• 組織文化とOD⑩:文化はどのように形成されるのか②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-208~

組織文化とOD⑩:文化はどのように形成されるのか②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-208~

社会力学理論では「集団に対する個人の欲求」だけではなく、「個々の対応スタイル」の違いによる文化の違いについても理解しておく必要があります。シャインが取り上げているのは、一つは「個人の情緒的対応スタイル」、もう一つはマイヤーズブリックス・タイプインディケーター(以下、MBTI)として知られる「認知スタイル」モデルです。以下簡単に紹介します。

 

【情緒的対応スタイルモデル:ウォレン、1963】

ウォレンによれば、人は誰しも攻撃と愛という感情を処理する上で基本的問題を抱えているといいます。この問題に対する対応には3つの基本的タイプがあるといいます。

 

1不屈の戦士型(タフバトラー)

攻撃を仕掛け、時には敵意を表す。売られた喧嘩は買うが、愛や情けを表すことは苦手である。他者を強いか弱いか、力があるか無いか、勝てるか負けるかという視点で見る。愛情表現は苦手である。暖かさ、配慮、客観性、謙虚さを学ぶ必要があ

2友好的援助型(フレンドリーヘルパー)

情けを受けたり与えたりすることはできるが、敵対的関係や攻撃を避ける。喧嘩は避けて助け合っていこうとする。見放されること、敵意を持ってみられること、過度な葛藤や衝突は避けようとする。強さ、自己主張、確固たる態度、曖昧にしないことを学ぶ必要がある。

3論理的思考型(ロジカルシンカー)

愛や情けも、怒りや敵意も感情的な側面を避けようとする。起こっていることの理由や理屈を探す。非合理な行動、愛憎の感情に押し流されることを避けようとする。他者を論理性や正確さで納得させようとする。感情への気づき、闘ったり愛したりする感情的エネルギーの大切さを学ぶ必要がある。

 

情緒的スタイルは、グループがコンセンサスに苦労している場合、その理由を理解することに役立ちます。ウォレンによれば、人はどうしても一つのスタイルに固執することが多く、他のスタイルには脅威を感じるといいます。詳しくは「組織文化とリーダーシップ;E.H.シャイン、P194~P201」を参照してください。

 

【認知スタイルの違い】

MBTIの基となる考え方はユングです。MBTIは、個人がどう世界を認識し、物事への決定を下すかについての心理学的な選好を示すことを目的とした、内観的な自己申告型診断テストです。被験者は、外向型・内向型、感覚型・直観型、思考型・感情型、判断型・認知型の4つの二分法を掛け合わせた16の性格類型に分類されます。MBTIには批判的な見解もありますが、認知スタイルを知るうえで参考になります。

 

組織開発が人々の関係性を取り扱うということを重視しているという点からは、グループにおける社会的関係性を分析するモデルを理解しておくことが役に立ちます。この点でビオン理論は外せない理論です。

【グループにおける社会力学的視点】

ビオン理論はODメディアでもたびたび取り上げていますが、改めて掲載します。

  • ビオン理論は集団の無意識層に焦点をあてた理論である。
  • 集団は常に、課題を意識的にうまくやろうとする「意識的に仕事をしていく側面(work-mentality):A領域」と、周囲との関係性を気にして、時に「幻想に怯えたり不安を感じたりして仕事をしている側面(basic assumption-mentality):B領域」がある。
  • A領域とB領域が分かれている場合、集団は生産的な行動を取ることができるが、A領域とB領域が重なると、集団は不安や恐れを解消しようとする行動に忙しく、生産性を落としてしまう。そしてこの不安や恐れを解消しようとする行動(集団としての防衛行動)は無意識的に出てくるので、当事者が意識的に是正しようとしても難しい。
  • 不安や恐れを解消しようとする行動は、これが強くなると典型的に以下の3つの行動に現れる。
    • リーダーの権威が強大な場合、集団はリーダーに対する依存という関係をつくる。特に、服従的な存在を示す集団では、カリスマ性や野心や能力の強い個人が集団の指導者になろうとして活発な権力闘争を始める。
    • 権力闘争の段階に入ると、主流派(リーダーに依存する派)と傍流派(リーダーに反依存する派)に分かれ、主流派は傍流派を叩こうとし、傍流派はそこから逃げようとする。これを「闘争・逃避」状態という。
    • 闘争・逃避は、これに疲れた人たちが現リーダーとは別の信頼できる人を探し、それそれぞれが結束する分派行動に発展する。リーダー自身もこの渦の中にいて、自分で自分の行動を統制できない。そして、集団はリーダーを亡き者にし、新しいリーダーを求める。

 

シャインはこれら以外にも、文化形成を理解する幾つかの社会力学的視点の理論を紹介しています。OD実践者としては、これらの理論モデルを理解しておくことはその組織の状態を理解する上でとても役に立ちます。

参考文献 「組織文化とリーダーシップ;E.H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。