• 組織文化とOD➅:外部課題への適応②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-204~

組織文化とOD➅:外部課題への適応②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-204~

前回までのODメディアで、測定基準についての合意まで触れてきました。測定をするということは、引き続き測定結果に基づき「手段の修正」が為される必要があります。しかし修正は、思っているほどたやすいことばかりではありません。以下、シャインの分析に沿って、国際難民救済組織に関する事例の続きから見ていくことにします。

『成果をどのように判定するかの、組織階層間の認識のズレ(寄付金の額か、手続きをした難民の数か)は、組織運営に重大な影響を与える。加えて、この事例では組織の中核的な使命についてすら、基本的な合意が欠けていたのかもしれない。現場の職員は組織の中核的使命を「難民の生存」と考えがちであるのに対して、上層部は「国際難民救済組織そのものの存続」により大きな関心を寄せており、組織の生存は、上層部の認識では、国際連合や支援政府との関係の持ち方によって決まると考えていた。このズレの解決は、上層部が、何が真に組織の中心的な生存課題なのかを現場職員に教え込むか、あるいは合意の欠如が生み出す内部対立を我慢すべきかを決定すべきであった。他方、若い理想主義的な現場職員が、組織として生き残るのは、難民のニーズを満たさない限り無意味であると主張するのも十分理解できる。実際、現場職員はこれを主張した。』

文化の変革を伴うとみられる多くの組織変革のプログラムは、実際には文化の一要素である測定尺度と技術的方法しか取り上げない事が多いものです。しかし、使命、目標、手段、測定と続く一連のプロセス全体に対する深い洞察がなくては、文化の変革はほとんど起こらないかもしれません。アージリスが言うところのダブルループ学習が必要ということですね。では以下、「修正」について見ていきます。

 

  • ⑤修正
    • 外部環境への適応に関する合意についての最後の領域は、途中で変更が必要になったときに、何を(what)、どのようにすべきか(how)に関することです。組織が目標通りに進んでいないという情報が表面化した時、どのようなプロセスで問題が分析され、改善策が打ち出されるのでしょうか。企業の復活や沈没の事例は、修正に対する多くの示唆を与えてくれますが、ここではシャインの事例に沿って修正プロセスの課題を見ていくことにします。
      • A社では、修正が必要である場合、組織のあらゆるレベルの人による広く開かれた議論や討議を通じた診断が行われる。議論や討議の後、しばしば自己修正的な行動がとられる。それは、人々が、自分が貢献できる問題を認識するからである。
      • B社では、悪いニュースが上部に伝わるのを最小限にするため、末端で改善策を実行に移す。しかし、企業全体の問題に発展した場合は、経営トップは、しばしばタスクフォースや特別の手続きを使って形式的な診断を行う。いったん診断が行われ善後策が決定されれば、その決定は正式に様々な手段で組織全体に伝えられる。
    • これらのプロセスは、ある分野に限定されるものではなく、会社の意思決定スタイルとして現れます。例えば、できるだけ早く成長することを好むのか、押さえ気味の成長率にするのか、あるいは早く利益を回収し急拡大に伴う投資リスクを減らすのか、スタイルは様々です。

 

修正というプロセスで特に重要なことは、組織の存続を脅かすような悪いニュースや情報に対する組織の対応です。しばしば、存続の危機に直面した組織は、自らの深層にある仮定や価値は本当に何かを発見することがあります。以前のODメディアで紹介した伊那食品工業塚越寛氏(現最高顧問)の事例を見てみましょう。

『ピンチでもっとも思い出深いのは、私がこの会社に入って15年ほどたった頃。粗末な設備のせいで社員が仕事中に重傷を負うという事故が起きてしまったのです。安全を確保するためには、最新設備の導入が必要でした。しかし、それは大変高価で、当時の会社の体力では簡単に買えません。といって、危険な労働環境をそのままにして社員を働かせるわけにもいかない。進退きわまり、一時は会社をたたむことさえ考えました。最終的に「もっとも社員を幸せにできる道はなにか」という原点に立ち返り、どうにかして資金を調達。清水の舞台から飛び降りるつもりで設備投資をしました。でも、フタを開けると予想以上に仕事が順調にいき、すぐに借金が減りました。どういうことかというと、社員たちの士気が高まり、以前よりやる気を出してくれたからです。どれだけすばらしい機械もカタログに記載された能力しか期待できません。しかし、人間が本当にやる気を出せば、2倍、3倍もの力を発揮するんです。このときの設備投資は、社員の安全を確保しなければならないという一心からでした。このできごとから「社員がもっと快適に、もっと幸せになるためという動機で動き出すことが大事だ」との想いが深まりました。動機が純粋であれば仕事はうまくいく、というのが私の実感です。一方で、ブームに乗っかるなどの安易な経営は結果的に会社を苦しませます。ですから、寒天ブームが起きたとき、私はすぐに社員を集め、「これは会社にとって最大の危機になるかもしれない」と訴えました。』

伊那食品工業の「いい会社をつくりましょう」という何の変哲もない経営理念の背景には、このような物語があるのですね。シャインも言うように、危機への対応は文化の形成をもたらし、すでに構築された文化の意味合いを明らかにします。次回からは、組織文化の内部統合機能について見ていきます。(続く)

  • 参考文献 「組織文化とリーダーシップ;H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。