• 組織文化とOD⑪:文化はどのように形成されるのか③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-209~

組織文化とOD⑪:文化はどのように形成されるのか③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-209~

組織文化の成り立ちを考える上で、リーダーシップは欠かせない視点です。その組織の創業者や中興の祖と言われる人たちの言動は、組織文化を形成する強い原動力です。シャインは、「経営」または「業務執行」と対比したリーダーシップの固有の機能は、文化の創造と管理だと明言しているくらいです。そして一度文化が創造されると、その文化から大幅な拘束を受け、集団を新しい創造的な道へ導くことができなくなったと感じることもあります。創造の力と拘束の力の複雑な相互作用は、リーダーの心の中でも集団内部でも同様に働きます。潜在的に衝突するこれらの力を解決することは、リーダーシップの中核的任務になります。

シャインは、また数あるリーダーシップ理論とは別に、リーダーの情緒面に注目しています。リーダーに限らず、人は自分の情緒的偏向に敏感であるとは限りません。むしろ、そのことについて自覚がないといった方が良いでしょう。これがリーダーの場合、それはリーダー個人の問題に留まらず、集団に影響を与えてしまうのでとても厄介です。しかも、ひとたび危機に陥ると、どう対処すればよいか分からなくなる事が多きものです。例えば、あるリーダーは、自信と自己中心的な性質ゆえに、部下に依頼心を煽ってしまうことがあります。それは、リーダーは無意識に部下に対して自分自身に依存してしまうように仕向けているのですが、リーダー自身は部下が依存してしまうことを嫌悪してしまうというような状態です。そして、リーダーはそのような状態に対して対処する用意ができているとはいえません。このリーダーが、部下を失望させ、闘争か逃避という反応に追いやってしまったならば、リーダーは部下の怒りや抵抗に狼狽するかもしれません。この状況はODメディアでたびたび取り上げているビヨンの言うところのノンワークビヘイビアの状態です。

こうした状態は、以下の2つの理由から起こるといわれます。一つは、強力なリーダーの権威について抱いている部下/メンバーの幻想をリーダーとして満たすことができない。二つ目は、リーダーは不可避的に、部下/メンバーから受動的・依存的反応以上の主体的行動を期待するが、期待に反した行動があった場合は、もっと独立心を持って行動するよう部下を督励する。このリーダーの行動は、むしろ部下/メンバーを一層不安にさせ、混乱させる。部下/メンバーは脅せば脅すほど対抗してしまうのです。

いやー、この状態って「独裁者」が犯す罠ですね。独裁者の部下は、彼の「自信と自己中心的な性質」にうまくお付き合いしていかなくてはならないですね。周恩来は、これがとても上手かったんでしょうね。失脚しませんでしたからね。日本では、昔から心あるリーダーは「坐禅」や「茶」に親しんでいますが、それは自分の情緒的側面と向き合い、それをコントロールする術を身に付ける修行をしていたのでしょうね。とはいっても、坐禅やマインドフルネスにご利益を求めてはいけないのですけどね。ただただ座る「只管打坐;道元」がとても重要です。

話をシャインに戻します。リーダーの精神力学的体質の研究によって明らかにされていることですが、リーダーの防衛的偏向は、究極的に組織をして「神経症的」な組織体質を生むことがあります。どういう状態かというと、内部や外部で起こっていることを正確に評価できず、部分的なデータや幻想に基づいて行動するような状態(ザレズニック他:組織文化とリーダーシップP219~P220)です。この神経症的状態についての類型を見てみましょう。

①偏執狂的スタイル

他人への広範な猜疑心と不信にもとづき、行きつく先は、諜報活動・統制活動への没頭・中央集権・戦略展開に際しての反動的基調・外と内の両方に対する強い警戒心・シニシズムや保守主義および過度の慎重さが支配する風土

②強迫観念スタイル

不測の事態のなすがままとなり、あるいは、コントロールが効かない事態への恐怖にもとづき、行きつく先は、細かなことへの強迫観念的没頭・完璧主義・儀式化され形式化された統制と手続きの重視・公式的政策・支配と服従の風土

③劇的スタイル

人の注意を惹こうとし、重きをなす人々を強く印象付けようとする法外な欲求にもとづき、行きつく先は、ナルシスト的没頭・過度の情緒表出・活動と興奮への願望・他人の徹底的利用・表面的でしばしば勇敢な意思決定・大きなリスクを冒す傾向・絶え間ない計画変更を野放しにする取り巻き・曖昧さの支配する風土

④意気消沈スタイル

希望喪失の感情と自信の欠如にもとづき、行きつく先は、宿命論的受動性・極端な保守主義・環境の中で最も安定しもっとも脅威の少ない部分に適応しようとする。一般的にリーダーシップは欠落しており、組織が見舞われる不運に対して罪の意識と自己叱責がある。

⑤二重人格スタイル

世の中は満足という点で大した期待はかけられないし、ほとんどの試みは、結局は効果がないという気持ちにもとづき、行きつく先は、人から離れた超然とした態度・リーダーシップが欠けた状態である。リーダーは、リードもしないし権限移譲もしない。ただ人から離れ、集団から疎外されていると感じ、結果的に起こる政治的闘争をなるがままに放置する。組織は、なんとなく発作的に動いていく。

 

いやはや、リーダーの神経症的傾向モデルを見て、身につまされる人もいらっしゃるのではないでしょうか。リーダーの影響は大きいのです。(続く)

参考文献 「組織文化とリーダーシップ;E.H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。