということを目的とする「やりがいがある」学習です。問題を解決することに対して、何が効き目を持っているかを発見したら、その何かは積極的に強化され、同一の問題が起これば、繰り返し活用されます。解決は、行動であったり、問題に対する知覚、思考の態様であったり、一連の感情または信念、世の中に対する仮説であることもあります。いずれにしても、これら各種の反応は、問題解決に役立ったならば、それ以降、積極的に強化されることになります。例えば、ある会社が組織的な問題解決にプロジェクト・チームを活用しうまく問題解決をすれば、その後その会社は部門をまたがる組織的な問題解決には、プロジェクト・チームという組織仮定、すなわち一時的制度(プロジェクト・チーム)によって複雑な恒久的組織問題が解決できるという仮定がその会社の流儀(文化)として導入されることになったりします。この場合の問題は、一時的な対応であった解決方法が、長期にわたって固執されることです。例えば、ある会社は業績が悪化した時に、大々的に営業中心の市場攻略キャンペーンを実施し、それが功を奏して業績回復に寄与した場合、次に業績が思わしくない場合にも、再び営業キャンペーンを実施するということです。しかしこのようなある意味「安定した繰り返しの選択」は、業績が悪化する原因が他にもあるかも知れないということを深く検討することを排除してしまいます。

 

②苦痛と不安の軽減

苦痛と不安の軽減とは、回避学習といえます。ここでの強化は、苦痛の軽減に成功した結果であるか、もしくは苦痛の前に感じる不安が軽減されたことの結果です。不安回避は、不安の源が分からない場合は、回避行動について明確な焦点を定めることが不可能であるため、行き当たりばったりの試行錯誤を強いられます。また、回避学習は、往々にして一回限りの試行による学習となりがちです。回避行動がうまくいくと、苦痛がなくなった後も、際限なくその行動が繰り返されることになります。例えば、一度ある製品導入に失敗した会社は、その後そのような製品導入をしなくなるというようなことです。この解決は、組織がもう一度それを試してみない限り、「当社はその分野では無能だ」という暗黙的仮定が正しいかどうか判定できません。ところが、市場が変わったり、新人が入ってきたりしてその製品分野に挑戦しようとしても、痛い思いをしたグループが実権を握っていれば、その組織が再挑戦を容認することは期待薄でしょう。回避学習によって習得した信念や仮定は、現実には以前に経験あるいは感じた苦痛の原因がなくなった後も極めて安定した選択として続いていきます。

 

別の例として、積極的問題解決メカニズムと回避学習メカニズムがもたらす「安定」について、シャインは以下のような説明をしています。

①A社はかつて、宣伝予算を増やせば売り上げが上がるという(積極)学習をしたとします。このような場合は、宣伝が売り上げを増やすという関係が成り立たなくなった場合は、その事実に気づくことは容易いでしょう。つまり、売り上げが増えないことは、その理由が何であれ目に見える結果となって現れます。しかし、この会社は宣伝予算を増やすことが売り上げを増やすということを積極的に学習した経験により、やはり宣伝予算を増やすという「安定した行動」を選択することになりやすいのです。

②B社はかつて、宣伝予算が足りなかったために重要顧客を競争相手に奪われたことから、宣伝予算を増やさなくてはならないというような(回避)学習をした場合、B社は宣伝予算を削ろうという提案をするたびに不安になり、十分な予算を確保することで「安全にやろう」とするでしょう。

 

この例で見て分かるように、A社とB社は、宣伝予算を増やすあるいは多く使うという選択は同じですが、そのきっかけは異なるのです。しかし、どちらもその行動を変えられないのです。個人の場合は、不安軽減のために学習された行動様式は「防衛メカニズム」と呼ばれますが、集団についても同じように「社会的防衛メカニズム」があると考えてよいでしょう。例えば、イギリスのタビストック研究所は、ものごとを変革するにあたり、その組織(職業)が選択してきた技術(テクニカルな領域)と人々の心理的安定についての関係をさまざまに調査しています。これはソシオ-テクニカルシステムと呼ばれます。それによると、技術的な変更を迫ることは、当事者に対して、それまでのやり方で学んできた関係性や心理的安定に対して不安や苦痛を引き起こすこと、つまり社会的防衛メカニズムが働くことが明らかになっています。私たちが、特定組織の文化を診断するにあたり、どのような不安に対してどのような対処メカニズムを学習してきたのかを知ることはとても重要だということですね。

参考文献 「組織文化とリーダーシップ;E.H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。